「高架線」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|滝口悠生

高架線 滝口悠生

著者:滝口悠生 2017年9月に講談社から出版

高架線の主要登場人物

新井田千一(あらいだせんいち)
主人公。商社マンだが給料は安い。頼まれると断れないお人よし。

片川三郎(かたがわさぶろう)
新井田の後輩。音楽と料理が好きだがコミュニケーションが下手。

峠茶太郎(とうげちゃたろう)
片川のバイト仲間。接客も肉体労働も得意。

松林千波(まつばやしせんば)
片川の隣人。見た目は厳ついが気さくな性格。

万田レイ子(まんだれいこ)
アパート経営者。部屋の引き継ぎは住人任せで不動産業者との付き合いを拒む。

高架線 の簡単なあらすじ

2001年に東長崎のアパート「かたばみ荘」に越してきた新井田千一が、大学の後輩・片川三郎に自分の部屋を紹介したのは2005年のことです。

片川が失踪騒動を起こした後に移り住んできたのは峠茶太で、東日本大震災の後に大家の万田レイ子と店子の松林千波が親子であることを知ります。

万田夫妻の高齢と建物全体の老朽化が原因で、2016年に築50年を迎えたかたばみ荘は取り壊しが決まるのでした。

高架線 の起承転結

【起】高架線 のあらすじ①

住人から住人へのリレー

2001年の春に大学3年生になって実家を出た新井田千一は、卒業して引っ越すことになった写真サークルの先輩が住んでいたアパートの部屋を譲り受けました。

最寄りの駅は高架から地上に降りた急行列車が通り過ぎていく西武池袋線の東長崎駅で、江古田方面へ5分程度歩くとかたばみ荘が見えてきます。

木造の2階建てで1階と2階にふた部屋ずつ、6畳の板の間と2畳くらいの台所、やたらと広い風呂場に和式の便器がついたユニットバス。

新井田が住んでいたのは2階の手前にある2号室で家賃は3万円とこの沿線にしては破格ですが、引っ越しの際には次の住人を探して大家の万田レイ子に紹介しなければなりません。

大学を卒業したあとに目黒の小さな商社に入って働き始めた新井田が、職場に近い馬込のマンションへの入居を考え始めたのは入社して3年目のことです。

かたばみ荘は格安で居心地もいいですが、勤め先の同僚や取り引き先の知り合いなど社会人に紹介できるような物件ではありません。

ぎりぎり付き合いが続いていたサークルの後輩に当たってみたところ、2年生でインディーズのCDを作ったりライブハウスに出演しているという片川三郎に取り次いでくれます。

【承】高架線 のあらすじ②

パワハラ上司からツルリと逃げる

新井田が片川に2号室のカギを渡したのは2005年の秋で、それからしばらくは仕事が忙しいこともあってかたばみ荘のことを考えるゆとりはありません。

万田から電話が突如として会社に掛かってきたのは2010年のことで、片川が失踪して困っていることを告げられました。

空き室が出ているのでどうにかしてほしいという万田に本来であれば協力する義務はありませんが、住人同士に芽生えていた妙な連帯意識が戻ってきます。

大学時代の友人に聞いてみると片川はすでに退学していて、バンドも解散した末に選んだ就職先は池袋駅前の居酒屋チェーン店です。

威圧的な上司と長時間労働によって片川はたちまちノイローゼになり、8月のある朝に東長崎から池袋への上り列車ではなく下り線に乗って終点の所沢で降りてしまいました。

バスを乗り継いでいるうちに秩父の山奥まで来てしまい、空腹のあまりに目についたうどん屋で食事を取りますが財布にはお金が入っていません。

理解のある主人によって片川はそのままこの店で修行を始めることになり、2号室には以前にレコード屋で一緒にアルバイトをしていた峠茶太郎が移り住みます。

【転】高架線 のあらすじ③

震災下で安心を分かち合う

かたばみ荘に移ってから約半年後の3月11日、バイト先の新宿にいた茶太郎はテナントビル全体がきしむような音を聞きました。

散らばった商品や備品を片付けていると管理会社から営業を中止するように指示がありましたが、電車は停まっているために東長崎まで歩いて帰ります。

築年数が相当なかたばみ荘は揺れがダイレクトに届くために、余震の度に住人たちは避難しなければなりません。

ひとつ屋根の下で恐怖感を共有しているうちに自然と顔を合わせるようになり、茶太郎が特に親しくなったのが隣の部屋の松林千波です。

ポマードで後ろにべったりとセットされた髪の毛、薄く色の入ったサングラス、水色のアロハシャツ、冬場でも裸足に雪駄履き。

明らかに堅気の身なりではありませんが、不便はないかと声をかけてくれたり手料理をごちそうしたりしてくれました。

地震発生当初は少しだけ精神的に不安定になっていた茶太郎ですが、松林のおかげで何とかこの時期を乗りこえていきます。

【結】高架線 のあらすじ④

みんなの家を自分たちの手で畳む

1941年生まれの万田レイ子が75歳になった時に、夫の足が不自由になったためにかたばみ荘を取り壊して施設に入ることにしました。

万田が一貫してアパートを外部の人間に管理させなかったのは、松林が住んでいる4号室に秘密があるからです。

かつて反社会的勢力に所属していた松林が拳銃を持って逃げてきたのは20年くらい前ですが、万田にとっては生き別れになった息子であるため警察に突き出す訳にはいきません。

立ちのきの日が近づき困っていた万田に助け船を出したのが、松林に恩のある茶太郎です。

かたばみ荘は「俺たちの部屋」だという茶太郎は、以前に建設作業員の仕事をしていた解体業者を呼んで建物とまとめて銃を処分することを引き受けます。

周囲が金網とシートで覆われてトラックやショベルカーが動き出した頃には新井田も見物にきますが、うどん屋を辞めてインドでカレーの勉強をしているという片川の姿はありません。

骨組みを残して1階と2階の部屋が露になった頃、万田はかつての住人たちに穏やかな表情で頭を下げるのでした。

高架線 を読んだ読書感想

21世紀になっても昭和のノスタルジックな面影を残している、かたばみ荘のたたずまいや間取りが思い浮かんできました。

東京都のど真ん中にありながら「東長崎」という駅名のネーミングや、各駅停車しか停まらない高架下というロケーションも渋いですね。

親から子どもへと歴史や記憶が脈々と受け継がれていくかのように、目まぐるしく住人が入れ替わっていく様子に圧倒されます。

それぞれが小さな秘密やドラマチックな生い立ちや青春時代を抱えながらも、いつかはこのアパートを旅立っていくことを宿命付けられているのは仕方がありません。

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