著者:太田紫織 2015年2月にKADOKAWAから出版
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先の主要登場人物
九条櫻子(くじょうさくらこ)
ヒロイン。標本収集に情熱を注ぐ。明治時代に建てられたお屋敷に住む。
館脇正太郎(たてわきしょうたろう)
激動の高校1年を送っている。中学までは周りに埋没して育った。
千代田薔子(ちよだしょうこ)
櫻子の婚約者のいとこ。正太郎の母ともお茶をする仲。
東藤耕治(とうどうこうじ)
薔子のいとこ。大企業の跡取りだが気さく。
東藤耕四郎(とうどうこうしろう)
耕治の父で故人。建築家としては優秀だったが一族の中での立場は弱かった。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 の簡単なあらすじ
山奥の別荘まで休暇にやって来た九条櫻子と館脇正太郎が、停電になった室内の暖炉で発見したのは人間の指の骨です。
急死したホテル経営者の愛人によって切断されたものですが、彼女も後を追って自らの命を絶ったことが判明します。
父親の知られざる一面にショックを受けた現オーナーから、正太郎もまた九条家にまつわる悲しい過去を聞かされるのでした。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 の起承転結
【起】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 のあらすじ①
冬休みに交通事故に遭ったと学校には説明していた館脇正太郎でしたが、本当は刃物で刺されて入院していました。
(前巻「白から始まる秘密」参照)トラブルから抜け出せずにいる、素行の悪い人たちとつるんでいる、警察にお世話になった、動物の死骸を拾っていた… いつの間にか悪いうわさが広まってしまいましたが、九条櫻子や花房の存在についてクラスメイトに打ち明ける訳にはいきません。
例年ではみんなとスキーに行くシーズンですが今年は誰からも声が掛からない中、週末の旭岳に誘ってくれたのは千代田薔子。
櫻子と結婚を誓いあった在原のいとこに当たる女性で、正太郎の母親とも前々から付き合いがあります。
彼女の親戚が経営しているホテルがすぐ近くにあるために、日中はスノースポーツを楽しめて夜には温泉で汗を流せるでしょう。
待ち合わせ場所の駅前に当日になってハイエースに乗ってやって来たのは薔子と櫻子、運転席でハンドルを握るのは東藤グループの重鎮と言われている耕治です。
【承】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 のあらすじ②
去年の秋に耕治の父親・耕四郎が亡くなって、生前に彼が設計を手掛けた別荘の後片付けにきたとのことです。
本来であれば息子の役割りですが、なぜだか薔子と櫻子が引き受けてくれるようで耕治は雪山で遊んでいました。
雪上バイクやスノーモービルなどの操縦も慣れたもので、日頃はマウンテンバイクを乗り回している正太郎ともすぐに打ち解けます。
子どもの頃から薔子ときょうだいのように育ったこと、大人になった彼女が結婚した時には本当にショックだったこと。
早くに夫と死別した薔子は現在では独り身ですが、どうしても耕治にはその思いを口にできません。
「死んだ人間には勝てない」という耕治の言葉を聞いた途端に、正太郎の胸の中にも櫻子の亡き弟・惣太郎の姿がよぎりました。
ゲレンデを思う存分に走り回ったふたりは女性陣と別荘で合流しますが、急に天候が悪化して宿泊予定のホテルまで戻ることができません。
吹雪はさらに激しくなって別荘内の電源が作動しなくなったために、地下室の暖炉に集まって小型のガスバーナーで火を付けます。
【転】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 のあらすじ③
みんなで集まって暖を取っていたところ、木のかけらや白い灰の中からいくつもの骨が出てきました。
大部分はヒグマのはく製だですが、その中に人間の左手の薬指が混じっていたことを櫻子は見逃しません。
耕四郎はひとりで別荘で滞在中に心不全で息を引き取ったことになってしましたが、耕治は遺体の薬指に包帯が巻かれていたことが今でも気になっています。
耕四郎がアメリカに留学して建築学を学んでいたこと、向こうの大きな家では「パニックルーム」と呼ばれる有事の時に逃げ込む部屋があること、この地下室が間取り図よりも狭い造りになっていること。
本棚でふさがれていた扉を開けると中は隠し部屋になっていて、エアコンや冷蔵庫もあるために一定期間は過ごせるでしょう。
バスタブの中には黒い髪の美しい女性が全裸で横たわっていて、死後かなりの日数が経過しているはずですがまったく腐敗が進んでいません。
櫻子によると人間の死体は低温かつ適度な湿度で保たれた場合は、「死蝋」という完全な結晶になるそうです。
【結】櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 のあらすじ④
バスタブの下には大量の睡眠薬が、女性の手のひらの中には耕四郎の薬指から取り外した指輪が。
幅広く事業を手掛けている東堂家の中でも、海外を放浪したり自分の好きな仕事をしていた耕四郎は異端児でした。
ひとりになりたい時に逃げ込んでいたのがこの別荘で、孤独を慰めてくれたのが彼女です。
薔子たちはそれとなく彼女の存在に気がついていたために、今回の遺品整理でもできるだけ耕治を別荘に近づけたくなかったのでしょう。
通報を受けて警察が駆け付けてきたために旭岳旅行は散々な結果でお開きとなりましたが、耕四郎はこれからも薔子とは健全な関係を続けていくつもりです。
そんな耕四郎から帰り際に、惣太郎がいかに櫻子にとって特別な存在だったのか打ち明けられます。
正太郎が死んだ弟の身代わりにされているのではと心配する耕四郎、骨が生き返ることはないと断言する櫻子。
昨夜の冬の嵐が終わって旭岳に春の歌声が近づいてきたことを正太郎が確信した時、風に乗った雪が真っ白なチョウチョに変わるのでした。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている 7 謡う指先 を読んだ読書感想
これといったドラマも中学生時代を送ってきた館脇正太郎が、良くも悪くも高校デビューを果たしてしまったのは皮肉なことです。
気分転換のために雪山でレジャーを楽しむつもりが、またもや事件に巻き込まれていますのはお約束ですね。
シングルライフを満喫するセレブリティ・薔子さんの、「今回は死体とか骨とかダメよ」という祈りも当然ながら実りません。
夫を亡くした薔子に好意を寄せている耕治、弟を失った櫻子の力になりたい正太郎。
煮え切らないふたりの男たちが決断を迫られる、後半の急展開は読み応えがありました。
ラストのチョウチョが春の訪れを告げる吉兆なのか、蝶形骨をコレクトする宿敵の化身なのかも意見が分かれるでしょう。
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