「明日の子供たち」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|有川浩

「明日の子供たち」

著者:有川浩 2014年8月に幻冬舎から出版

明日の子供たちの主要登場人物

三田村慎平(みたむらしんぺい)
本作の主人公。テレビで見たドキュメント番組に感動して児童養護施設「明日の家」に転職する

和泉和恵(いずみかずえ)
三田村慎平の指導役。「明日の家」に就職して3年目。

猪俣吉行(いのまたよしゆき)
「明日の家」の職員。以前は和泉和恵の指導役だった

福原政子(ふくはらまさこ)
「明日の家」の施設長。温厚でおおらかな性格。

谷村奏子(たにむらかなこ)
和泉和恵の受け持ち児童の一人。高校2年生。

明日の子供たち の簡単なあらすじ

テレビで見たドキュメンタリーに感動した三田村慎平は児童養護施設に転職します。

そこで働く大人たちと様々な事情で入所してきた子供たちが繰り広げる暖かくも切ないストーリーがそれぞれの立場から見た形で描かれています。

明日の子供たち の起承転結

【起】明日の子供たち のあらすじ①

心を閉ざす谷村奏子

三田村慎平が出勤初日に児童たちの洗濯物を片付けていると一人の少女が人懐っこく話しかけてきました。

彼女はこの「明日の家」で暮らす高校2年生、谷村奏子でした。

ここに就職した理由を奏子に聞かれ、慎平は「かわいそうな子どもの支えになりたいと思ったから」と答えます。

生活態度も成績も良好で、他の職員との関係も良く、初対面では人懐っこかった奏子ですが、慎平は違和感を覚えます。

施設の他の子供たちは慎平を「慎平ちゃん」とあだ名で呼んでくれるのに、奏子だけは「先生」としか呼んでくれないのです。

無視しているわけではないし表面的には愛想よく接してくるのですが、心の壁を感じるのです。

最初は違和感に目をつぶっていた慎平ですが、ここが「生活の場」である以上、奏子にとって「息苦しい場所」にしてはいけないと、奏子と話し合おうとします。

「大人なんだから割り切りましょう」と奏子は慎平を振り切ろうとしますが、慎平に食い下がられ、彼にいらだちをぶつけます。

「かわいそうな子どもに優しくしてやろうという自己満足にどうして私たちが付き合わなきゃいけないの?ここで暮らしているだけなのに。

私はここに来られて良かったと思っているんだよ!」母子家庭で育った奏子は母親からネグレクトにあい、この「明日の家」に入ったといういきさつがありました。

奏子の気持ちを受け止めた慎平は奏子に謝りました。

その場では素っ気ない態度を取った奏子ですが、翌日「慎平ちゃん」と声をかけ、二人の間の壁は徐々になくなっていくのでした。

【承】明日の子供たち のあらすじ②

猪俣先生の後悔

和泉和恵は大学へ進学を志望する奏子のために奨学金のことを残業して調べていました。

「明日の家」に入所していられるのは高校卒業までです。

親からの支援があてにできない奏子が大学に進学するにはどうしても奨学金が必要なのです。

「明日の家」副施設長の梨田先生が就職を推奨していることもあり、施設に常備してある奨学金の資料はあまりありません。

彼女が就職したばかりのころ、指導役をしていた猪俣先生は「奏子に進学は推奨しない」と言いつつ、個人的に調べた奨学金の資料を和泉に貸します。

「余計な残業でオーバーワークになっているのは見過ごせない」と理由を述べる猪俣先生に和泉は不満を感じるのでした。

 猪俣先生が進学に積極的でないのにはある少女の過去の苦い思い出がありました。

彼女は大学に進学を希望しながら、その費用を理由にためらっていましたが猪俣先生は「なんとかなる」と強く進学を勧めます。

その結果彼女は進学、学生寮に入りましたが風邪をこじらせて入院、学費が払えなくなり中退してしまったのでした。

彼女はスナックで働いていたらしいのですが、連絡が取れなくなってしまいました。

自分が進学を勧めたせいで彼女をつらい目にあわせてしまった…。

そう思った猪俣先生は進学を推奨しなくなったのです。

【転】明日の子供たち のあらすじ③

和泉先生の思い出

「和泉先生はなぜ児童養護施設に就職したのですか?」就職した当初当時の指導役だった猪俣先生に尋ねられた和泉先生は高校生の頃、好きだった男の子のことを話します。

大人っぽくてかっこよくみえた彼と文化祭で同じ係になり、よく喋るようになると話が合いました。

それなりの勝算があって告白しましたがかえってきた言葉は「ごめん」でした。

「俺と和泉は住む世界が違うから。

俺は施設で暮らしているんだ。」

そういう彼に寄り添う気持ちで和泉は「私はそんなこと気にしないよ」と言うのですが、彼は傷ついたような怒ったような顔で答えます。

「ほらな。

やっぱり世界が違うんだよ。」

彼とはそれきり話すことはなくなりました。

 「私と彼と、どう世界が違ったのか知りたくて、わからないまま引き下がりたくなかったんです。」

そう話す和泉に猪俣先生は「違いはわかりましたか?」と問いかけます。

「違いはありませんでした。

知らなかっただけでした。」

和泉は答えました。

「気にしない」という言葉に彼は傷ついたと今ならわかる。

もし、時間を巻き戻せて「わかった。

でも好き」と言っていたらどうなっていただろう。

和泉はそんなことを思うのでした。

【結】明日の子供たち のあらすじ④

明日にむかう子供たち

「明日の家」に入所している平田久志は奏子と同じ高校2年生で成績良好な優等生で担当の指導員は猪俣先生です。

久志は防衛大学校への進学を考えていて、そのため地連(自衛隊地方協力本部の略。

自衛隊への就職相談などを行っている)との交流があり進学や就職の相談に乗ってもらっています。

ある日久志は自衛隊の駐屯地を見学することになり、猪俣先生は和泉先生と三田村先生と一緒に行くことにします。

そこで猪俣先生は思いがけない人物と再会しました。

それは猪俣先生が進学を勧め、中退して行方知れずになっていたあの少女だったのです。

彼女はスナックで自衛隊員に出会い、自衛隊に就職し、かつて中退してしまった大学の夜間部に通っていたのでした。

「中退しちゃったけどもう一度頑張って勉強してみようと思えたのはイノッちのおかげだよ。」

彼女の言葉に猪俣先生は号泣するのでした。

 奏子と久志はショッピングモールで真山という男性に声をかけられます。

彼は「ひだまり」という施設を運営していました。

それは児童養護施設を卒業した子供たちが気軽に「帰って来れる場所」を作ることを目指して設立された施設でした。

二人と一緒に「ひだまり」に出かけた和泉はそこで思わぬ再会を果たします。

そこに現れたのは和泉が高校生の頃好きだった渡会でした。

彼は児童養護施設を出た後、社員寮のある県外の会社に就職し、てんきんで地元に戻ってきていたのでした。

そんな渡会から3人は「ひだまり」が存続の危機にあることを知ります。

行政機関の予算会議で「ひだまり」は無目的な施設であると糾弾されたのです。

「そんな無目的な施設こそ必要なんだ」それを行政に訴えるため、奏子は「こどもフェスティバル」でプレゼンをすることになりました。

「明日の家の子供たちは明日の大人たちです。」

そう訴える奏子の言葉はこどもフェスティバルにきていた県議会議員の心を動かすのでした。

明日の子供たち を読んだ読書感想

この物語は児童養護施設の新入職員である三田村慎平の目線から始まります。

これは児童養護施設にあまりなじみのない読者の目線でもあります。

慎平の気持ちや疑問はそのまま読者の児童養護施設への気持ちや疑問でもあるのです。

目線は三田村慎平の指導役の和泉和恵に移り、更には和泉のかつての指導役、猪俣先生、そして児童養護施設に入所している奏子や久志の目線へと移っていきます。

それにしたがい、読者はどんどんこの物語に引き込まれ部外者から「当事者」目線になっていくのです。

作者、有川浩さんの「ストーリーセラー」ぶりが存分に発揮された作品です。

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