「クラウドガール」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|金原ひとみ

「クラウドガール」

著者:金原ひとみ 2017年1月に朝日新聞出版から出版

クラウドガールの主要登場人物

中城杏(なかしろあん)
十六歳。可愛らしく奔放な女子高生。

中城理有(なかしろりう)
杏の姉。女子大生。小さなころから家事を手伝い、妹の面倒を見てきた。

中城ユリカ(なかしろゆりか)
作家。杏と理有の母親。すでに亡くなっている。

晴臣(はるおみ)
十七歳。杏の恋人。病気のため留年して、杏と同じ学年。

奥原光也(おくはらこうや)
二十五歳。カフェでバイトする青年。

クラウドガール の簡単なあらすじ

女子高生の杏と、女子大生の理宇は、亡くなった女流作家、中城ユリカの娘です。

母亡きあと、ふたりはマンションで暮らしていました。

杏はひどい浮気性の恋人と、別れたりくっついたりをくり返しています。

そんなとき、まじめな性格の理宇に、久しぶりに恋人ができました。

しかし、姉妹の関係は徐々に破局へと向かっていくのです……。

クラウドガール の起承転結

【起】クラウドガール のあらすじ①

杏と理有

杏は、女の子と歩いていた恋人の晴臣になぐりかかり、こてんぱんにやっつけます。

晴臣はこれまで何度も浮気してきました。

今日も、杏の友だちが、晴臣が女の子といるのを写真に撮って杏に送ってくれたので、成敗しにきたのでした。

杏と晴臣は警察で事情を訊かれます。

杏のほうは、母が亡くなっており、身元引受人がいません。

晴臣のほうは、母のマネージャーの中野が、晴臣を引き取りにきました。

晴臣の母は女優の長岡真理なのです。

杏も中野の車に乗せられて帰ることになりました。

杏がマンションに帰ってみると、半年間マレーシアに留学していた姉の理有が、もどってきていました。

嬉しくて、杏は姉といっしょの部屋で寝たのでした。

翌日、理有は、昔から行きつけの美容院で、なじみのボブカットにしてもらいます。

そのあとカフェに入ってみると、そこには、亡き母が好きだったベスティのぬいぐるみが置いてありました。

それはウェイターのアルバイトをしている光也が、オーナーである叔母からもらったものでした。

後日、理有は光也と食事をすることになります。

光也は二十五歳。

高校を中退して引きこもるも、その後、大学まで出た人です。

彼は大学三年のとき、ベスティのぬいぐるみを伴って外へ出ました。

すると、他人から不気味に思われ、同調を求められなくなって、救われたのでした。

理有は思います、こうして会っているうちに、自分は光也のことを好きになっていくだろう、と。

【承】クラウドガール のあらすじ②

母にまつわること

杏は晴臣に会いたくないので登校拒否していたのですが、理有に促されて、六日ぶりに学校へ行きます。

学校では、晴臣がひた謝りに謝って、結局杏は彼を許すのでした。

その過程で、杏は母の死んだときのことを思いだします。

母は小説家で、最後のころはアル中でした。

父とはそれ以前に離婚しています。

ある夜、杏は物音を聞いて、姉の理有とふたりで母の部屋に入りました。

母は首を掻き切って自殺していました。

理有は母が助からないとみて、見なかったことにしよう、と言います。

やがて、母の具合が悪いと連絡を受けていた祖父母がやってきました。

彼らは、母が急性心筋梗塞で死んだことにして、すべてを片づけたのでした。

さて、杏が再び晴臣と付き合い始めた一方で、理有はおめかしして、光也の働いているお店に行きます。

おしゃべりして、いい感じになります。

そこへ、オーナーである叔母がやってきて、光也が一時引っ込みます。

理有が、作家中城ユリカの娘であることを知った叔母は、光也がユリカの本を持っていることを教えます。

とたんに、理有は吐き気がして、店をあとにするのでした。

その夜、理有は、美容室の店長の広岡に、突然呼び出され、出かけていきます。

【転】クラウドガール のあらすじ③

暗い影が差してきて

杏は姉に幸せになってもらいたいと思っています。

姉に男の影を敏感に感じた杏は、相手が美容師の広岡ではないかと疑い、調査のため、晴臣とともに彼の美容院へ行きます。

偽名で入店し、広岡に髪を整えてもらいながら、あれこれと聞き出そうとします。

その会話のなかで、夢について尋ねられました。

自分の夢は理有とママと三人で仲よくすることだと思うのですが、それは永遠にかないません。

そう思ったら、パニック障害を起こし、広岡に介抱される羽目になったのでした。

それでも懲りず、杏は姉の彼氏を見るために、晴臣と杏、理有と光也の四人で会うことにします。

そこで光也のあまりの普通ぶりにがっかりする杏でした。

男たちがそれなりにおしゃべりで盛り上がる一方で、理有は不機嫌になります。

杏は、それまで依存していた大好きな姉から見放されたような気分になるのでした。

杏は晴臣の部屋に入りびたりになります。

晴臣は、結婚してずっといっしょに暮らそう、と言ってくれます。

ところがある日、晴臣の部屋で、彼が別の女の子といっしょにベッドに入っているのを見つけ、杏は別れる決心をするのでした。

【結】クラウドガール のあらすじ④

意外な真相

四人で会った日以来、理有は杏と連絡がつきません。

しかたなく、母の三回忌の墓参りは、杏を除いて、理有と祖父母で行きました。

するとそこには母の担当編集者だった高橋がきていました。

高橋は理有に、中城ユリカは自殺だったのではないか、と訊きます。

理有はそれを否定しました。

マンションに帰ってみると、杏が広岡といっしょにベッドに入っていました。

その子はまだ十六歳だと、理有は広岡をなじります。

広岡は、誘われただけ、と平然としています。

理有は、自分と杏はしっかりと手を取り合って生きてきたはずなのに、と、ショックを受けたのでした。

一方、杏は、広岡と話をするうちに、亡き母が、彼の固定客だったことを知ります。

そして姉が、母が生きていたころから、父方の姓を名乗って、広岡の客となり、「母はもう亡くなった」と言っていたことを知ります。

広岡は、面倒はいやだと言いつつも、これからも杏が会いたければ会うようなそぶりです。

晴臣からは、なんども電話がきました。

杏は、やっと晴臣と手を切ることができると安堵しています。

やがて、理有が帰ってきました。

ふたりは、すっかりおかしくなってしまった自分たちの人生のことを話します。

杏から、母親の自殺を理宇が隠そうとした、と言われますが、理有には身に覚えがありません。

そして杏は、離婚した父親がもう亡くなっているのに、理有はそれを受けいれることができないでいる、となじります。

ふたりはなにもかも、どこかで食い違っているのでした。

クラウドガール を読んだ読書感想

読んで感じたのは、文章がとても平易で読みやすい、ということと、登場人物の造形がとてもとがっている、ということでした。

文章については、若い姉妹の一人称であり、使われている言葉が彼女たちの守備範囲だということを意識して書かれているせいかな、と思います。

つまり、女子高生や女子大生がそんなに難解な言葉を使わないだろう、という考えで書かれているので、平易な文章になったのだろうと思うのです。

次に、人物の造形ですが、つまりは人間の普通でなさがうまく描かれている、ということです。

主人公の姉妹ふたりは、亡くなった母親にとらわれており、半分病んでいるような状態です。

杏の恋人の晴臣は浮気症でどうしようもないゲス男として描かれています。

美容師の広岡も、謎の魅力をたたえた中年男だと思っていたら、簡単に女子高生と寝るようなゲスぶりです。

そういった普通でない人間が絡み合うことで、普通でない物語が作られているように感じました。

なかなかにおもしろい作品でした。

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