「青が破れる」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|町屋良平

「青が破れる」

著者:町屋良平 2016年11月に河出書房新社から出版

青が破れるの主要登場人物

秋吉(しゅうきち)
主人公。ボクサー志望のフリーター。スタミナもスピードもあるが恐怖心に打ち勝てない。

ハルオ(はるお)
友人。深刻な場面でも滑稽に振る舞う。

とう子(とうこ)
ハルオの彼女。体は弱いがタバコなどの刺激物が手放せない。

夏澄(かすみ)
秋吉の浮気相手。結婚生活に満たされないためスイーツに熱中する。

梅生(うめお)
秋吉の後輩。リーチが長く体格にも恵まれている。

青が破れる の簡単なあらすじ

プロのリングに上がるために日々の鍛錬を続けていた秋吉ですが、先に夢をかなえたのは同じボクシングジムの梅生の方です。

プライベートでは仲の良かったハルオととう子のカップルが立て続けに死亡、愛し合っていた人妻の夏澄もこの世を去ります。

秋吉と梅生との絆は揺らぐことはなく、夏澄の遺児・陽ともひそかに交流を続けていくのでした。

青が破れる の起承転結

【起】青が破れる のあらすじ①

アマチュアボクサーがピンチヒッター

プロボクサーのライセンス取得を目指している秋吉は、日中は所属先のジムに通ってトレーニングをしていました。

アルバイトのシフトに入っていない日は友だちのハルオと出掛けて、無駄話をしたり散歩をしたりしています。

公園の噴水に飛び込んだりといつものように羽目を外していたハルオですが、春先のある日に打ち明けてきたのは交際中の女性についてです。

名前はとう子、長期間に渡って入院していること、かなりの重症で生存確率は低いこと。

一緒にお見舞いに行ってほしいというハルオの頼み事を、これといった用事のない秋吉は断れません。

ノーメイクでパジャマを羽織っただけのとう子ですが十分にきれいで、ベッドサイドの引き出しからライターとラッキーストライクの箱を取り出しました。

看護師や医師の目を盗んではしばしば喫煙所で一服しているそうで、今さら禁煙しても余命に影響はないのでしょう。

ふたりっきりで会うと息が詰まるというハルオのために、時間を見つけては病院に顔を出すことにしました。

病室で肩と肩が触れあうほどの距離でとう子に寄り添った秋吉は、ラウンドの出だしのように大きく息を吸い込んで彼女の香りを感じます。

【承】青が破れる のあらすじ②

インターバルに熱いピザと冷たいデザート

いつものようにピザ屋に出勤して配達に回っていた秋吉に、お手拭きが入っていないとお客さんからクレームが舞い込んできました。

すぐさま再訪問すると玄関の扉を開けて出てきたのが夏澄でしたが、お手拭きはしっかりと彼女の手の中にあります。

ひとりではLサイズは大きすぎるという彼女と一緒に食べることになり、秋吉は8つに分けたうちの7ピースをペロリと完食です。

子供の名前は陽でおとなしい小学3年生、夫は平凡なサラリーマンで毎日午後8時に帰宅。

陽のために手作りをしたというシャーベットをごちそうになった秋吉は、口の中はひんやりとしますが体は自然と熱くなっていました。

当然のようにふたりでクーラーの効いていない真夏の寝室に向かういますが、下校時間が過ぎても陽が帰ってきません。

散々に近所を探し回ると公園のブランコで遊んでいて、夏澄は秋吉のことを「ママのお友だち」と紹介します。

秋吉がボクシングをしていると聞いた途端に汗だくの腹部に何度もパンチを食らわせてきますが、痛くもかゆくもありません。

【転】青が破れる のあらすじ③

月夜のドライブでそれぞれの苦しみを癒やす

スパーリングを申し込んできた梅生は年下ですが、明らかに階級が上でウエイトも7キロ以上は重いでしょう。

相手に攻撃を当てないマススパーリング、1〜5割程度の力を入れるライトスパーリング、実践形式のスパーリング… マススパーの時には秋吉に敬意を払っている梅生も、ライトスパーに段階をあげた途端に見下ろしてきます。

スパーリングの追い込みに入る頃には完全になめきっていて、ボコボコにされた秋吉は敗北感が拭えません。

練習の終わりにはハルオも誘ってファミレスに行くほどの仲で、この3人に一時帰宅の許可をもらったとう子が合流したのは季節が秋に変わった頃です。

勤め先の社長にミニバンを借りてきたハルオが運転席でハンドルを握り、その話相手として呼ばれた梅生は助手席に座りました。

後部座席に乗り込んだ秋吉の隣には15キロほど体重が落ちたとう子がいて、道中では横になっているのもつらそうです。

高速に入ってサービスエリアで小休止、名産品や郷土の売り込み品を買ってからたどり着いた場所は夜の湖。

東京の10倍くらいの濃密さで輝く星と、月明かりが反射した湖面を見たとう子はようやく笑顔を浮かべます。

【結】青が破れる のあらすじ④

生死を分けたロードワーク

夏澄の告別式が行われたのは突き刺すような冷気が漂う冬らしい日で、秋吉は陽からメッセージを受け取りましたが参列する訳にはいきません。

会場の外に出てきた陽を捕まえると、薬物を多量に摂取してお風呂場で溺れたと教えてくれました。

すでに父親は再婚が決まっているそうですが、これからも内緒で秋吉とは電話をしたり殴り合ったりしたいそうです。

深酔いをしていたハルオが交通事故に遭ったたのはそれから間もなく、とう子は数週間後に息を引き取ります。

生き残ったのはデビュー戦を勝利で飾った梅生と、いまだにプロテストすら受けていない秋吉。

次の試合が決まっている梅生とは相変わらずスパーリングのパートナーでしたが、浮き沈みが激しく覚悟が決まらない秋吉は勝てる気がしません。

2週間で4キロという梅生の減量に付き合わされて、寝静まった住宅街の細い道をえんえんと歩き続けます。

家に帰ると放課後にランドセルを背負って遊びにくる陽のために、部屋のカギをあけ放したままで眠りにつくのでした。

青が破れる を読んだ読書感想

ボクサーに漠然とした憧れを抱いて人一倍の努力はしているものの、対戦相手が繰り出すストレートに思わず目をつぶってしまうという主人公の秋吉。

お人よしで臆病なのがウイークポイントかと思いきや、ピザショップのデリバリーではノンストップで業務を逸脱してしまうなど捉えどころのないキャラクターですね。

闘病生活を送る友の恋人とも一線をこえてしまうのかとハラハラさせつつ、月下の湖で美しく清らかに締めくくってくれました。

登場人物が次々と退場させられる終盤の展開には胸が痛みますが、残された3人が寄り添うように生きていくラストは感動的です。

コメント