母子寮前(小谷野敦)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

母子寮前

【ネタバレ有り】母子寮前 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:小谷野敦 2010年12月に文藝春秋から出版

母子寮前の主要登場人物

私(わたし)
物語の語り手。非常勤講師をしながら文筆業を始める。

喜代子(きよこ)
私の母親。67才で肺がんになる。

梅三(うめぞう)
私の父親。時計修理の会社を退職して現在は無職。

母子寮前 の簡単なあらすじ

「私」の母親は突如としてガンになってしまい、あちこちの医療機関を転々とすることになります。密かに私や母が「ヌエ」と呼んでいる父親はまるっきり頼りにならない上に、次第に家族にとっての重荷となっていくのでした。

母子寮前 の起承転結

【起】母子寮前 のあらすじ①

動き出していく日常

長年に渡って健康そのものだった私の母が、首のリンパ腺の腫れがひかないために実家近くの大学病院に検査入院することになりました。

医師から告げられた診断結果は肺がんで、切除手術を受けた後も経過は余り思わしくありません。首にも転移しているステージ3のガンのために放射線治療は行えずに、最長余命でも5年程度とのことです。

病院と担当医師の対応に不安を覚えた私は、大学時代の先輩で医者と結婚した女性のアドバイスを受けてセカンドオピニオンを取ることにします。

東京で間借りしているアパート、がんセンターがある築地市場駅、勤務先の駒場東大前、埼玉県の実家。

この4箇所を行き来しながら、私の日常生活は慌ただしく流れていくのでした。

【承】母子寮前 のあらすじ②

父母息子三者三様

父は母が入院してからというもの、物忘れや奇行が目立ち始めていました。

たまに母が一時帰宅した際には、「死んじまえ」「このあま」などといった罵詈雑言を浴びせる始末です。

遂には父が手を出したことを知った私は、本気で両親を離婚させることを考えてしまいます。

経済的にも時間的にも離婚に踏み切る余裕はなく、母にとっても負担になるためこの計画は断念せざるを得ません。

がんセンターまでは実家から電車1本でアクセス可能でしたが、父は1度もお見舞いに来ることはなく母の病気のことを理解出来ているのかさえ怪しいです。

プライベートでは私は5年前の離婚以来2度目の結婚をしていましたが、自分だけが幸せであるような罪悪感を噛みしめてしまいます。

【転】母子寮前 のあらすじ③

辿り着いた終着駅

医療センターの相談員から埼玉県吉川市に緩和ケアで評判な総合病院を紹介されたために、そちらに転院することが決まりました。

抗がん剤投与の結果母の身体つきは幾分か小さくなっていて、髪の毛もすっかり抜け落ちていきます。

実家での在宅医療の選択肢もありましたが、未だに暴言を吐き続けている父と一緒に暮らすことを望んでいません。私は自分の家に来るようにそれとなく勧めましたが、新婚生活を送っている息子夫婦に対して遠慮をしているようです。

母が終焉の場所に選んだのは、杉並区の記念病院の最上階にあるホスピスでした。

申し込み手続きのために私はバスに乗り込んで、「母子寮前」というどこかもの哀しい名前の停留所に降り立ちます。

【結】母子寮前 のあらすじ④

母と子の心残り

いったんは回復への兆しが見えましたが、9月半ばを過ぎる頃には酸素ボンベが外せなくなり食事も満足に摂ることができません。

珍しく父がお見舞いに行きたいと言い出しましたが、母はきっぱりと拒絶してしまいます。

9月から10月にかけては私の著作が3冊出版されて、そのうちの2冊は売り上げ好調で束の間母を喜ばせることが出来ました。

母が私の目の前で息を引き取ったのは、11月29日の小春日和とも言うべき上天気の午前11時58分です。

父は既に喪主を務めることが出来ないほど打ちひしがれていたために、自然と私が代わりにやることになります。

葬儀が終わった後に私はバス停「母子寮前」にまで足を運んで、1度でいいから母と2人だけで暮らしたかったと思うのでした。

母子寮前 を読んだ読書感想

闘病生活を送った末にこの世を去った母親を看取った、著者自身の体験を基にしたストーリーが哀愁たっぷりです。

母への過剰なほどの思い入れが、次第に父親への憎しみへと変わっていく過程も伝わってきました。

自らの父を「ヌエ」と呼び生理的な嫌悪感を露にする、親子の異様な関係には驚かされます。

妻を失った後の夫が急激に老け込んでしまう、男性特有の精神的な打たれ弱さもリアリティ溢れるタッチから描かれていました。

終末医療の在り方やリビング・ウィルの大切さを始めとする、高齢化社会を反映したエピソードも盛り込まれていて考えさせられます。

誰しもが死の宿命からは逃れられないとしても、自分らしい最期を選ぶことは出来るのかもしれません。

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