「女であるだけで」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|ソル・ケー・モオ

「女であるだけで」

著者:ソル・ケー・モオ 2020年2月に国書刊行会から出版

女であるだけでの主要登場人物

オノリーナ・カデナ・ガルシーア(おのりーな・かでな・がるしーあ)
ヒロイン。観光客を相手に民芸品やアクセサリー類を売る。女性としてもマイノリティとしても生きづらさを抱いている。

フロレンシオ・コタ(ふろれんしお・こた)
オノリーナの夫。14歳で酒の味を覚えてから職と住みかを転々とする。弁舌に長けて支配欲が強い。

エリーアス(えりーあす)
オノリーナの長男。弟のトマシートとともに寄宿舎から学校に通う。父を反面教師として読み書きを習う。

デリア・ガスティージョ・ガルマ(でりあ・がすてぃーじょ・がるま)
オノリーナの弁護人。名門の法律家の家系に生まれた若手のホープ。

アントニオ・カスティージョ・イ・シルベイラ(あんとにお・かすてぃーじょ・い・しるべいら)
デリアの父。金持ちの顧客向けに法律事務所を開いている。

女であるだけで の簡単なあらすじ

オノリーナ・カデナ・ガルシーアはわずかばかりの金銭と引き換えに、フロレンシオという男性と強制的に結婚させられます。

日常的に虐待を受けていたオノリーナは自分とふたりの子どもを守るために夫を殺害し、裁判でくだされた刑は懲役20年です。

弁護士のデリアの働きかけによって世論が州知事を動かし、オノリーナは恩赦を勝ち取り自由の身となるのでした。

女であるだけで の起承転結

【起】女であるだけで のあらすじ①

エリートコースを外れてわき道を行く

メキシコ南部チアパス州の有名な大学の法学部に入学したデリア・ガスティージョ・ガルマは、数年後に学位を取得して弁護士になりました。

父親のアントニオや祖父も有名な法律家でしたが、事務所に出入りしているのは富裕層の人たちばかりです。

何ひとつ不自由なく育ったデリアでしたが、26歳になった今でも心は一向に満たされません。

そんな時に人権委員会の訪問員のポストがひとつだけ空いていたために、迷わず申請書に自分の名前を書きました。

父の弁護士事務所で働くよりも給料ははるかに少なく、不満を抱えている人たちの話を聞いて調査するのは大変ですがやりがいを感じていきます。

ある時に地方紙を読んでいたデリアが見つけたのは、赤い大見出しでセンセーショナルに報じた1件の殺人事件です。

容疑者はマヤ語族・ツォツィルの女性でオノリーナ・カデナ・ガルシーア、被害者は彼女の夫でフロレンシオ・コタ、場所はユカタン半島のシュトルヒ村に隣接する高原地帯。

オノリーナの母国語はツォツィル語で、現地では法律用語を満足に話せる通訳もいません。

なぜ彼女が犯罪に手を染めたのか知りたいデリアは、さっそく次の日に会いに行きます。

【承】女であるだけで のあらすじ②

女として母として苦難の人生

言語の違いから接見には時間がかかりましたが、デリアは辛抱強くオノリーナの生い立ちから現在までを聞き出していきます。

母親が早くに亡くなって父親は何年も外に仕事に行っていたこと、4人の兄がいて生活が苦しかったこと、ある日突然に父がフロレンシオから400ペソを受け取って「取引」を成立させたこと。

生まれ育った村から始めて外に出てバスに乗ったオノリーナに、フロレンシオは妻ではなく「所有物」になることを要求してきます。

一日中お酒を飲んでいるフロレンシオから毎日のように暴力を振るわれるようになり、6回の妊娠のうち出産を済ませることができたのは2回だけです。

エリーアスとトマシートを授かった後もフロレンシオの酒癖は治らず、仕事仲間を相手に売春を強要されるようになりました。

ついには激しい雷雨の夜に農作業用の長いなた・マチェテで切りつけようとしたフロレンシオに、ヤシの葉を切る時に使うナイフでオノリーナが反撃したのが事件の真相です。

【転】女であるだけで のあらすじ③

迷路のように入り組んだ司法のシステム

検察庁の調査はなかなか捗らないままで、司法による手続きも煩雑で裁判が始まるまでにかなりの時間がかかっていました。

村の留置場からチアパス州の警察に身柄を引き渡されるまで、オノリーナは何ひとつ不満の声を上げようとはしません。

マヤ語を話すことができる国選弁護人が州弁護士会から通訳として送られてきて、デリアがオノリーナの弁護団の代表に就任します。

フロレンシオ殺害の罪状に対してオノリーナに20年の禁固刑を言い渡したのは、法曹界でも実直で学識が豊かだと評判の裁判官ガスパル・アルクーディア・カブレラです。

検察庁が尋問をもとに作成された調書に目を軽く目を通して不備がないことを確認したガスパルでしたが、オノリーナがツォツィル先住民であることだけが書類に記載されていません。

この裁判を見守った多くの傍聴人や国内外のメディアから、先住民の人権が司法の現場で無視されているのではないかという疑惑が浮かび上がったのは数カ月後のことです。

【結】女であるだけで のあらすじ④

手に入れた自由と旅立ちの時

州の刑務所に収監されたオノリーナは午前中は延々とハンモックを作る作業に追われていましたが、午後からは社会復帰訓練施設に向かいます。

施設内の小さな図書館から文学書や古い新聞を借りて熱心に読書に励んでいると、自分にも存在する価値があるように思えて来ました。

判決が確定した後もデリアは政府の代表者から市民団体の関係者に働きかけて資金を集めて回り、オノリーナの救済を諦めていません。

チアパス州の知事に働きかけてようやく恩赦が認められたのは、事件が発生してから5年の歳月が流れた3月最後の週の金曜日です。

書類にサインして服役中の労働でたまった2300ペソの入ったナイロン袋を受け取ると、オノリーナはしばらくカスティージョ家に身を寄せます。

このままデリアの家のお手伝いさんになっても自分のアシスタントになってもいいという提案を、オノリーナは受けるつもりはありません。

州政府の保護の下で学んでいるエリーアスとトマシートの学期が終わるのを待って、オノリーナは3人で生まれ故郷へと旅立っていくのでした。

女であるだけで を読んだ読書感想

司法制度の矛盾や理不尽な人種差別など、多様な人種や言語が共存共栄を模索しているメキシコ社会のリアルな一面を捉えていました。

奴隷のような結婚生活を強いられた揚げ句に、罪を犯してしまった主人公・オノリーナの苦悩が伝わってきます。

裕福な家庭と豊かな才能に恵まれて生まれながらに弁護士としての将来が約束されながらも、あえて険しい道へと突き進んでいくデリアはもうひとりのヒロインと言えるでしょう。

お互いの違いを乗りこえて強い絆によって結ばれたふたりの女性たちが下した決断と、それぞれの第2の人生を応援したくなりました。

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