「星座から見た地球」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|福永信

星座から見た地球 福永信

著者:福永信 2010年6月に新潮社から出版

星座から見た地球の主要登場人物

A(えー)
主人公。アルバイトを探している。放浪癖がありひとつの場所にじっとしていられない。

B(びー)
Aの友だち。父とふたり暮らしで大人びている。

C(しー)
Aたちの学校の転校生。環境の変化に慣れていて同世代よりも経験が豊富。

D(でぃー)
天文学に詳しく想像力がたくましい。両親が不仲で家庭環境はよくない。

星座から見た地球 の簡単なあらすじ

冬のある日に生まれ故郷を突発的に飛び出していった「A」は、しばらくのあいだは帰ってきません。

シングルファーザーとのコミュニケーションに苦労しつつも「B」は年頃を迎えて、「C」は転校先で多くの友情に恵まれます。

自室に自分だけの宇宙空間を作っていた「D」が誕生日と夏の訪れを待ちわびていると、ようやくAが帰還するのでした。

星座から見た地球 の起承転結

【起】星座から見た地球 のあらすじ①

降り積もる雪に消えた4人の思い

県をまたいでどこか知らない街へ行こうと決めたAは、ポケットに入れた400円を握りしめてキップを買うために駅へと向かっていました。

アルバイトをしながら貯金をして、好きな人と好きなことをだけをして生きていくつもりです。

5分ほど前にAにひどいことを言ってしまったBは、雪が降りそうなために傘を持って後を追いかけます。

太鼓たたきやクレーンゲームなどが置いてあるゲームセンター、古ぼけた赤いタコのすべり台がある公園、近くに川が流れている土手。

Aが立ち寄りそうな場所はあらかた回ってみましたが、どこにも見当たりません。

お小遣いをもらったCは駅前のゲームセンターまで走り出すと、お気にいりの太鼓たたきの機械を一人占めにしました。

途中でAを見かけなかったかとBから話しかけられましたが、ゲームに夢中になっているために気が付きません。

Dからすると太鼓のゲームは背が低くて届かないために興味がなく、四六時中ケンカをしている父と母のことの方が心配です。

大人になったら太鼓ではなくケンカを終わらせる機械を発明しようかと考えていると、いつの間にか雪が積もっていて4人の足跡は消えています。

【承】星座から見た地球 のあらすじ②

父の第2幕と永遠の思い出

ある日を境にBはひとりでお風呂に入るようになり、父はバスタオルを片手に深い感慨にふけりました。

ここまでBを男手ひとつで育ててきましたが、ひとしおの喜びもあり一抹の寂しさもあります。

思春期の真っただ中に突入したのだから当然と言えば当然で、今後はますます男親には踏み込んでいけない領域が増えていくでしょう。

別れた妻に電話をかけつつ、父としての第2幕に向き合っていくつもりです。

親の仕事の都合であり自らが望んだことではありませんが、Cは幼い頃から気候の異なる地域を転々としてきました。

小学生に進学してからも4回ほど引っ越したために、さまざまな文化に触れていくつもの方言を使い分けることができます。

行く先々の子どもたちともすんなりと仲良くなることができて、その土地を離れてからも手紙のやり取りだけは欠かしません。

別れ際にもらったプレゼントは枕元に飾ってあって、中学・高校・社会人となった後も大切に取って置くつもりです。

【転】星座から見た地球 のあらすじ③

小さな少年の内に広がる無限の宇宙

相変わらず家では父と母が言い争いをしているために、放課後になるとDは寄り道をしてばかりで真っすぐに帰ろうとしません。

この頃になってDの仲間たちのあいだで流行しているのは、通学路で銃撃戦を繰り広げる「危険区域」という遊びです。

Dは買ってもらったばかりの水鉄砲を握りしめて繁華街を探検して、プラスチック製の銃を持ったクラスメートを地球外生命体に見立てて攻撃します。

帰宅すると自分の部屋に閉じ込もって、風船を膨らませて畳と天井の中間くらいの高さに浮かべました。

Dのおへそが地球、ゴミ箱の横に転がっているのが天王星、丸めたティッシュは小惑星、カラフルなビー玉は海王星、カレンダーにプリントされたひまわりが太陽。

テーブルの上には土星に見立てた麦わら帽子が置いてありますがまだまだ夏は遠く、赤いフェルトペンでカレンダーに印を付けたDの誕生日が来るのもまだまだ先のことです。

風船はすぐに萎んでしまったために、Dの太陽系は5分くらいしか持ちません。

【結】星座から見た地球 のあらすじ④

消えゆくものと消えない絆

夏休みに入るといつの間にかAはこの街に戻っていたようで、至るところで砂ぼこりをまとった姿を目撃されていました。

炎天下の中で路肩に停車しているワゴン車の運転席、空き地に放置されたドラム缶の中、ところどころフェンスが破れている深夜の校庭。

何人かはビックリして声をかけましたが、麦わら帽子が風に飛ばされないようにお辞儀だけしてその場を去っていきます。

出発の前には2度と戻らないと大見得を切っただけに、知り合い顔を合わすのが照れくさかったのでしょう。

それからしばらくしてBは道路の上に白いチョークで「入るべからず」と書かれた文字を発見しますが、Aの筆跡で間違いありません。

わが家ではお風呂場を立ち入り禁止エリアに指定していましたが、今夜は久しぶりに家族で入浴をしようと思います。

Cの名前はいつの間にか出席簿から消えていて、何カ月かすぎた秋の午後のこと別の役場の名簿の中にしっかりと刻まれていたそうです。

妹が生まれたことでDの家の中は多少は穏やかになり、きょうだいで音楽を聞いたり木登りをしたりしています。

Dは自分が妹より先にこの星から消えてしまうことを承知していますが、すべてが雪の上の足跡のようには消える訳ではないと信じているのでした。

星座から見た地球 を読んだ読書感想

「A」「B」「C」「D」というアルファベットで記させた無機質な登場人物ですが、読んでいるうちにそれぞれの人間らしい温かみを感じることができるでしょう。

日本全国どこへ行ってもおなじみのゲームセンターや、シュールなデザインのすべり台が目を引く公園まで。

ストーリーの舞台となる街も固有名詞こそ出てこないものの、ノスタルジックな風景が思い浮かんできました。

友だちや異性との関係性について悩みつつ、家族との距離感に気を使う繊細な内面も伝わってきます。

少年少女たちの青春はやがては終わりを告げていきますが、命の輝きが受け継がれていくようなラストの余韻に浸ってみてください。

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