「迷い女」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|丸茂敏子

「迷い女」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|丸茂敏子

著者:丸茂敏子 2012年2月に文芸社から出版

迷い女の主要登場人物

千束澪(せんぞくみお)
ヒロイン。ブティック店員をしているために着る物は派手。典型的な日本人体形にコンプレックスがある。

千束望(せんぞくのぞみ)
澪の兄。幼い頃から犬や猫が好きで獣医師の道に進む。

杉原健司(すぎはらけんじ)
澪の元夫。学生時代は頼られるリーダーだったが少しずつ落ちぶれていく。

大地聡史(おおちさとし)
人物画をメインに創作に励む。人を見た目で判断しない。

ヤミオ(やみお)
本名も素性も不明。願い事をかなえる不思議な力を持つ。

迷い女 の簡単なあらすじ

杉原健司との短い結婚生活に失敗した千束澪、その原因をルックスやスタイルのせいだと思い込んでいます。

そんな彼女の目の前にある日突然に現れたのは謎の人物「ヤミオ」、授けてくれたのは好きな時に姿形を変えることができる能力です。

杉原への未練をスッパリと断ち切った澪は変身能力に頼ることを辞めて、新しい恋にチャレンジしていくのでした。

迷い女 の起承転結

【起】迷い女 のあらすじ①

夜を歩く女

千束澪の両親が交通事故で亡くなったのは高校生の時で、親代わりとなってくれた祖母も肺炎であっけなくこの世を去りました。

赤坂にあるマンションを相続していたために学費にも不安はなく、大学の山岳同好会がきっかで付き合うようになったのは杉原健司。

常にサークルの中心にいた彼は1年早く卒業をして、一部上場のL商社への内定を勝ち取ります。

澪の方は青山にある高級ブランド「ブティック千里」に勤めるようになり、この機会に籍だけ入れて結婚式は挙げていません。

お店のローテーションが忙しいためにすれ違いが多くなり、健司が別の女性とのあいだに子どもをつくってしまったのが結婚3年目の時です。

マンションまで乗り込んできたのは唯一の肉親である望、妹を食い物にしていると罵声を浴びせたために健司は離れていきました。

神奈川県茅ケ崎市で動物クリニックを開業した望とは、この件がきっかけで仲互いをしてしまいます。

ひとりになった澪は心にぽっかりと空いた穴を埋めるために、夜な夜な町をさ迷い歩く毎日です。

【承】迷い女 のあらすじ②

闇から差し伸べられたひと筋の光

世の中のあらゆるものに嫌気がさしていた夜、六本木周辺をウロウロとしていたはずの澪はいつの間にか神社の外れの薄明かりに吸い寄せられていました。

声をかけてきたのは頭から黒い布をスッポリと被っている男性、名前を教えてくれないためにこちらで勝手に「ヤミオ」と呼ぶことに。

何でも相談にのってくれるという言葉に半信半疑ながらも、澪はかわいい顔と豊満な体つきにしてほしいと頼みます。

左の耳の裏を右手で強くねじるだけ、効力は1日に3時間、ここで交わした会話を他の人にバラさないこと。

気がつくと辺りはいつもの六本木で、ヤミオの姿はどこにも見当たりません。

言われたとおりの「オマジナイ」をしてみると、ショーウインドーに映っているのは抜群のプロポーションを誇り外国人のように彫りの深い女。

身長は155センチ弱、バストはAカップと貧素、色黒で胴長短足、一重のひとみにぺちゃんこの鼻… お世辞にも美人と言われたことのない澪とは、似ても似つきません。

山岳同好会のOB会が近々開催されることを思い出したため、この手を使ってひと泡を吹かせてやるつもりです。

【転】迷い女 のあらすじ③

求心力を失った男と魂を焼き付ける男

有楽町にあるAホテルへとやってきた当日、会場で出席者の熱いまなざしを一身に浴びているのは美女と化した澪。

特に男性陣はその素性が気になっているようですが、ワイングラスを片手に近づいてきた杉原健司にさえ見破られていません。

その健司といえば勤め先は以前の一流商社ではなく中堅どころの広告代理店、頭髪もすっかり薄くなっていて後頭部の地肌が透けているほどに。

会の終わりにコッソリと尾行してみると、派手なネオンが立ち並ぶラブホテル街に女の子と消えていきます。

澪がクローゼットに閉まってあった古い日記を破り捨てたのは、今度こそ過去と決別しようと心に誓ったからです。

街に出るだけで多種多様なスカウトを受けるようになった澪、銀座通りにある小さな画廊「かすみ」にブラリと立ち寄った際にモデルをしてみることに。

スケッチブックを見てみると素人目にもすばらしい美人画でしたが、描いた本人は納得がいっていない様子です。

絵に魂が入っていないという言葉にひかれた澪、「大地聡史」とプリントされた名刺を手掛かりに鎌倉市内まで訪ねてみます。

【結】迷い女 のあらすじ④

真実の美しさを求めて1歩踏み出す

鎌倉駅から自動車で走ること7分、郊外に入ると程なく小高い丘へ、その丘に沿って建ち並んでいるのは古いお屋敷ばかり。

その中でも特に立派な門構えなのが大地聡史のアトリエで、ところ狭しとキャンパスが立て掛けてありました。

興奮の面持ちで絵筆を動かしていく大地、その前には澪が素顔のままでイスに腰かけています。

絵の具が乾くのを待って裏にサインを入れた大地、命の鼓動が聞こえてくると自画自賛です。

ようやく肩の荷が降りたような気持ちになった澪は、これからもモデルに協力すると約束してからアトリエを後にしました。

夜空を仰ぎながら歩いているといつかのボンヤリとしたランプが、怪しげなマントを被って相変わらず年齢が不詳のヤミオ。

今日を限りに偽りの美女は辞めて正直に生きることを宣言した澪は、ヤミオに関する記憶の全てを消してもらいます。

目が覚めると見慣れたマンションのベッドの上、無意識のうちに左耳を触っていましたが何も起こりません。

長い眠りから解放されたことを確信した澪は、ありのままの自分を愛してくれる男性の待つ鎌倉へと向かうのでした。

迷い女 を読んだ読書感想

若くして父親と母親に降りかかる悲劇、祖母との死別に見舞われた主人公の千束澪ですがそれほど悲壮感はありません。

そびえ立つタワーマンションでセレブリティなひとり暮らし、身に付けるものも最先端のモードファッションとすっかり都会に溶け込んでいますね。

そんな彼女が外見だけを着飾ることからなかなか抜け出せずに、ずいぶん前に別れた夫にも未練がたらたらな様子がもどかしいです。

占い師とも魔術師とも判断が不能な怪人物、ヤミオが登場する急展開には驚かされます。

今の時代にはびこるルッキズムを、痛烈に吹き飛ばしていくかのようなラストも痛快でした。

コメント