「亀岩奇談」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|又吉栄喜

「亀岩奇談」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|又吉栄喜

著者:又吉栄喜 2021年7月に燦葉出版社から出版

亀岩奇談の主要登場人物

和真(かずま)
主人公。親から土地と財産を受け継いでいるために働いていない。人生を無意味と考えていて結婚欲もない。

咲子(さきこ)
和真の母のまたいとこ。お節介焼きでスピリチュアルな話が好き。

ボス(ぼす)
咲子の上役で本名は不詳。いくつかの事業に失敗していてお金に敏感。

茂(しげる)
和真の祖父で故人。豪傑の血が流れる漁師で性にも奔放だった。

ヨシ(よし)
茂とのあいだに子どもを授かる。日中はおとなしく家庭菜園に精を出す。

亀岩奇談 の簡単なあらすじ

仕事をしていない和真でしたが、不動産収入があるために両親が亡くなった後にも生活には困りません。

母親の遠縁に当たる女性に誘われて移住した先の離島で、セクハラで辞職勧告を受けた前任者の代わりに突如として自治会長の候補として担ぎ出されます。

選挙期間中に祖父とゆかりのある高齢女性と知り合った和真は、政治に興味を失い自然保護に心を引かれていくのでした。

亀岩奇談 の起承転結

【起】亀岩奇談 のあらすじ①

期待のない青年がたどり着いた神秘の島

浦添市内に軍用地を所有して不労所得だけで3000万円ほどあった和真の父親が、高級外車の運転を誤り自損事故死したのは2019年の春先です。

この年の秋には母が病死しましたが、ひとりになってからもパチンコ店の指定席で機械的に玉を弾いているだけで将来に期待していません。

10月に執り行われた葬儀で話し掛けてきたのは咲子、彼女の祖父と和真の曽祖父がきょうだいという間柄に当たります。

本島から60キロ南に位置、濃緑色の海に神秘的なサンゴ礁、福木の木もいっぱい。

母が生まれた赤嶺島という場所について熱心に語っていて、「亀岩」という不思議な岩には母の面影が残っているそうです。

長らく持病の神経性胃炎に悩まされている和真でしたが、環境を変えれば徐々に改善していくでしょう。

家屋敷を不動産業者に管理委託して、1日1往復の定期船で向かったのは2020年3月。

かなりの固定資産税を赤嶺村役場に納めることになるために、財政難にあえいでいた村長からは大歓迎されました。

【承】亀岩奇談 のあらすじ②

汚れなき無欲者が出馬を表面

7期連続当せんの自治会長が港近くの飲み屋でホステスに散財した揚げ句に、役場の女子職員にまで手を出す不祥事を起こしました。

和真のような心が美しい人を待っていたという咲子から、「ボス」とだけ呼ばれている男性を紹介されます。

歴代の保守系の選対委員長を勤めてきましたが、ナイトクラブ経営や養豚で借金を背負っているために自身は選挙戦に私財を差し出すつもりはありません。

人口600人ほどの集落では200万円ほどの資金が必要だそうで、和真は言われるままに農協から貯金をおろして献金しました。

公民館内のホールで行われた「和真君を励ます会」では、オードブルの軽い会食から始まって買い物券や白米などの抽選会まで用意されています。

保守系の県会議員、本土の衆参議員、永田町の沖縄担当大臣… 小物から大物までの祝電が読み上げられる度に、和真の胸の高鳴りは止まりません。

村長のあいさつと国歌斉唱、最後はみんなで奉納舞踊を踊って大盛り上がりです。

【転】亀岩奇談 のあらすじ③

岩肌に刻まれた思い出

初めての立ち会い演説は2本のクワァディーサーが生えた小さな広場で、聴衆は木陰で涼んでいる数人ほどです。

咲子から手渡された原稿を棒読みするだけでしたが、何度も拳を空に突き上げているうちに自分自身を鼓舞しているような気持ちになりました。

お昼時に選対事務所に戻ると咲子とボスは何やら話し込んでいる様子で、和真はひとりで例の亀岩を見に行きます。

うっすらと生えた海浜植物、ギザギザでノコギリ状の岩石、てっぺんには小さなくぼみ。

角度によっては亀の甲羅や頭に見えますが、特別な崇高さや神々しい輝きがある訳ではありません。

いつの間にか側に立っていたのはヨシと名乗る老女、若い頃には和真の母方の祖父・茂とは深い仲だったと打ち明けてきました。

茂の赤ちゃんまで宿したという彼女でしたが、結婚はせずに現在でも村外れの家で暮らしています。

自治会長ではなく亀の精となること、サンゴの海と一体化することこそが和真に与えられた使命… 「亀の精」について和真は母から聞かされたこともあり、漁に出ていた時に潮にまかれた茂の命を救ったそうです。

【結】亀岩奇談 のあらすじ④

ちゅら海に清き1票を投じる

選挙選が佳境に差し掛かってきた時、事務所ではなく和真の家に訪ねてきたボスたちは本当の狙いを明かしました。

赤嶺島には手付かずの自然がいっぱいでしたが、ホテルも民宿もないために中央の役人も大企業の社長も日帰りを余儀なくされています。

定期船の本数を増やして国から多額の保証金を取り付けつつ、海の埋め立て計画には賛成に回って協力金を得るのが目的です。

ヨシは認知症を患っているために、選挙が終わった後に本島のしかるべき病院に入院させるとのこと。

亀の精の話は妄想だと咲子は断言しますが、和真からすると自分を欺いてきたボスの方がよっぽど信頼できません。

公示から7日目の最終日、和真は本部にもいかず自宅に閉じ込もっていて電話にもでません。

投票日当日が近づいてきた夜明け、ようやく外に出た和真が浜辺を歩き回っていると水平線と重なる亀岩を目の当たりにします。

赤嶺の地を踏むこともなく亡くなった母のため、この島の人たちを心から正直にするためにも美しい海を守ることを決意するのでした。

亀岩奇談 を読んだ読書感想

何もしないでも1年間にサラリーマンの年収程度の不労所得は入ってくるという軍用地主、主人公の和真が毎日家でゴロゴロしているのも無理はありません。

その一方では先祖たちがアメリカ軍に銃剣を突き付けられて豊かな畑を奪われたという、歴史的な事実を考えると複雑な気持ちになってしまいますね。

そんな和真の生活が一変するのは母親の死、故郷の離れ小島へと生活の拠点を移してしまうなど思ったよりも行動力はあるようです。

さらには欲望が渦巻く政界へ進出してしまうという急転直下な展開でしたが、あらゆる煩悩から解放されたかのようなラストが圧巻でした。

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