著者:近藤史恵 2012年6月に朝日新聞出版から出版
シフォン・リボン・シフォンの主要登場人物
水橋かなえ(みずはしかなえ)
ヒロイン。教育一家に生まれたがアパレル関係に進む。身に付ける物にこだわり自分の心と体を大切にする。
水橋由美香(みずはしゆみか)
かなえの義理の妹。家事に介護に献身的。
福島美保子(ふくしまみほこ)
かなえの高校時代のクラスメート。旧家に嫁いで現在は市原姓。
市原(いちはら)
美保子の義母。記憶が裕福だった頃のままで止まっている。
春香(はるか)
かなえのお店の店員。平凡な短大生だが大きな目標がある。
シフォン・リボン・シフォン の簡単なあらすじ
都会で自分の下着ショップを開いた水橋かなえでしたが、やっかいな病気を患って手術を受けたために故郷に帰ることにします。
さまざまなお客さんの悩み事を解決していくうちに、うまくいっていなかった母親とも打ち解けていくことに。
新しいアルバイト・春香を雇うほどにゆとりが出てきたかなえは、彼女の夢を後押しすることを決意するのでした。
シフォン・リボン・シフォン の起承転結
【起】シフォン・リボン・シフォン のあらすじ①
祖父は地方都市・川巻の小学校の校長、父親は教育委員会の役員、母親も中学校で国語を担当。
当然のように教員になるかと思われていた水橋かなえが反旗を翻したのは、大学の卒業旅行でハワイに行ってからです。
偶然にも立ちよったお土産屋さんで見たのは華やかなスリップ、シフォンの飾りがフワフワと舞っているようで帰国後も頭の中から離れません。
東京郊外のファッションビルの中に小さなフロアを借りると、オリジナルのナイティを販売しました。
雑誌に紹介されたことがきっかけで遠方から電話で注文を受けるようになった頃、脇に近い部分にしこりを感じます。
人間ドックでのマンモグラフィと医師の触診の結果は乳ガン、ただちに左乳房とリンパ節を切除する必要があるとのこと。
退院後に乳ガン患者専用のカップとプロテーゼを装着しましたが、今までのように長時間の勤務には耐えられません。
東京のお店を雇われ店長に任せたかなえは、川巻の駅前商店街の空き店舗で通販業務に専念することにしました。
【承】シフォン・リボン・シフォン のあらすじ②
インターネット通販が軌道に乗ってきて実店舗での対面販売も見通しがたち、店名は「シフォン・リボン・シフォン」に決めました。
市原という女性がやって来たのはある日のお昼時、フランス製のブラジャーを手に取るとピアノでパリに留学していた時の思い出話を延々と聞かされます。
支払いはクレジットカードで裏側に記載されている名義人はイチハラミホコ、半月ほどたった頃に返品しにやってきたのがその美保子。
かなえとは高校生の頃に同じクラスだったために話は早く、市原は夫の母親で初期の認知症だそうです。
かつてはこの辺り一帯の土地を所有していた市原家が傾き出したのは、当主がよそに愛人をつくって散財するようになった頃から。
アパート経営でも入居者とのトラブルが絶えず、不動産投資に失敗してからは家に現金がありません。
勝手に美保子のカードを持ち出しては買い物をしているようで、間もなく介護施設に入居するとのこと。
「介護」と聞いた途端にかなえも憂うつな気持ちになってしまい、人ごとではありません。
【転】シフォン・リボン・シフォン のあらすじ③
幼い頃にかなえがスケッチブックにデザイン画を描いていると、母に取り上げられて勉強するように叱られていました。
かなえが教育大に不合格になった時、家を出て上京した時、ランジェリーショップを開いた時。
ことごとく親の期待を裏切る我が子が過労で倒れて入院した時には、「天罰」だと決めつけます。
その言葉が許せないかなえは縁を切るつもりでしたが、間に入ってくれたのは弟の浩樹と妻・由美香です。
数年前にくも膜下出血を発症した母は命に別条はありませんでしたが、左半身には重度のマヒが残ることに。
専業主婦である由美香が同居して面倒をみていましたが、いつまでも任せっきりにする訳にはいきません。
久しぶりに実家に帰ったかなえは、新発売のパジャマをプレゼントしました。
くすんだピンクは母が大好きな色、レースやリボンなど締め付けるものはなく片手でも楽に着脱できるでしょう。
派手だと文句をいいつつも優しい肌ざわりは気にいってもらえたようで、穏やかな寝顔を浮かべています。
【結】シフォン・リボン・シフォン のあらすじ④
シフォン・アンド・リボンはドアを開けて店内に入るスタイルのためシャッターを上げ下げする必要はなく、開店準備は「オープン」の札をかけるだけで済みます。
なるべく敷居を低く設定しつつ、フィッティングルームなどプライベートな空間も用意していました。
男性誌のグラビアカメラマンやアダルトビデオの撮影隊までまれにやってきますが、メインのターゲットではありません。
ときどきショーウインドウの前で立ち止まって熱心に眺めている、春香のような女の子なら大歓迎です。
接客からレジ係、発注までひとりでしているかなえ、昼食は客足が途絶えた時間帯を見計らっておにぎりや菓子パンを口に押し込むだけ。
この前の検診でガンの再発の心配はないと主治医からお墨付きをもらっていましたが、いずれは体を壊してしまうでしょう。
店頭にバイト募集の張り紙をすると真っ先に面接にきたのが春香、近くの短大に通っているがゆくゆくは服飾の仕事に就いて自分の店を持ちたいとのこと。
夢はそう簡単にはかなわないことを知りつつも、明るく元気な性格にひかれたかなえは彼女を採用して店番をお願いするのでした。
シフォン・リボン・シフォン を読んだ読書感想
祖父から両親まで先生ぞろいの家系に生まれた主人公の水橋かなえにとっては、家全体が教室のような息苦しさを感じていたのでしょう。
そんなかなえが夢中になっていくのが、シンプルなストッキングや手の込んだ細工が施されたショーツ。
あくまでも自分自身をシェイプアップして勇気づけるためのアクセサリーで、異性の目線を意識している訳ではありません。
好きなことを職業にしてビジネスも順風満帆だった矢先に、予期せぬアクシデントに見舞われてしまう展開には胸が痛みます。
転んでもただでは起きない彼女のたくましさと、次の世代への期待感がふくらんでいくラストが感動的です。
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