著者:今村夏子 2019年2月にKADOKAWAから出版
父と私の桜尾通り商店街の主要登場人物
村尾ゆうこ(むらおゆうこ)
ヒロイン。ばくぜんと家業を手伝ってきた。他にやりたいこともなく行きたい場所もない。
父(ちち)
ゆうこを男手ひとつで育ててきた。組合での人間関係や立ち回りが苦手。
彼女(かのじょ)
父の同業者。マーケティングや新商品開発に熱心。
宮村陽太郎(みやむらようたろう)
ゆうこの小学校時代のクラスメート。優しい性格だが小動物が苦手。
吉田めぐみ(よしだめぐみ)
ゆうこの幼なじみで旧姓は岡本。口が悪くよく騒ぐ。
父と私の桜尾通り商店街 の簡単なあらすじ
地元の商店街からつま弾きにされてしまった父とふたりで、村尾ゆうこは小さなパン屋を切り盛りしています。
突如としてお店の客足が伸びてきたのは、競合店をオープンさせるためにこの地に引っ越してきた女性のアドバイスのおかげです。
心身ともに限界を感じていた父は郷里に帰りたいようですが、ゆうこは強引に商売を続けることを決めるのでした。
父と私の桜尾通り商店街 の起承転結
【起】父と私の桜尾通り商店街 のあらすじ①
岡山県津山市で生まれ育った村尾ゆうこの父は、縁もゆかりもない桜尾通り商店街で「村尾ベーカリー」を営んでいました。
ゆうこが3歳の時に母が理事長と不倫をした揚げ句に駆け落ちをしてしまい、父は責任を取る形で振興組合を抜けます。
バーベキュー大会にクリスマス会、半年に1回の日帰りバスツアーに年末の温泉旅行… 毎年季節ごと開催される行事には一切声がかからなくなり、隔月で発行されている「さくらお通り通信」も村尾家のポストには配布されません。
小学校に進学したゆうこも後ろ指をさされることが多くなりましたが、ただひとり酒屋の息子である陽太郎だけは常連客です。
タイミングが悪く1匹のネズミが店に迷い込んできたのは、陽太郎がパンを買いにきてくれた時。
悲鳴をあげて外に飛び出していった陽太郎、たまたまその場を布団屋の娘でゆうこと同い年の岡本めぐみに目撃されてしまいました。
めぐみが尾ひれをつけて「ネズミの店」と言い触らしたために、いよいよ売り上げが落ち込んできます。
【承】父と私の桜尾通り商店街 のあらすじ②
久しぶりに津山市に帰ってみると90歳になる祖母が、左手で三毛猫の背中をなでつつ右手で自分の足をさすっていました。
通いのヘルパーの話によるとむくみのせいで歩くのも困難で、熱心に耕していた畑にも手をつけず一日中猫と遊んでいるとのこと。
このまま放ったらかしにしておくと認知症も進行して、いずれは寝たきりで24時間体制の介護が必要になってしまうでしょう。
この機会に村尾ベーカリーをたたんで祖母の世話をすることを考えはじめた父でしたが、小麦粉もバターもたっぷりと残っています。
材料を使いきるまでを「カウントダウン営業」と銘打って、コツコツと売れないパンを焼き続けるだけです。
相当に年期の入ったオーブンはすぐに故障する上に、父は何度も休憩をはさむので作業は一向にはかどりません。
少しずつ失くなっていく砂糖や塩、ひとつまたひとつと棚から消えていく定番メニュー。
とうとうお店にはコッペパンしか並ばなくなったある日のこと、ゆうこの前に見知らぬ女性が現れました。
【転】父と私の桜尾通り商店街 のあらすじ③
代金80円をゆうこの手のひらにそっと置いた彼女、小麦粉の風味がよかったという感想でしたがコッペパンの中には何も入っていません。
包丁で切り開いてジャムとマーガリンをて試食してもらうと、ますます美味しくなったと喜んでくれました。
未開封のはちみつ、もらい物のピーナッツバター、夕飯の残りのシチュー、朝食用のケチャップとウインナー… 思いつくままにサンドイッチにしたゆうこは、次の日に彼女が来店するのをカウンターで待ち続けます。
腰のまがったおばあさんはイチゴジャムを、3日に1度は買いにくる青年は目玉焼きを。
お客さんからのリクエストをきいているうちに売り切れてしまいましたが、最後まで彼女は顔を見せてくれません。
次の日からは開店と同時に大にぎわいで、親しげに話し掛けてきたのは「岡本ふとん」の店主です。
結婚して吉田姓に変わっためぐみも近いうちにつれてくるそうで、あのネズミの1件などすっかり忘れてしまったのでしょう。
明日は何を挟もうかと考えていると、入り口のところで彼女が深々と頭を下げています。
【結】父と私の桜尾通り商店街 のあらすじ④
つい先日に取り壊しとなった「宮村酒店」、その跡地を買い取った彼女が出店計画を立てていることを打ち明けました。
長年にわたって住民から愛されてきたパン屋さんについて気になっていた彼女は、ついついスパイのまね事をしてしまったとのこと。
駅前の横断歩道を渡ったすぐ先にあるのが彼女の新店舗、ひたすら西に向かって歩くといちばん外れのところにあるのが村尾ベーカリー。
父の店が「愛されていた」かは大いに疑問が残るところですが、今後はかなりのお客が立地的に恵まれた新店舗の方に流れていくでしょう。
資金も底をつきかけて年齢的に体がついていかないと泣き言ばかりな父の腕を引っ張って、ゆうこは表へと連れ出します。
商店街の入り口にはプラスチック製のしだれ桜が飾られていて、看板に描かれているのは「ようこそ桜尾通りへ」というメッセージです。
アーケードに設置されたアーチを見上げたゆうこは、無数の花びらが自分たちを歓迎していることを確信するのでした。
父と私の桜尾通り商店街 を読んだ読書感想
開店休業中のお店がズラリと軒を連ねて閑古鳥がなく、そんな寂れた地方都市の商店街が思い浮かんできました。
よりによってこんな人間関係がややこしそうな土地柄で、駆け落ちという離れ業をやってのけた村尾一家の母親は相当に破天荒だったのでしょう。
残されたひとり娘でもありこの物語の主人公である村尾ゆうこが、ごくごく常識的で冒険心もないというのが皮肉ですね。
そんな彼女の退屈な日常を動かすことになるのが、シンプルな形とオーソドックスな味のコッペパン。
ひと工夫を加えるだけで見た目も魅力的になり、食べ手応えも申し分はありません。
スカスカだった父と娘の親子関係も、熱く力強い絆へと生まれ変わることを祈るばかりです。
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