著者:荻上直子 2019年6月に講談社から出版
川っぺりムコリッタの主要登場人物
山田(やまだ)
主人公。海産物工場の契約社員。目立たずに生きる主義。
島田(しまだ)
山田の隣人。自給自足のシンプルライフを送る。他人の領域に土足で入ってくる。
南(みなみ)
アパート経営者。夫と死別して女手ひとつで娘を育てる。
矢代大輔(やしろだいすけ)
山田の父。離婚後は妻子とも音信不通。アルバイトをしながら食いつなぐ。
溝口(みぞぐち)
墓石のセールスマン。礼儀正しいが幸が薄い。
川っぺりムコリッタ のあらすじ要約
刑務所を出所した山田は川沿いにある築50年をこえるアパート・ムコリッタに入居して、工場で働きながら社会復帰を目指します。
隣の部屋には自称ミニマリスト、上の部屋には怪しげなセールスマン、大家は美しくも少し陰のある女性。
訳ありな入居者たちと不器用ながらコミュニケーションを取りながら、山田は投げやりだった自分自身の人生や家族との関係に向き合っていくのでした。
川っぺりムコリッタ を起承転結でネタバレ!
【起】川っぺりムコリッタ のネタバレ①
2年の刑期を終えて更正保護施設で数カ月暮らしていた山田は、地域のサポートセンターで周旋してもらったイカの塩辛工場で働くために北陸地方へと向かいました。
出所者の就職を支援している沢田水産工業は総勢20人ほどの小さな工場で、社長は港から川に沿って歩いた先にある「ハイツムコリッタ」を紹介してくれます。
昔ながらの木造アパートで1階と2階にそれぞれ3部屋、6畳ひと間に台所とトイレ・お風呂付き。
1階の角にある101号室へと案内してカギを渡してくれたのは、山田よりも少し年上と思われるここのオーナー・南です。
引っ越してきた初日に給油機が壊れたので風呂を貸してほしいと、隣の部屋に住んでいる島田が訪ねてきました。
伸びきった髪の毛に無精ひげ姿で2、3日は入浴していない様子の見ず知らずの男とは関わりたくありません。
丁重にお断りしたものの、その後も入居者共有の庭で採れたというトマトやキュウリをこまめに持ってきてくれます。
野菜のお礼を言いに工場で作っている塩辛のビン詰めをお返しすると、風呂を貸す羽目になり畑仕事まで手伝わされてしまいました。
【承】川っぺりムコリッタ のネタバレ②
保育園の途中で両親が離婚して母親に引き取られた山田には、父親の記憶がありません。
その父がつい最近になって亡くなって、すでに火葬にされて遺骨は市役所で保管されていると連絡が舞い込んできました。
通知書の送付元は長距離バスを乗り継いで3時間以上かかる中部地方で、福祉課の担当職員から父のわずかばかりの遺留品を手渡されます。
名前は矢代大輔、年齢は58歳、職業は介護施設の清掃員、通帳の残高は数100円。
亡くなる直前は生活保護を受けていたようで、遺体は数週間のあいだ誰からも発見されなかったために悲惨な状態だったそうです。
白い布で覆われた骨つぼを受け取ってムコリッタに持ち帰った山田は、橋のたもとで拾ってきた棚の1番上の段に安置しました。
今月分の家賃を払いに南が住んでいる203号室をノックすると、「お駄賃」だというミルクキャラメルをひと粒だけくれます。
妖艶な大人の女性に心をひかれていた山田でしたが、島田の話によると5年前に亡くなった夫を今でも愛しているそうです。
いろいろな妄想が頭の中で広がってしまう前に、山田はキャラメルを口の中に入れて包み紙で鶴を折って父の骨つぼの前に備えます。
【転】川っぺりムコリッタ のネタバレ③
山田の部屋の上、201号室に住んでいるのはいつも黒いスーツを着ている溝口とその息子の洋一です。
訪問販売で墓石を売っていますが成績の方はパッとしないために、妻はずいぶん前に出でいってしまいました。
父の死を聞きつけて何とか墓石を買わせようとポストにチラシを投げ込んできますが、最も安いものでも30万円もするために購入するつもりはありません。
201号室から甘くてしょう油の香ばしい匂いを嗅ぎ付けたのは島田で、箸と茶わんを片手に山田を連れて部屋の中へと上がり込みます。
家賃を半年分も滞納している溝口が霜降りの上質な肉ですき焼きを食べているのは、久しぶりに大口の契約が撮れたからです。
契約者は川の向こうの丘の上の大きなお屋敷に住んでいるマダム、最高級の材質でできた墓石で値段は200万円。
家族のためではなくペットの犬の墓だと聞いた山田は、部屋の棚の上に置きっぱなしになっている骨つぼを思い出して暗たんとした気持ちになってしまいます。
【結】川っぺりムコリッタ のネタバレ④
夜遅くに突然ミシリと音がしたかと思うと、ムコリッタ全体が大きく揺れて山田は目を覚ましました。
しばらくのあいだは身動きが取れないほどでしたが、ようやく地震が収まって床を見てみると棚から落ちたつぼの破片と骨が入り混じっていて区別はつきません。
遺骨をそのまま捨てると3年以下の懲役、パウダー状にしてから散骨するのは合法。
島田から入れ知恵された山田はイカの塩辛が入っていた容器の中に骨を詰めこみ、川べりへと向かい大きな石で粉々に砕きます。
いつの間にやら背後に立ってのぞき込んでいたのは、薄い紫色のスカートを風になびかせている南です。
高校2年生の時に実の母親に捨てられて、食べるために悪いことばかりしていたら刑務所に入れられて、出所して住んだこのアパートは変な人ばかりだけどちょっとだけ笑っている自分がいて。
涙があふれるままに告白する山田を抱きよせた南は、四十九日がとっくにすぎた夏の終わりにみんなを集めてお葬式を開いてくれます。
夕暮れ時の土手の上にはムコリッタの住人が列を作っていて、山田の手のひらからこぼれ落ちていく白い骨粉は空に舞い上がりキラキラと輝きながら葬列に降り注ぐのでした。
<感想>川っぺりムコリッタ を読んで思ったこと
不幸な生い立ちを背負ったまま30歳のバースデーを高い塀の中で迎えた山田は、早くも人生の終わりを見つめているかのような主人公です。
前科者として都会の人混みの中に紛れ込むのではなく、地方の田舎町の片隅に流れつくのも当然の選択と言えるでしょう。
人と極力関わらずに生きていこうとしながらも、風変わりなご近所さんたちといや応なしに交流を深めていく様子に癒やされました。
厚かましくも人の部屋に上がり込んでひとっ風呂浴びたり、冷蔵庫の中の牛乳を勝手に飲み干す島田も不思議と憎めません。
川のほとりにへばり付くようにして生きている人たちへの、静かなエールには勇気をもらえます。
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