「真昼の花火」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|吉村昭

「真昼の花火」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|吉村昭

著者:吉村昭 2010年2月に河出書房新社から出版

真昼の花火の主要登場人物

志宮(しみや)
主人公。実家は綿花業だが人工繊維メーカーに就職。斬新なアイデアと造語を次々と思いつく。

水野(みずの)
志宮の上司。手柄はすべて自分のものにして他人をとことん利用する。

浦田喜久子(うらたきくこ)
志宮の先輩。服装は派手で異性関係も奔放。

曾我(そが)
志宮の父の同業者。口数は少ないが組合活動には熱心。

真昼の花火 の簡単なあらすじ

貧しく閉鎖的な田舎町に見切りを付けた志宮が就職したのは東京の大手繊維企業、宣伝マンとして活躍をしているとやり手の幹部・水野の目に留まります。

一大プロジェクトの一端を担うほどになりましたが、結果として家業を誠実に続けてきた父や地元の人たちを苦しめることに。

水野から責任を押し付けられ、志宮は九州地方へ左遷させられるのでした。

真昼の花火 の起承転結

【起】真昼の花火 のあらすじ①

綿ぼこりと露地の町から輝くオフィスビルへ

小さな工場と再生資源回収業者がひしめきあい、放水路に囲まれた土地で志宮は生まれ育ちました。

荒縄で縛った古綿をタイコ型の機械に投入して、平たくなった綿を包装して出荷することで志宮家は生計を立てています。

ほこりと騒音の中での終日の重労働、労災と火災の危険と隣り合わせの中でも低賃金。

同業の中には資本を蓄積して寝具店を兼営している人たちもいましたが、父も母も一向に豊かになる気配は見られません。

中学校にあがる頃には志宮は家の手伝いを一切しなくなり、2階の部屋に閉じこもって勉強に励むばかりです。

決定的だったのは母親がぜんそくから狭心症を誘発して、あっけなく息を引き取った1月のある日。

まだ喪も明けきらない春先に、父は30歳以上年下の女性と再婚をしました。

高校を卒業した志宮が内定をもらったのは「Fレイヨン」、真っ白なビルの重なり合った都心の駅近くに構えるのは広々としたオフィス。

私鉄沿線にできたばかりのアパートに部屋を借りて次の日の朝に目覚めると、自分を取り巻く世界が一変したことを確信します。

【承】真昼の花火 のあらすじ②

布団革命の立役者に嫉妬のまなざし

天然の綿花ではなく人造繊維を布団の中に使う、Fレイヨンが発表したのは寝具の観念を根底からひっくり返ってしまう企てでした。

新聞・週刊誌の見開き、ラジオ・テレビのスポットCM、国電・地下鉄・都電全線の車内広告… 大衆が抱いていた綿のわたに対する強い執着心を打ち崩すことができたのは、メディアを利用して展示会の公示をした志宮の功績が大きかったからでしょう。

宣伝担当係だった志宮を自身の部署に転属させたのは、寝具課長の水野です。

仕事の内容もデパートや小売店に客足を引き付けることから、いかにして消費者の財布のひもを緩めて商品を買わせるのかに変わっていきます。

若くして重要なポストを与えられた志宮、当然ながら課内の同僚たちからはあまり良く思われていません。

いつしか孤立するようになっていた志宮に声をかけてくれたのは、2〜3ほど年上でカメラマンをしている浦田喜久子。

男は踏み台にされるだけ、女は食い物にされるだけ。

部長に事情を話せば以前の宣伝課に戻してもらえるそうですが、今さら引き返す訳にはいきません。

【転】真昼の花火 のあらすじ③

飛ぶ鳥を落とす郷里からの刺客

綿花製わたの2分の1の軽さ、保温性に優れていてほこりも立たない、湿気を呼ばずに丸洗いも可能、わずらわしい打ち直しも不要… 志宮が作り上げたキャッチフレーズはあらゆる媒体を通して休みなく流れていき、離島や山奥にまで島のように飛んでいきます。

東海道線にある下請けの工場では巨大なネオンを架設中で、真昼でも花火のように点灯する予定です。

製綿業組合の理事長がFレイヨンの会議室にまで押し掛けてきたのは、大阪と名古屋に加えて4つの政令指定都市でも販売が決まった夏の真っ盛り。

古くなった綿を柔らかくする「打ち直し」は個人経営のふとん屋にとって貴重な収入源で、例の宣伝文が営業妨害に当たるとのこと。

理事長の取り巻きの中には支部で会計係をしている曾我という男性がいて、毎月の組合費を徴収するために志宮の家にも出入りしていました。

志宮の顔に気が付いた曾我でしたが、この場で波乱を巻き起こすことを防ぐために沈黙を貫いてくれます。

次の日の朝刊に打ち直し業者に宛てた謝罪を掲載するくらいしか、志宮にできることはありません。

【結】真昼の花火 のあらすじ④

燃え立つ偽りの火

三行広告欄に組み込まれた謝罪文は1字1句を水野の言う通りにしましたが、専務の目にとまって大ごとになってしまいました。

志宮に辞令が出たのは2日後、任地は福岡県にある小さな支社で漁業用の網を製造する閑職。

水野には特にこれといった処分は下っていないようで、「秋の洋風ふとん祭り」と銘打ったイベントの準備で慌ただしそうにしています。

出発の日まで脱け殻のようにデスクの前に座っている志宮には、誰も話し掛けようとはしません。

刑事らしきふたりの男性が訪ねてきたのは、引き継ぎが終わっていよいよ最後となった出社の日。

前日の夕方に浦田喜久子がラッシュアワーのフォームから電車に飛び込んで、担架で運ばれたとのこと。

水野が喜久子と不倫をしていたことを知っていた志宮、一瞬だけここで全てをぶちまけてしまうことが頭によぎります。

水野の頭脳と話術をもってすれば警察の捜査も及ばず、例によって志宮にその罪を擦り付けてしまうでしょう。

あきらめて東京駅発の寝台列車に乗り込んだ志宮が車窓から外を眺めると、全面点灯されたネオンが「洋、風、ふ、と、ん」の順番で流れていくのでした。

真昼の花火 を読んだ読書感想

町中に細い水路が張り巡らされて霧が立ち込める風景、粗末なトタン屋根と汚れた板で構成された家並み。

主人公の志宮が自らの生家を、老朽化した小舟のように感じてしまうのも無理はありません。

来る日も来る日も綿と糸にまみれて汗を流す父と母にあっさりと別れを告げて、都会で快適な暮らしを送るようになった彼に罪悪感はあったのでしょうか。

就職先で成果を挙げれば挙げるほど、出世をするればするほど故郷へ恩を仇で返すことになるのが何とも皮肉ですね。

美しくも薄幸のヒロイン、浦田喜久子の予告どおりに「食いもの」にされてしまうラストも衝撃的でした。

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