「君は素知らぬ顔で」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|飛鳥井千砂

君は素知らぬ顔で

著者:飛鳥井千砂 2010年3月に祥伝社から出版

君は素知らぬ顔での主要登場人物

杉崎奈々子(すぎさきななこ)
ヒロイン。子役タレントから演技派に転身した女優。「ゆうちゃん」の愛称で幅広い世代からの人気を得る。

荒川奈央(あらかわなお)
母子家庭で育った女子高生。料理がうまく家庭的。

洋介(ようすけ)
大学に進学してすぐに目標を見失う。生活のリズムは昼夜逆転。

加藤由紀江(かとうゆきえ)
文房具を扱う会社で事務を担当。恋人・耕次に束縛されている。

桜木祐一(ゆういち)
奈々子の夫。海外での生活が長く高学歴だが自己主張がない。

君は素知らぬ顔で の簡単なあらすじ

荒川奈央は「ゆうちゃん」のドラマのせいで友人との関係にヒビが入りますが、生涯のパートナーと出会います。

大学に行かなくなった洋介が立ち直ったきっかけは、襲撃事件にもめげないゆうちゃんのおかげです。

加藤由紀江はゆうちゃんの結婚がきっかけで、彼の支配から逃れるために引っ越しを決意しました。

中学の頃からの交際を経て杉崎奈々子と結婚した祐一ですが、自分の妻がゆうちゃんであることは誰にも言っていません。

君は素知らぬ顔で の起承転結

【起】君は素知らぬ顔で のあらすじ①

斜め45度からのアドバイス

高校生になった荒川奈央ですがカラオケやゲームセンターに誘われても断ることが多く、中学校から仲のよかった友だちとも自然と疎遠になっていきます。

決定的だったのは「ゆうちゃん」と呼ばれている子役が出演するドラマで、主人公の両親が離婚するシーンについての感想を述べ合った時です。

クラスの女の子たちは「離婚はかわいそう」という結論に落ち着きますが、小学生の時から父親がいない奈央は自分のことを「かわいそう」とは思っていません。

何となくみんなから孤立していた時に、一緒に図書委員をしている山村という2年生に相談してみました。

奈央が座っているのは「返却口」とプラカードが設置された席、山村が座っているのは「貸し出し口。」

カウンターの端と端に座っているために45度くらいの角度があり、奈央からほとんど山村の背中しか見えません。

母が内科医だからお金で苦労したことはないこと、隣の県に引っ越してた父とも何カ月に1回から会っていること、離婚前から共働きだったから嫌ではないこと。

背中越しに山村のアドバイスを受けた奈央は、すべてをみんなの前で堂々とありのままに話すことを決意します。

【承】君は素知らぬ顔で のあらすじ②

雨にも負けずゆうちゃんのようになりたい

高校2年生の時には全国でもトップクラスの偏差値だった洋介ですが、一浪した末に第2志望の私大に入学しました。

実家を出て東京でひとり暮らしを始めましたが、現役合格がほとんどのキャンパス内では自然と孤立していきます。

6月の半ばくらいから講義をサボるようになり、昼間は寝ていて夜になると買い出しに行くくらいでほとんど外出していません。

いつものよう時間をつぶすためにテレビの電源を入れてみると、記者会見を開いていたのは3年前に女子中学生の役でテレビドラマに出ていた「ゆうちゃん」です。

今年17歳になったゆうちゃんは数日前に書店でトークショーを開催しましたが、イベントの真っ最中に男が乱入してきて大騒ぎになっていました。

逮捕された犯人は前々から何通もファンレターを送り付けてきた26歳の無職で、動機は返事をもらえないことを逆恨みしていたとのことです。

愛読書は宮沢賢治、座右の銘は「雨にも負けず、風にも負けず」、怖かったけど負けたくない。

ゆうちゃんの言葉を画面越しに聞いていた洋介は、気が付いたら右手で拳を握っています。

カーテンから外をのぞいて見ると雨上がりの空に強く風が吹いていましたが、明日の小テストを受けて後期のレポートを提出してみるつもりです。

【転】君は素知らぬ顔で のあらすじ③

リコールと占いは新生活のチャンス

短大を卒業して都内の文具メーカーで事務職をしている加藤由紀江は、ヤキモチ焼きの彼氏・耕次に悩まされていました。

上司からの業務連絡にも神経をとがらせていて、自分以外の男の番号はすべて携帯電話から消すように要求してきます。

占いをやたらと気にする耕次は、買ったばかりの銀色のパンプスを「縁起が悪い」との理由で捨ててしまうほどです。

電器メーカーに勤める耕次がリコールの処理で1週間ほど大阪に行っている日曜日、トーク番組に「ゆうちゃん」が出ていました。

由紀江と同じ26歳のゆうちゃんは唐突に結婚を発表してマスコミを騒がせていましたが、本人に言わせると「電撃結婚」ではないそうです。

お相手の男性とは中学生の頃からの付き合い、すべては10年前からの水面下での着々とした準備。

耕次との関係性も積み重ねであり、ゆくゆくは鈍い物音を立てて崩れていくでしょう。

ソファの脇においてあった情報誌の今週の運勢というコーナーには、「新しいことを始めるのに最適な日」と書いてあります。

由紀江は不動産会社で働いている友人に電話をかけて、すぐにでも入居できる部屋を探してもらいました。

【結】君は素知らぬ顔で のあらすじ④

私にとってのゆうちゃん

桜木祐一のことを初めて「ゆうちゃん」と呼んだのは、中学1年生の時に同じクラスだった杉崎奈々子です。

2年生になると祐一は両親の都合でロサンゼルスへ、奈々子はスポーツドリンクのCMに出るなど芸能界へ。

お互いに別々の道のりを歩んでいきますが、手紙でのやり取りは5年後に祐一が帰国子女枠で日本の大学を受験するまで続いていました。

ふたりは結婚を決意しますが、その時すでに奈々子は若くして国民的な女優として有名になっています。

大げさにしたくないという奈々子の意思を尊重して、役所に婚姻届出を出しただけで披露宴も結婚式もしていません。

外資系の証券会社になじめないために数年で退職した祐一の方は、小さな会社の総務に転職してからは何とかうまくやっています。

この日は同僚の山村が高校時代から付き合っている彼女にプロポーズをしたということで、お祝いにみんなで飲みにいきます。

ビルの街頭テレビには奈々子の顔がアップで映っていて通行人が「ゆうちゃん、かわいい」と騒いでいますが、祐一は素知らぬ顔で通り過ぎるのでした。

君は素知らぬ顔で を読んだ読書感想

子役として芸能活動をスタートさせた「ゆうちゃん」こと杉崎奈々子の成長を、かげながら見守っているような気分になりました。

クラスメートとの関係性に悩むがんばり屋の少女、モラトリアムな大学生、モラハラ男からがんじがらめに縛られているOLまで。

直接的には顔を合わせることのない彼ら彼女たちも、奈々子の笑顔にエネルギーをもらっていることが伝わってきます。

それぞれの日常や人間関係が少しずつリンクしていき、小さな一歩を踏み出していく後ろ姿が清々しかったです。

順風満帆にキャリアを重ねていった奈々子が、プライベートで実らせたささやかな恋にも心が温まりました。

コメント