「そのころ、白旗アパートでは」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|伊藤たかみ

そのころ、白旗アパートでは

著者:伊藤たかみ 2010年8月に講談社から出版

そのころ、白旗アパートではの主要登場人物

加藤(かとう)
主人公。学生時代から小説を書いている。常に脳を働かせてアイデアを練る。

藤井寺保隆(ふじいでらやすたか)
加藤の隣人。医大を目指す浪人生。実家が金持ちで苦労を知らない。

藤井寺宮子(ふじいでらみやこ)
保隆の義理の母。夜の勤めをしていたために色っぽい。

太石英太(ふといしえいた)
加藤の隣人。大学6年生で就職先は未定。ふくよかな体形のため「フトシ」と呼ばれる。

工藤(くどう)
加藤たちの大家。横浜在住のため管理人としては機能していない。

そのころ、白旗アパートでは の簡単なあらすじ

売れない小説家の加藤が住んでいるのは、屋根の上にたなびく白い旗が目印の年期の入った木造アパートです。

お世辞にも快適な住まいとは言えませんが、左隣りに住んでいる太石英太や右隣りの藤井寺保隆と交流を深めてそれなりに楽しくやっていきます。

太石や藤井寺は将来について真剣に考え始めていき加藤も文筆業の目通しが立った頃、アパートの取り壊しが決まるのでした。

そのころ、白旗アパートでは の起承転結

【起】そのころ、白旗アパートでは のあらすじ①

白旗を揚げた人たちが入居済み

学生作家としてデビューした加藤は仕事場に使えそうな部屋を探していると、阿佐ヶ谷駅と荻窪の中間地点にあるアパートを見つけました。

木造の2階建てで真っすぐな廊下の片側に8室、間取りは6畳と4畳半、家賃は4万円とこのエリアでは破格でしょう。

202号室に入居した加藤が屋根を見上げてみると白い旗が揚がっていて、敵軍に降参した要さいのように見えます。

その不吉な予感はズバリ的中して、すぐに原稿の依頼がこなくなり本屋の文芸書コーナーには自著が見当たりません。

真夜中まで新作の構想を考えていたために午前10時くらいに寝ようとすると、扉をノックしてきたのは203号室の藤井寺保隆です。

実家の医院を継ぐために金沢から上京してきて藤井寺ですが、毎年のように「今年が最期」と言って医学部を受験しては落ちていました。

裕福な実家から仕送りを受けている上に、父親の再婚相手・宮子には上京する度にお小遣いをもらっています。

宮子に手拭いをプレゼントしたいという藤井寺のために、加藤が手渡したのはなけなしの1万円です。

加藤とは働いてお金を返すこと約束、宮子とはもっと立派になって故郷に帰ることを約束するために空港に向かいました。

【承】そのころ、白旗アパートでは のあらすじ②

失恋の涙を海風で乾かす

生まれてから1度もアルバイトをしたことがない藤井寺のために、中野坂上と清水橋の間のガードマン業務を紹介してくれたのが201号室の太石英太です。

汗水を流してお金を稼ぐ喜びを知ったという藤井寺のために、太石は東中野の銀座通りにある居酒屋「泉」に連れていきました。

2回も留年している太石は同期はほとんど卒業してしまったために、大学に友だちもいなく居場所もありません。

そんな太石がひと目ぼれをしてしまったのが、この店のカウンターで働いている白子ゆかりです。

実家は三重県鈴鹿市、趣味はオートバイで愛車はドラッグスター、父親の介護のためもうすぐ帰郷。

大型免許を持っているという加藤に相談してみると、ビッグスクーターと「グッバイ東京」とメッセージが書かれたシャンパンを用意してくれます。

ゆかりにとって最後の出勤日にスクーターに乗って店の前で待ち伏せをしていると、彼女を迎えにきたのはおそろいのドラッグスターに乗った背の高い好青年です。

走り去るふたりを泣きながら見送った太石を慰めるため、加藤はスクーターで鎌倉の海岸まで連れていきました。

【転】そのころ、白旗アパートでは のあらすじ③

それぞれの旗をたたむ時

1週間前に上陸した勢力の強い台風によって、アパートのシンボルとも言える白い旗が吹き飛ばされてしまいました。

現在は使われていない208号室には開かずの扉があり、その先には階段もハシゴもないために枠に足をかければ屋上までよじ上ることができるでしょう。

旗がないと物足りない加藤、藤井寺、太石ですが、万が一踏み外した場合は真っ逆さまに転落してしまいます。

誰が先陣をきるのか押し問答していると、敷地内に入ってきたのは工藤と名乗る初老の男性です。

ここの土地と建物は名義上は彼のものですが、神奈川の卸問屋に勤めているためにアパートの経営や管理にまでは手が回りません。

もともとは板前をやっていた工藤の父親が従業員の寮として建てたもので、旗は一夜干しを作る際に取り込むのを忘れないための目印だったそうです。

その父親も亡くなり老朽化が目立つようになったために、半年後には取り壊しが決まっています。

残りわずかとなったこのアパートのために、加藤たちは白いカーテンを持ってきて旗の代わりに取り付けました。

【結】そのころ、白旗アパートでは のあらすじ④

目の前に広がる道のりは三者三様

立ちのきの日が迫るにつれて次々と引っ越していきますが、加藤だけは執筆が忙しくなり身動きが取れません。

工藤と仲良くなったために多少は融通をきいてもらえる上に、新しく始まった連載は予想以上に好調でした。

1カ月ぶりに顔を見せたのは藤井寺で、何年も諦めきれずにチャレンジしてきたT医大の受験を今年で最後にすると親に報告してきたそうです。

アルバイト先の若社長から気に入られて正式に雇ってもらった太石も、ウイスキーを手みやげに駆け付けます。

1階は1階で共有、2階は2階で共有と施錠はおおざっぱになっているために2種類のカギさえ手に入れば全室に入り放題です。

悪酔いした3人が空っぽになった部屋で騒いでいると、近隣住民が様子を見にきたようで慌てて逃げ出します。

ゆったりとした坂道を下ると駅前へ、右に曲がると神社へ、左に引き返すとわれらが白旗アパートへ。

3つの道に分かれたT字路まできた3人は、それぞれが思い思いの方向へと走り出すのでした。

そのころ、白旗アパートでは を読んだ読書感想

主人公の加藤がノートパソコンのキーボードをたたきながら作業していることから、時代設定は間違いなく平成でしょう。

阿佐ヶ谷駅の改札口を出てパールセンター商店街へ、神社の境内から荻窪方面へと続く細長い道を抜けると到着。

舞台になっているのは昭和のレトロな雰囲気が漂うアパートで、ひと癖もふた癖もある住人同士の触れ合いが楽しいです。

ベストセラー作家の仲間入りまでは程遠い加藤ですが、ユニークな発想と意外にも面倒見がよい人柄には好感が持てます。

モラトリアムの見本のようだった藤井寺や太石が、小さな一歩を踏み出していくラストも応援したくなりました。

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