「セロ弾きのゴーシュ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|宮沢賢治

「セロ弾きのゴーシュ」

著者:宮沢賢治 1989年6月に青空文庫から出版

セロ弾きのゴーシュの主要登場人物

ゴーシュ(ごーしゅ)
セロ弾。金星音楽団の楽団員。いじめられている。卑屈で孤独。

楽長(がくちょう)
金星音楽団の楽長。完璧主義者。出来ない楽団員をいじめる。

猫(ねこ)
三毛猫。畑の野菜を盗む。セロを聞かないと寝れない。

かっこう(かっこう)
灰色の鳥。ドレミファを合わせに来る。礼儀正しい。

たぬきの子(たぬきのこ)
リズムを合わせに来る。のんびりしている。

野ねずみ(のねずみ)
病気の子ネズミの母親。病気の治療に来る。

セロ弾きのゴーシュ の簡単なあらすじ

セロ弾きのゴーシュは金星音楽団の中で、一番下手なので、いつも楽長から怒られていじめられています。

音楽会が10日後にせまり、家で自主練習を深夜まで頑張っていると、毎晩、動物達がセロの音色につられて訪ねてきては、ゴーシュにお願いをします。

みんなの前で嫌味を言われて、すっかり卑屈になっていたゴーシュは、家に訪れてくる動物達を、見下して、あざ笑い、怒って、脅かして、うっぷんを晴らしていましたが、日がたつうちに、気持ちに変化が生まれます。

セロ弾きのゴーシュ の起承転結

【起】セロ弾きのゴーシュ のあらすじ①

音楽会に向けて

ゴーシュが住む町には活動写真館の楽団があります。

その楽団の名前は「金星音楽団」といいます。

ゴージュは、金星音楽団に所属していて、そこでセロ(チェロ)を担当しています。

みんなからの評判は、「ゴージュのセロはあまり上手くない」ということでした。

楽団のなかでの実力は、いつも最下位でした。

そのため、ゴージュは、よく楽長にいじめられていました。

午後になって、次の音楽会で演奏する「第六交響曲」の練習を始めました。

トランペット、ヴァイオリン、クラリネット、みんな丸くなって並んでいます。

ゴージュは口をりんと結び、なりふり構わず夢中になって弾いています。

突然、楽長が「ぱたっ」と両手をならすと、演奏がぴたりと止まります。

しんと静まり返ったとたん、楽長が怒鳴り声をあげました。

「セロが遅れた!トォテテ テテティ、ここからやり直し。

はいっ!」演奏は、少し前からまた始まりました。

セロの遅れを指摘されたゴーシュは、額に汗をながし、顔を真っ赤にして弾きます。

また、楽長が「ぱっ」と手を打ちました。

「セロ!糸があわない。

僕は君にドレミファを教えている暇はないんだが」とあきれた顔で言います。

楽団のみんなは、気の毒そうに、わざと譜面を確認したり、楽器をさわったりして、忙しい素振りをしています。

ゴージュは2回も自分だけ指摘されたので、遅れないように、口をへの字に曲げて無我夢中で弾きました。

「どん!」楽長がこんどは足を踏んで、怒鳴り始めました。

「だめだ!まるでなってない。

諸君。

演奏までもうあと10日しかないんだよ!」そうみんなを一喝すると、ゴージュをにらみつけて「おいゴーシュ君。

君には困るんだがなぁ。

怒るも喜ぶも感情というものがさっぱり出ないんだ。

それにどうしても、ぴたっと他の楽器とあわないのもなぁ。

いつでも君だけ、とけた靴の紐を引きずってみんなの後をついて歩くようなんだ、困るよ、しっかりしてくれないとねえ。」

と、またゴーシュ一人だけに指導が入ります。

「光輝あるわが金星音楽団が木も一人のために悪評をとるようなことでは、みんなも全く気の毒だからな。

では、今日は練習はここまで。」

みんな帰った後も、粗末なセロを抱えたまま、ゴージュは一人で壁に向かい、ぽろぽろと、涙をこぼして泣きました。

少しすると、顔を上げ、今日練習したところを最初から、たった一人で弾きはじめました。

【承】セロ弾きのゴーシュ のあらすじ②

深夜の来客

その日の夜、家に帰ると、早速セロを取り出しました。

バケツの水をごくごくのんで、それからすぐにトラみたいな勢いで、第六協奏曲を弾き始めました。

何度も何度も弾いていると、扉を叩く音がして、三毛猫が入ってきました。

猫は、肩を丸め、目をすぼめ、口はにやにやさせながらヒューマンのトロメライを聞かないと寝れない、と言います。

「生意気だ!」ゴーシュは、楽長がしたように、足踏みして怒鳴りました。

猫がしつこいので、ゴーシュは扉の鍵をかけて、嵐の勢いで「インドの虎狩り」を弾き始めました。

猫は目をぱちぱちさせながらきいていましたが、すぐに扉に飛びつき体当たりしました。

衝撃で猫の目や額から火花が散ります。

猫はもう、やめてくださいとゴーシュに懇願しますが、やめません。

それから葉巻をくわえて、マッチを手にすると、猫の舌ですって、葉巻に火をつけました。

猫は驚いて、扉にぶつかってはよろよろしてを繰り返しました。

「許してやるから、もう来るなよ」ゴージュはそういうと扉をあけました。

猫が鉄砲玉のように一目散に飛び出していったのをみて、大笑いしました。

そして気持ちがすっきりしたので、ぐっすり眠れました。

次の夜、家に戻ると、またすぐにセロを弾き始めました。

12時になって1時になって2時過ぎ、屋根裏からコンコンと音がして、灰色のかっこうが降りてきました。

「音楽を教えてください」とかっこうがいいました。

ゴーシュは「かっこうだけだろ?」と馬鹿にしますが、1万回のかっこうは、全部違うので難しいといいます。

かっこうは、「難しいのは続ける事」だといいます。

ドレミファソラシドをかっこうと何回も繰り返して弾きました。

ゴーシュは繰り返しているうちに、「おや?鳥のドレミの方がいいぞ」と思い始めました。

明け方になって、「もう夜が明けてしまう。

出ていけ出ていかないと食ってしまうぞ!」というと、どん!と床を踏みました。

かっこうはびっくりして、逃げ出しました。

勢いよく窓にぶつかり落ちました。

ゴーシュが窓をあけようとしていると、またかっこうが窓に勢いよくぶつかっては落ちます。

とうとうかっこうのくちばしから血がでました。

開けてやるから待てといっても、かっこうはやめません。

ゴーシュはおぼわず窓を足でわりました。

かっこうは、すかさず割れた窓から逃げ出して、まっすぐ飛んでいきました。

【転】セロ弾きのゴーシュ のあらすじ③

気持ちの変化

次の日も、またとんとんと扉をノックします。

ゴーシュは今日は追い払うつもりでいます。

扉から入ってきたのは1匹のたぬきの子でした。

ゴーシュはどん!といきなり足をならして怖い顔をして言いました。

「俺はたぬきを食べるんだよ、怖いか?」お父さんからいい人と聞いてるから怖くないといいます。

たぬきの子は小太鼓とセロを合わせてもらいに来たのです。

背中から棒を2本と譜面を出して、「愉快な馬車屋」を弾いてくださいと言いました。

ゴーシュは変な曲だと笑いながら弾き始めました。

たぬきの子はセロの駒の下のところをリズムをとって叩きました。

それがなかなか上手いので、ゴーシュは弾くのが楽しくなりました。

最後まで弾きおえると、たぬきの子はゴーシュが2番目の糸をひくときにすこし遅れると言いました。

ゴーシュははっとしました。

その糸は昨日の夜からおかしな感じがしていました。

それからゴーシュとたぬきの子は、明け方まで一緒に音を合わせました。

朝になったのでたぬきの子はお礼をいうと大慌てで帰っていきました。

次の日も夜明けまでゴーシュは練習していました。

するとまた、コツコツと扉の音がしました。

「おはいり。」

ゴーシュは優しく言いました。

1匹の野ねずみが小さな子供を連れて入ってきて、青い栗の実を1つ置いてちゃんとおじぎをしました。

それから、ゴーシュに言いました。

「先生、このこが死にそうなので、治してやってくださいまし」けれどゴーシュは医者ではありません。

野ねずみは、先生のおかげでうさぎのばあさんも、たぬきのお父さんも、あんな意地悪なみみずくまで病気がよくなったと言います。

そして、ゴーゴー鳴らしているときに病気になればよかったのにといいました。

みんな、床下に入って血の巡りが良くなって治るのです。

セロの音があんまのかわりになります。

それを聞いて、ゴーシュはびっくりしました。

自分のセロがみみずくやうさぎの病気を治していたことをはじめてしりました。

子ネズミをセロの穴に入れて、「なんとかラプソディ」という曲を弾きました。

それから、子ネズミをセロからおろしてやると、起き上がって走り出しました。

野ねずみはゴーシュに大変感謝して何回も何回もお礼をいいました。

あんまり感謝されるのでゴーシュはかわいそうになって、パンを野ねずみに分け与えました。

【結】セロ弾きのゴーシュ のあらすじ④

気づき

それから6日目の晩の、音楽会の日。

金星音楽団が第六交響曲をの演奏を終えてホールからひきあげます。

みんな顔をほてらして満足げに控室に入りました。

ホールからは、拍手の嵐が聞こえます。

楽長は大満足で上機嫌です。

すばらしい演奏にアンコールが鳴りやみません。

主催者がやってきて、お客さんがまっています、なにか短いのでいいので、1曲お願いします。

楽長は1度断りましたが、「ゴーシュ、なにか出て弾いてやれ」ととつぜん指名されました。

「私ですか?」ゴーシュはまさか、とびっくりして聞きなおします。

「きみだきみだ」とバイオリン奏者も顔をあげていいました。

みんなは、穴の開いたセロを、無理やりゴーシュにもたせて押し出しました。

「どこまで馬鹿にしたら気が済むんだ!」ゴーシュは、観衆の前で辱められてすっかり投げやりになり、怒った象のように舞台の真ん中で「インドのトラ狩り」を弾きはじめました。

侮辱されたいかりで、糸をどんどんひっかきました。

ゴーシュの大迫力の演奏に、会場にいる全員が圧倒されて、静かに一生懸命聞き入っていました。

演奏を終えたゴーシュは、下を向いて、猫が扉に飛びのいたように、控室に逃げ帰りました。

ゴーシュは控室の奥へどんどんどんと、不満げな足音で歩き、いすにドカッと足を組んで座りました。

すると、全員がいっせいにゴーシュを見ました。

誰もばかにしたような顔をしている人はいません。

ゴーシュは不思議な気分でした。

突然楽長が立ち上がり、「ゴーシュ君!大変よかった!あんな曲だが、みんな一生懸命に聞きほれていた。

短い期間で良く仕上げたな。

10日前と比べたらまるで赤ん坊と兵隊だ。」

「やる気になれば出来るんじゃないか。

君は」仲間もみんなでゴーシュを称えました。

その日の夜遅くに、ゴーシュは家に帰ると、水をがぶがぶと飲み、それから窓を開けて、かっこうが飛んで行った遠くの空を見上げながら「かっこう、あの時はすまなかったな。

俺は怒ったんじゃなかったんだ」と言いました。

セロ弾きのゴーシュ を読んだ読書感想

セロ弾きのゴーシュは、集団の中で落ちこぼれた人の心理を、とても繊細に表していると思います。

出来ないことを責められて怒られて、馬鹿にされて、笑われて、いじめられて、ゴーシュはとても卑屈な人間になりました。

きっと本当は優しくていい人なのだと思いますが、誰でも、自信がなく悲観的になると、人を羨み嫉妬するみにくい心になります。

余裕が無いと人はいじわるになります。

音楽会まで10日とせまって、楽長も余裕がなくなり、できないゴーシュにつらくあたったのです。

ゴーシュは夜家に訪れる動物に最初は、自分がされたように、いじわるをしてうっぷんを晴らしていましたが、だんだんと、改心していきます。

そして努力を継続することで、最後には誰よりも素晴らしい技術を手に入れました。

みんなのゴーシュをみる目が尊敬に変わったのです。

そしてゴージュは、動物たちにした愚かな行為を反省しました。

動物たちはゴーシュの心そのものだと思います。

この作品は継続は力なり、心は自分次第で変わる、ということを教えてくれました。

コメント