著者:桜木紫乃 2018年12月に光文社から出版
光まで5分の主要登場人物
ツキヨ(つきよ)
38歳。北海道出身で、沖縄へ流れてきて、風俗嬢をしている。
万次郎(まんじろう)
元歯医者で、いまは刺青の彫り師。万次郎は偽名で、本当の名前はタカシマコウタロウ。
ヒノキ(ひのき)
二十代の青年。目の色が青い。ホモセクシュアルの傾向がある。
南原(なんばら)
暴力的な男。ヒノキに対して父親としてふるまう。
おばあ(おばあ)
ヒノキの面倒をみていた婦人。本人は否定するが、ユタらしい。
光まで5分 の簡単なあらすじ
沖縄に流れてきて、風俗店で働くツキヨは、元歯医者でいまは刺青師をしている万次郎と、彼になつくヒロキという青年と知り合い、同居を始めます。
彼らの住居には、南原という不気味な男がときどきやってきて、ヒロキをレイプしたり、万次郎を脅していきます。
あるとき、ヒロキの死んだ猫を埋葬するために、三人は奥武島に渡りますが、そこに南原もやってきて……。
光まで5分 の起承転結
【起】光まで5分 のあらすじ①
ツキヨは、生まれ故郷の北海道を出てさすらううちに、沖縄に流れてきて、いまは〈竜宮城〉という場末の風俗店で働いています。
あるとき、奥歯がひどく痛みましたが、ツキヨは健康保険に入っていません。
客に教えてもらった怪しげな歯医者に行ってみると、そこは〈暗い日曜日〉という名前のタトゥーハウスでした。
刺青を彫っているのは、もと歯医者だったという万次郎という男でした。
彼のかたわらにはヒロキという青年がいて、背中にモナリザの刺青を彫ってもらっています。
ツキヨは万次郎に虫歯を抜いてもらいました。
支払いは体で、というつもりでいましたが、口のなかが不潔だからという理由で断られました。
〈暗い日曜日〉の二階に住んでいるヒロキは、空きスペースにツキヨが住むことを勧めます。
ツキヨは同居することに決め、店のママに退職することを伝えました。
ママは、ツキヨに気があるらしい客のひとりから、お金を受け取っていたため、引き留めるのですが、ツキヨは振り切って辞めました。
荷物を持って店を出たツキヨに、男が近づいてきます。
男は、ママにお金を渡した客の、南原でした。
南原はツキヨがヒロキたちといっしょに住むことに賛成し、彼らに食事を作ってやってくれ、と言って、まとまったお金を渡すのでした。
なにかたくらみが隠されているようですが、ツキヨはあえて訊ねませんでした。
【承】光まで5分 のあらすじ②
ツキヨがヒノキたちと暮らし始めてしばらくすると、南原が訪ねてきました。
彼はヒロキや万次郎と顔なじみでした。
南原はヒロキを暴力で組み伏せ、セックスしたようです。
そのあと万次郎のところへ降りてきて、目立つことはするな、と釘をさしていきます。
ヒロキを介抱しながら事情を聞くと、南原はヒロキの父親らしいのです。
母親は死んだそうです。
ホモのヒロキが背中にモナリザを彫ったのは、万次郎がモナリザを好きだから、それを彫れば万次郎にやさしくしてもらえるんじゃないか、と思ってのことでした。
また、万次郎は昔歯医者をしていて、女性トラブルをおこし、南原が沖縄につれてきたのでした。
何年も行方不明なって、死亡したことにするつもりです。
南原はそれから頻繁にやってきて、食料などを置いていくようになりました。
そんなとき、ヒロキのかわいがっていた猫が死にました。
ヒロキをなぐさめるために、ツキヨは自分にできるたったひとつのこと、つまりセックスをします。
ヒロキは猫の亡骸を、おばあのいる島に埋めに行くことにします。
おばあはユタだそうです。
ヒノキ、ツキヨ、万次郎の三人は、奥武島に渡りました。
おばあの家で、ツキヨは彼女と話をします。
二十年ほど前、南原は、幼いヒロキと、母親らしい十代の少女をつれてきたそうです。
母も南原も島の人間ですから、目の青いヒロキの父親が南原であるはずがありません。
それから、母親は死んではいません。
南原があちこちから金を巻き上げて暮らす腐った男なので、おばあが母親を逃がしてやったのだ、と言います。
おばあは、ツキヨがまた流されるかもしれない、と告げます。
そんなおばあの体から、なにか不思議なものが立ちのぼるのをツキヨは見たのでした。
【転】光まで5分 のあらすじ③
翌日、猫のなきがらを埋めに行きました。
観音堂の近くの林に入って穴を掘り、ヒノキとツキヨと万次郎に南原まで加わって、猫を埋葬しました。
ヒノキはいつも弱った猫を拾ってきては、死ぬと、この場所に埋めたようです。
ヒノキは看取りの天使なのでした。
埋葬のあと、南原の勧めで、グラスボートに乗ることになりました。
操縦するのはヒロキです。
海へ出て、船底のガラス窓からきれいな海のなかをながめます。
南原と万次郎は、きれいな景色に似合わない話を始めました。
南原は、万次郎の母と連絡をとり、息子が生きていることを教えていたといいます。
母親は息子のためにずっと南原にお金を渡してきました。
そのお金の一部が、万次郎たちの生活費になっていたのでした。
しかし息子が生きていることを疑い始めた母親がもめ事をおこしそうなので、電話を入れてやれ、と南原は言います。
聞いていて、ツキヨは気分が悪くなりました。
おばあの家に帰って休んでいると、南原と万次郎がさっきの続きを話します。
母にお金をせびっている南原を、万次郎は責めます。
そのおれのおかげでお前は生きていられるのだ、とあざ笑う南原。
眠ったツキヨは、彼女の体をもてあそぶ義父のことを夢に見るのでした。
翌日、やってきた南原は、性処理してくれと、ツキヨに無理やりフェラをさせ、膣に挿入し、アナルにまで突っ込んで、ようやく果てました。
近くにいたヒロキと万次郎は、ツキヨを放って外に出ていきました。
行為を終えた南原が、酒を飲んでいるところへ、おばあが帰ってきました。
ツキヨの様子に気づいて、南原を叱りつけます。
じきに南原が眠ると、おばあはツキヨと話します。
ヒロキの母親は、無事に逃げて、先日、観光客として島へやってきたそうです。
また、南原がおばあの異父兄であることもわかりました。
おばあは、ツキヨに、島から出ることを勧めます。
お前は島の土になる人間ではない、と言って。
【結】光まで5分 のあらすじ④
雨のふる朝、ツキヨはおばあの助言に従い、島を出ることにしました。
出発する前に、ツキヨは万次郎の持っているドラッグ入りのタバコをねだり、もらい受けました。
ツキヨは、自分も家に電話するから、万次郎にも電話することを勧めます。
ツキヨとヒロキと万次郎と、三人で市場に着くと、ピンク電話から万次郎が電話します。
電話に出た女性は「タカシマ」と名のり、「コウタロウさん?」と呼びかけますが、万次郎は電話を切ってしまいます。
しかしこれで、母親は万次郎が生きていると確信し、また南原にお金を用意することでしょう。
続いてツキヨが電話しますが、誰も出ないのでした。
ツキヨは島を出るバスに乗ります。
自分の身体を汚しては洗い、洗ってはまた汚して、これからも生きていくつもりです。
本島に帰って竜宮城に戻ると、ママは出ていったようでした。
ツキヨはママの代わりを務めます。
店の女が何人か出ていき、新たに何人かが入ってきました。
しばらくして、南原がやってきました。
万次郎が死んだという報せを持ってきました。
そして、万次郎といちゃついていたヒロキが、また南原にすり寄ってきたそうです。
看取りの天使のヒロキが付いたからには、次に死ぬのは南原なのでしょう。
人は死ぬときが一番輝きます。
その光までの長い五分を、みんなが歩いているのだ、とツキヨは思います。
万次郎からもらったドラッグ入りのタバコを吸うと、視界にはもう光しかないのでした。
光まで5分 を読んだ読書感想
なんとも殺伐とした感じの、そしてしぶとい女の生きざまが描かれています。
主人公のツキヨは、母親の再婚相手に性交を教えられ、家を出て沖縄に流れ着き、風俗店で体を売っています。
いっとき奇妙な男たちと交わったものの、再び店にもどり、出ていったママの代わりをして生きていきます。
そこには愛はなく、性と生があるばかり。
でも彼女は人生を投げ出しているわけではなく、絶望しているわけでもありません。
人は光までの五分を生きているだけ、と達観し、体を売って金に換え、雑草のようにしぶとく生きていきます。
女はいつでも現実を受け入れて生きていく生物なのかもしれません。
このあたりの生き方というか考え方は、ちょっと男にはわからないです。
男はロマンを求めてしまいますから。
男性が女性というものを知るための参考書になるかもしれない作品だと思いました。
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