「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|高山羽根子

「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」

著者:高山羽根子 2019年7月に集英社から出版

カム・ギャザー・ラウンド・ピープルの主要登場人物

シバ(しば)
ヒロイン。ミッションスクールの出身でルックスにコンプレックスがある。給料は安く結婚する予定もない。

ニシダ(にしだ)
シバのクラスメート。「チャイカ」の愛称で有名な運動家。高校の頃は会話が苦手だった。

カンベ(かんべ)
スナック「ハクチョウ」のオーナー。おばが道楽でやっていた店を受け継ぐ。自分の趣味を全面に押し出す。

サイトー(さいとー)
カンベの共同経営者。ウェブサイトの製作も請け負っているために多忙。

イズミ(いずみ)
「ハクチョウ」のアルバイト店員。映像の専門学校出身で自分で映画も撮る。

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル の簡単なあらすじ

幼い頃から変質者のターゲットになっていたシバは、自身の外見に劣等感を抱いています。

社会人になったシバが高校時代に仲の良かったニシダに会ってみる気になったのは、ネット上にアップロードされた映像に興味をひかれたからです。

コミュニケーションに難があったニシダの自由に人生を楽しむ姿を目の当たりにして、シバも自らの生き方を見つめ直すのでした。

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル の起承転結

【起】カム・ギャザー・ラウンド・ピープル のあらすじ①

美しい祖母の背中と不快な私のおなか

シバが小さい頃に亡くなった祖父の遺影はかなりの男前で、往年の映画俳優のポスターにも負けていません。

仏壇の前でお経を読む祖母は、「あっぱっぱ」と呼ばれている簡素なワンピースをいつも身に付けていました。

首を通す穴は洗濯を繰り返したためにくたびれていて、ツルツルと光って滑らかな背中が丸見えになっています。

軽度の肥満児だったシバは子ども向けの水泳教室と、テニススクールに通いつめた結果何とか標準体形です。

小学4年生の時にちょっとした自然災害が発生して、全国からボランティアが集まってきました。

その中の名前も知らない中年男性に工事現場の衝立ての奥に引っ張り込まれたシバは、Tシャツを首までたくし上げられて腹部をなめられます。

「お腹なめおやじ」の被害が学区全体に広がったのは、それから半月もしない頃です。

かわいい子がだけがなめられたという都市伝説がありましたが、シバは黙っていたので「かわいくない」側に分類されていました。

【承】カム・ギャザー・ラウンド・ピープル のあらすじ②

見られなかった背中と垣間見る大人の世界

祖母が亡くなったのはシバが受験をしてミッション系の中学校に入ったばかりの時で、白い着物を着てひつぎに寝かされた遺体をひっくり返して最期にもう1度だけ背中を見ようとしますが弟に止められます。

中学校のグラウンド裏には2階建ての寮があって老朽化が進んでいますが、住んでいる大学生たちによって自給自足のコミュニティーが形成されていて出ていこうとしません。

手作りした看板や垂れ幕で飾り立てている寮を見たシバは、初めて主張や考え方を他人にアピールする「やりかた」を覚えます。

吹奏楽部に入ったシバは5階にある音楽室の窓から、寮の敷地をのぞき見るのが楽しみのひとつです。

ある日の放課後にパート練習を抜け出したシバは、アコースティックギターを弾いている男子大学生と会話を交わしました。

ボブ・ディランの「時代は変わる」を得意気に演奏していましたが、あれほど下手くそなギターは後にも先にも聞いたことがありません。

ギターを置いた男子学生が膝の裏側を触ってきたために、シバは力いっぱい蹴り上げて校舎に戻りました。

【転】カム・ギャザー・ラウンド・ピープル のあらすじ③

雨宿りから浮かぶ懐かしいあの人の顔

午後8時で都内の電車が一斉に運行を終えてしまうのは、シバが社会人になってからは初めてのことです。

自宅から離れた小さな駅のロータリーで降ろされたシバは、強くなってきた雨と風を避けるために「ハクチョウ」というお店に入店しました。

おばが閉店する予定だったスナックをカンベが引き継いで、友人のサイトーと家賃を分担しながら続けています。

もうひとりイズミという若い女性が働いていて、同年代のためにシバともすぐに打ち解けて仲良しです。

写真の現像サービスをするお店のバイトも掛け持ちしつつ、イズミは映画を作る勉強をしたりドキュメンタリーを撮りためていました。

最近では政治的なデモを素材として扱うことが多いというイズミの動画は、SNSでも話題になっています。

スマートフォンからアクセスできると聞いたシバが閲覧したのは、ピンクのワンピースを着て茶色い巻き毛のヘアメイクをした男性の映像です。

集会では「チャイカ」という呼び名を使っていますが、高校生の時に一緒のクラスだったシバは彼の本名がニシダだと知っていました。

【結】カム・ギャザー・ラウンド・ピープル のあらすじ④

見えない美しさを背負う

性的マイノリティーの人たちのために活動しているニシダのSNSアカウントは、フォロワーが何万人もいて公式のホームページまでありました。

かつてはとにかく話がつまらなかったニシダが、いま現在では多くの人の心を動かしていることがシバは信じられません。

渋谷の公園でニシダのパフォーマンスを撮影するイズミに同行させてもらうと、真っ白なファーのドレスを着てリズムを取っていたニシダはすぐに気がつきます。

昔からきれいな顔をしていてチャイカになってからはさらに美しくなったニシダ、昔も今もあんまり美しくないシバ。

スピーカーで増幅された声でステージの上から呼び掛けられた瞬間に、シバは思わず逃げ出してしまいます。

ドレス姿で走りにくいニシダがようやく追い付いた場所は、原宿駅を見下ろす白い橋の上です。

高校生のニシダにとってシバは神みたいだったこと、しゃべることの全てが面白かったこと、かわいいとか頭がいいとかを超越した存在だったこと。

アイラインが溶けるほど涙をこぼしながら告白するニシダを見て、シバは美しい顔ではなく祖母のような背中がきれいな人間になることを誓うのでした。

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル を読んだ読書感想

しょう油で煮しめたような黒い顔に、輝くような白くてなめらかな背中を持つヒロイン・シバのおばあちゃんが魅力的です。

見栄えの良さや表面上の美しさばかりを追い求めてしまう、今の時代の軽薄な風潮を見事に捉えていました。

災害復興の現場や教育の場でピュアな少女に魔の手を伸ばしてくる、「お腹なめおやじ」やヒッピーギタリストには嫌悪感を抱いてしまいます。

就職してからもいまいちパッとしないシバを、SNS時代の人気者・ニシダがただひとり神のように崇めているのが皮肉です。

お互いの素顔と弱さをさらけだし合ったふたりの、その後の運命にも思いを巡らせてみてください。

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