著者:岡本学 2020年7月に講談社から出版
アウア・エイジの主要登場人物
私(わたし)
物語の語り手。大学院で理論数学を専攻していたインテリだが職を転々とする。結婚生活に失敗して妻子とも会う機会がない。
四軒屋智恵(しけんやちえ)
私のバイト先の同僚。通称「ミスミ」。大学を留年中でテレビにも本にも興味がない。
四軒屋明美(しけんやあけみ)
ミスミの母。数学の臨時教員をしながら娘を育てた。
海原(うみはら)
私のバイト先の先輩。寡黙で職人肌。
浅見(あさみ)
ミスミの前任者。受付と売店業務をこなし2本立てのラインアップも考える。
アウア・エイジ の簡単なあらすじ
大学院生の時に映画館で技師のアルバイトをしていた「私」は、「ミスミ」こと四軒屋智恵と一緒に写真の中の鉄塔を探す手伝いをします。
間もなくミスミは殺人事件に巻き込まれて亡くなり、私が再び写真のことを思い出すのは20年後です。
現地まで足を運んで塔を見つけた私は、ミスミの母親が娘に送ったメッセージに気がつくのでした。
アウア・エイジ の起承転結
【起】アウア・エイジ のあらすじ①
私が映写技師のアルバイトを始めたのは大学院に上がった頃で、場所はキャンパスのある地下鉄の駅から神楽坂を下った先です。
ロードショーではなく単館上映を専門とする名画座の2番館で、研修期間は海原という無口な映写技師から教わりました。
創業当時からここで入館窓口と売店を担当していた浅見という年配の従業員が体調を崩して休みが多くなり、私と同年代かと思われる女子大学生かわ代わりに採用されます。
いつも履いている上履きに「ミスミ」と名前が書いてあったことから、本名の四軒屋智恵で彼女を呼ぶ者はいません。
ある時にミスミが上映中に映写室の中に入ってきて、1枚の風景写真を私の目の前に突き付けます。
夕暮れ時の空を背景に赤と白で交互にペイントされた鉄塔を下から見上げるような構図で撮影されていて、外部への電線は1本も出ていないために送電や配電用ではないでしょう。
写真の余白にはミスミの母親・明美の筆跡で、かすかに読み取れる程度に「our age」と書かれています。
どこにある鉄塔なのか教えてほしいと頼まれましたが、私には見当も付きません。
【承】アウア・エイジ のあらすじ②
それ以来ミスミは休憩時間やお客さんが少ない時を見計らって映写室に顔を出すようになり、身の上話を打ち明けてきました。
医学博士の父が幼少期に家を出ていったこと、教師をしていた明美もミスミが大学に入る前に不摂生が原因で亡くなったこと。
映写機の故障や客入りが悪い時には当日の朝になって館長が休館が決め、従業員も解散となり暇を持て余したふたりは山手線をひたすら回って例の塔を探しに行きます。
手がかりは明美が口にしていた「サンブ」と「ナルト」というふたつの地名と、塔の足元に店を構えるカレーライスがおいしいという食堂だけです。
捜索エリアを広げて川崎周辺の工業地帯を走る電車を選んでみましたが塔は見つからず、「our age」は私たちにとって宿題のように残ります。
就職活動が始まるために私は1年でアルバイトを辞めで、5年後に映画館に寄ってみました。
以前と同じように働いている海原が差し出したのは、留年を重ねて何とか大学を卒業したミスミが交際相手に首を絞められて殺害されたことを報じる新聞記事です。
【転】アウア・エイジ のあらすじ③
平凡なサラリーマンとして10年間を過ごした私は、逃げ出すように何度も転職を繰り返していま現在では郊外の小さな大学の教員に収まっていました。
40代に入ると何をするにも面倒になり、ぼんやりとしていることが多いです。
大学の事務室に届いた絵はがきによるとあの古いタイプの映写機の「お別れ会」を開催するそうで、私は20年ぶりに映画館を訪れます。
鉄塔はあの頃のまま映写室の壁に貼り付いていて、写真をそっとはがして胸のポケットの中に入れましたが招待客は誰も私に注意を払っていません。
研究室を受け持っている私は時おり卒業グループから同窓会に誘われることがあり、今回の開催地は千葉県の九十九里浜で一軒家を借りきってバーベキューです。
九十九里からの帰り道、私は山武市から松尾駅に行くバスルートに気がつきました。
松尾駅の隣は成東駅、サンブは山武、ナルトは成東… 成東には四軒屋という老舗のしょう油屋がありましたが、明美が医学博士と結婚をしたのを期に畳んだようで店はありません。
【結】アウア・エイジ のあらすじ④
学生の就職先を世話することも私の業務のひとつで、ある時期がくると企業へのあいさつ回りをしなければなりません。
東京郊外にある電機系企業の訪問を終えて敷地の門を出た時に、エレベーターの試験運転をするための実験塔を目撃しました。
北八王子駅の東口から歩道橋を渡って直線道路を歩くと、目の前にあの写真と同じ塔が立っています。
ミスミが母親に連れられて行った大衆食堂も、改札口を出た反対側で今でもまだ営業中です。
カレーライスは具材が形を失うまで煮込んである黒い色ですが、1度口に入れてみるとスプーンが止まりません。
ただひとつだけ残った「our age」の謎が判明したのは、ポケットに入れておいた写真が風に飛ばされて砂まみれになった時です。
砂の汚れで消えかけていた文字が浮かび上がってきて、ルーペで拡大してみると「our」の前に「enc」があります。
「our age」ではなく「encourage」、私たちの時代ではなく誰かを勇気づけること。
母親とその娘の長い2本だての映画を見終わったような気持ちになった私は、この勇気を次の世代に伝えることを決意するのでした。
アウア・エイジ を読んだ読書感想
サークルの仲間たちがひと足先に社会人になって去っていき、取り残されたような大学院生のアルバイトから幕を開けていきます。
映写室にこもって20分に1回フィルムの交換をすればいいだけで、弁当を食べても持ち込んだ内職をしても構わないというお気楽な職場ですね。
風変わりな同僚の中でも特に目をひくミスミは、スクリーンから飛び出してきた女優のようで魅力的なヒロインでした。
自分はいつか殺される女だとつぶやいていた通りに、若くしてこの世を去っていくミスミの姿が忘れられません。
悲運の母と娘の遺志を受け取った主人公が、小さな一歩を踏み出していくラストが感動的です。
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