「壺の中にはなにもない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|戌井昭人

「壺の中にはなにもない」

著者:戌井昭人 2020年10月にNHK出版から出版

壺の中にはなにもないの主要登場人物

勝田繁太郎(かつたしげたろう)
主人公。老舗のギャラリー勤務だが完全なコネ入社。自分のペースを尊重し周囲を苛立たせる。

勝田繁松郎(かつた しげまつろう)
繁太郎の祖父。野放図でスケールが大きい。陶芸家としても高名。

蘭(らん)
繁松郎の愛人。銀座の高級クラブを仕切る。

南沢瑶子(みなみざわようこ)
蘭のお店で働く。「ミナミ」の愛称で親しまれ話しやすい。

二瓶次郎(にへいじろう)
繁松郎とは同い年。窯元をしっかりと管理して農業にも精を出す。

壺の中にはなにもない の簡単なあらすじ

大学を卒業しても就職先が見つからない勝田繁太郎に、アートギャラリーの仕事を紹介したのは孫の行く末を心配していた繁松郎です。

多額の損害を与えてお払い箱となった繁太郎ですが、奇妙な発明家夫婦のもとに再就職をして業績を伸ばします。

プライベートでは繁松郎を通じて知り合った女性・南沢瑶子と親しくなり、やがては祖父の工房を受け継ぐのでした。

壺の中にはなにもない の起承転結

【起】壺の中にはなにもない のあらすじ①

ボンボン息子が銀座の夜を初体験

小学校から大学まで一貫の学校で学んだ勝田繁太郎は、競争社会にのみ込まれることもなく育ってきました。

就職活動は全滅でしたが銀座にある「KAMEMATSU」に口利きをしてくれたのが、他の孫よりも繁太郎のことをかわいがっている繁松郎です。

ビルの1階に展示されているのは繁松郎の焼き物で、安いものでも何百万円もの値段がついています。

奥多摩にある檜原村に土地を購入した繁松郎はゆくゆくは繁太郎に後を継がせたいと考えていましたが、当の本人がまるで興味を示しません。

音楽は聴かない、好きな映画もない、本も読まない、テレビもみない、休みの日は寝ているか猫と遊んでいるか。

26歳になっても当然のように女性とお付き合いをしたことがないという繁太郎を、繁松郎は自らがパトロンをしている高級クラブ「ギャランコラン」に連れていきました。

チーフママの蘭は繁松郎のことを「先生」と慕っているために、繁太郎にも人気ナンバーワンのホステス・ミナミをつけて接客してくれます。

「ミナミ」は源氏名で本名は南沢瑶子、昼間は理学療法士の専門学校に通っているそうです。

【承】壺の中にはなにもない のあらすじ②

忘れ形見を割ってご破算

6カ月ぶりに檜原村にやって来た繁松郎ですが、不在のあいだには作業スペースや窯のメンテナンスをしてくれるのが二瓶次郎です。

お昼時になると二瓶は農作業を中断して妻が手作りをしたお弁当を持っていきますが、繁松郎の姿が見当たりません。

山道を30分くらい進みながら探し回っていると、斜面の下に繁松郎が倒れていて地面には熊の足あとが残っていました。

毎朝の恒例にしている散歩中に熊と遭遇して、その場を離れようと後退りをした時に足を踏み外したのでしょう。

繁松郎の葬儀から8日後に職場に復帰した繁太郎ですが、オーナーの亀松や他の社員の態度があからさまに変わっています。

決定的だったのは繁松郎1000万円もする遺作を運んでいる途中で、地面に落としてヒビが入ってしまったことです。

繁太郎は会社からクビを宣告されたうえに、損害賠償を建て替えてくれた母親から10年間にわたって毎月5万円ずつ返済する誓約書にサインさせられました。

しばらくの間は神奈川県茅ケ崎市にある勝田家の別荘でブラブラしていた繁太郎が、求人募集の紙を見て向かったのは「ダルヌル研究所」です。

【転】壺の中にはなにもない のあらすじ③

全国行脚で新境地を開拓

所長はだるまのような体形をしているダル、アシスタントはうなぎのように体が柔らかいヌル。

ふたりは湘南の中学生時代からのクラスメートで、学生結婚をしたあとにこの研究所を立ち上げました。

脈絡のない商品ばかりが載っているカタログを持って、飛び込みでセールスをするのが繁太郎の仕事ですがまるで相手にされません。

神奈川県内ばかりで営業をしていた繁太郎に、ダルは軽ワゴン車で全国を巡ってみるようにアドバイスをしてくれます。

東名高速の先のパーキングエリアではセンサー付きボーリングの球、環状8号線沿いの喫茶店では防犯ブザー内蔵の招き猫、山奥の健康ランドではロケットランチャー型のスピーカー… 行く先々で風変わりな顧客を見つけてユニークな発明品を売り込んだ繁太郎に、ダルは大喜びです。

出張は早めに切り上げてゆっくり観光を楽しんでいいとのことで、繁太郎は車を山形県へと走らせました。

母親の体調が悪くて酒田に帰っているという、ミナミの話を思い出したからです。

【結】壺の中にはなにもない のあらすじ④

祖父の遺志と愛しい人への思いをこね混ぜる

ミナミの実家は明治時代に造られた山居倉庫の近くに居酒屋「くし村酒場」で、普段は両親が切り盛りしていました。

入院中の母に変わって調理場に立つミナミは忙しそうで、繁太郎は声をかけるチャンスがありません。

結局はカウンターで酔いつぶれて寝てしまった繁太郎に、そっとお土産のさくらんぼを差し出してくれます。

二瓶から携帯電話に連絡があったのは、あきる野インターを経由して茅ヶ崎に帰る途中です。

繁松郎の遺品を整理しているという二瓶を手伝うために檜原村に立ち寄ると、入り口の正面の棚に5つの作品が並べてあります。

繁太郎は直感で白い壺を選んで中身をのぞき込むと、底から出てきたのは繁松郎の「正解」というメッセージが書かれた1冊のノートです。

日々のことや食べたもの、見た夢に思ったこと、創作のアイデアから色の出し方、窯の温度調整まで。

村に滞在中は細かなことまでを日記につけていて、作業記録も兼ねているのでしょう。

地下の倉庫から取ってきた粘土をこねていると愛着が湧いてきた繁太郎は、ミナミに陶器でもプレゼントしようかと形を作っていくのでした。

壺の中にはなにもない を読んだ読書感想

当たり前のようにスケジュールを間違える、お得意様を怒らせる、国宝級の陶芸品を粉々に… 都心の一等地にオフィスを構える美術関連の職場に潜り込みながらも、ことごとく失敗をやらかす主人公の勝田繁太郎に笑わされました。

周りの人たちが彼の尻拭いのために右往左往する中で、平然とマイペースを崩さないところは大器晩成タイプなのかもしれません。

そんな繁太郎においしいものを食べさせたり、夜のプレイスポットに誘いだしてしまう繁松郎も豪放で粋なおじいさんです。

20代半ばにして初めてのロマンスに胸をときめかせながらも、最後までミナミさんとは清らかなお付き合いに留めておくところも好感がもてますね。

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