「新選組戦記 下」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|小前亮

新選組戦記 下 小前亮

著者:小前亮 2020年4月に小峰書店から出版

新選組戦記 下の主要登場人物

村田市之助(むらたいちのすけ)
虎太郎との勝負に決着を付けようと意気込む本作の主人公。新選組隊士ではないが土方歳三とともに行動する。船に憧れている。

広山虎太郎(ひろやまこたろう)
市之助との決着に執着する市之助の友にして宿敵。

斎藤一(さいとうはじめ)
新選組隊士。無口だが心のうちに熱い思いを抱く。仲間思いだが命令に忠実。

相馬主計(そうまかずえ)
新選組隊士。土方歳三に見込まれる。村田市之助と仲がいい。

大鳥圭介(おおとりけいすけ)
旧幕府軍の歩兵隊を率いる歩兵奉行。土方歳三の戦術眼を高く評価する。

新選組戦記 下 の簡単なあらすじ

 新選組は思わしくない戦況の中でも新政府軍と戦い続けます。

そんな新選組と共闘を申し出た大鳥圭介や榎本武揚らと新選組を含む旧幕府軍は蝦夷地へと戦地を移します。

五稜郭を拠点として新政府軍と戦う旧幕府軍でしたが、ある日、土方歳三は村田市之助に形見を託します。

村田市之助は指示に従い、形見を持って新選組の最後を見とどけました。

五月十一日土方歳三は一本木関門でその生涯を終え、箱館戦争は終結したのでした。

新選組戦記 下 の起承転結

【起】新選組戦記 下 のあらすじ①

儀を重んじる者

新選組は江戸に赴き幕臣たちに戦いを続けるよう訴えかけました。

が、徳川慶喜は主戦派の幕臣たちを次々と辞めさせ、降伏するための人事を構築していきました。

陸軍総裁として新政府との交渉を任された勝海舟は新選組に天領である甲州での治安維持を命じ、新選組の名を変える事、そして近藤勇や土方歳三の改名を提案します。

新選組は新たに甲陽鎮撫隊と名乗り甲州を目指すが途上新政府軍と戦いとなり、敗走した後甲陽鎮撫隊を解散してしまいます。

近藤勇らは再び新選組として江戸へ戻って行きました。

しかし、永倉新八は離隊し、己の道を歩んでいきます。

新選組は勝海舟の命で戦闘の準備に入り、五兵衛新田に屯所を構えました。

勝海舟は無理難題を押し付けられた新政府軍の降伏条約に頭を抱えますが、西郷隆盛との会議によりまとまり、江戸城は開城される事となりました。

近藤勇はとまどいます。

そして、揺らぐ心中を抑えこみ、自らの儀を貫く事を誓ったのでした。

【承】新選組戦記 下 のあらすじ②

貴方という灯

五兵衛新田でささやかな平和の時を過ごしていた新選組ですが、すぐに新政府軍が嗅ぎつけてきたため、屯所を離れ流山を目指します。

ここでも再び新政府軍が進軍し、既に間近まで迫っていました。

近藤勇は土方歳三、村田市之助らを説得し、新政府軍へ出頭。

土方歳三は兵を会津へ送り、江戸へ行って勝海舟に弁護の書をしたためるようお願いしました。

そこで土方歳三、村田市之助は大鳥圭介と出会い、共闘を約束します。

勝海舟の書状は村田市之助と相馬主計が持っていきますが、村田市之助はそこで虎太郎と再会を果たします。

しかし、二人は新政府軍によって近藤勇が処刑される慶応四年四月二十五日まで監禁されてしまいます。

近藤勇の斬首を遺族へ伝えながら村田市之助は近藤勇の死をゆっくりと受け入れていきます。

沖田総司は近藤勇の斬首を知らされないまま、慶応四年五月三十日、病に打ちか勝てずに息を引き取ります。

市之助は土方歳三の元へ戻ると、未だ整理の付かない心で新選組と共に戦い続ける事を決めました。

土方歳三も戦いを続けますが、足を負傷してしまいます。

そして、会津へ到着した頃に近藤勇の死を知らされるのでした。

【転】新選組戦記 下 のあらすじ③

背水の陣

慶応四年五月三日、会津藩を助けようとする奥羽越列藩同盟が成立しました。

互角に戦っていた旧幕府軍と新政府軍でしたが、江戸で抵抗していた旧幕府軍が滅ぼされた後は新政府軍の攻勢が激しさを増していきました。

作戦を指示していた大鳥圭介、土方歳三らが任された猪苗代湖での戦況、刀で戦う事を選び、隊を率いる斎藤一らはそれぞれ苦しい心境に立たされながらも目前の敵に集中し死力を尽くします。

しかし奮闘の甲斐なく会津軍は戸ノ口原の戦いで敗れてしまいます。

少年を集めて構成された白虎隊は城が燃えているのを見て自刃を選び腹を切ってしまいます。

その方を受け、村田市之助は衝撃を受けました。

奥羽越列藩同盟は崩れ、旧幕府軍は蝦夷地を目指します。

斎藤一は同行せず、会津で抵抗を続けることを決めました。

蝦夷地を占領した旧幕府軍でしたが、軍艦の主力である開陽丸は座礁し、使えなくなってしまいました。

旧幕府軍はその後、五稜郭に置いて選挙を行い、箱館政権を樹立します。

市之助は相馬主計と会話しながら、京での生活を思いだしていました。

陸軍奉行並となった土方歳三は厳しい表情のまま、人を寄せ付けない雰囲気で一人、佇んでいるのでした。

【結】新選組戦記 下 のあらすじ④

誠の旗、

慶応四年九月八日、改元が行われて明治となりました。

蝦夷地に居る土方歳三らは兵の訓練を続けていましたが、ある時新政府軍に最新型の装甲艦、甲鉄がある事を知り、甲鉄を奪う作戦にでます。

作戦前日、嵐により三隻の船は二隻に減り、三月二十一日の作戦決行後、主力船の一隻もエンジンに問題があり村田市之助、相馬主計、土方歳三の乗る船より大幅に遅れてしまいます。

しかし作戦は続行され、奇襲に成功した者の、何も得ることは出来ませんでした。

エンジンが故障した船も降伏し、村田市之助らは一隻で帰る事となりました。

その後新政府軍は蝦夷地に上陸し、箱館へ向かおうとしましたが、三つの道のうち土方歳三が任せられた二股口は進行できず、撤退していきました。

ここで市之助は再び虎太郎と出会い、戦いますが戦場の乱闘に邪魔され、決着はつかないままでした。

二股口での戦いは勝利しましたが、新政府軍は援軍を呼び、最後の攻防戦へ突入していきます。

その数日前、市之助は土方歳三から形見を預けられ、箱館の町に隠れるように言われます。

五月十一日、海戦も前線の末力尽きましたが、誠の旗は弁天台場に掲げられていました。

五稜郭に居た土方歳三は弁天台場が新政府軍により孤立した事を知り、決死隊を作り弁天台場へ向かいましたが、その途中、一本木関門で激戦となります。

そして、敵の銃撃を受け、三十四年に及ぶ怒涛の生涯に幕を下ろしたのでした。

こうして箱館戦争、そして長きにわたる戊辰戦争は終幕しました。

明治十一年、市之助は虎太郎と共に船に乗り欧州視察団としてヨーロッパを目指します。

見送りには生き残った永倉新八と斎藤一が来ておりました。

市之助は虎太郎と同じ方向を向いています。

そして、心には新選組の掲げていた誠の旗がひるがえっていました。

新選組戦記 下 を読んだ読書感想

どんな戦況でもくじけずに闘う雄姿と、命令に忠実でありながら引けない局面は何としてでも留まる武士の姿が胸に響きます。

試衛館時代から生き延びて戦って来た永倉新八、斎藤一、土方歳三が少しずつ変わっていく姿は悲壮感を与えますが、人のしたたかさを教えてくれます。

そして、本書の主人公である村田市之助が師匠である近藤勇の死や多くの敗北を経験しながら、自分の中でも譲れない志を見つけていく描写に感動しました。

教科書などでは深く描かれない新選組の生涯の一片が綴られ、今の時代では見る事も出来ない武士の生きざまが目の前に浮かぶようです。

こういった一生の積み重ねで歴史が織りなされていることを思うと、歴史資料への見方も変わってきます。

志を貫く意志の堅固さ、時代の流れによる周囲の変化、仲間の心強さ、現代ではなかなか味わえない世界を垣間見させてくれる小説だと思います。

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