著者:滝本竜彦 2011年3月に角川書店から出版
ムーの少年の主要登場人物
中島一郎(なかじまいちろう)
主人公。中学2年生。両親が離婚した後で祖母に育てられる。コミュニケーションが苦手で空想の世界に閉じこもりがち。
栗原弓子(くりはらゆみこ)
一郎のクラスメート。 年上の男性にひかれてしまう。
白旗弓子(しらはたゆみこ)
転校してきたばかりだが溶け込むのが早い。魔法やファンタジーの世界に憧れるが周囲には秘密にしている。
黒川慶(くろかわけい)
一郎の幼なじみ。 病気のため現在は休学中。
梅木美沙(うめきみさ)
白旗弓子の友人。クラスの女子の中でも中心的。
ムーの少年 の簡単なあらすじ
中島一郎は少し認知症が進行している祖母とふたりっきりで貧しい暮らしを送っていて、学校では仲が良い友達はいません。
そんな一郎を変えるきっかけになったのは、自称・吸血鬼の病弱な少女と魔法使いだと言い張る転校生です。
ふたりとの細やかな交流を通して、自分だけの世界に閉じこもっていた一郎も徐々に変わり始めていくのでした。
ムーの少年 の起承転結
【起】ムーの少年 のあらすじ①
父親と祖母の3人で暮らしていた中島一郎でしたが、やがて父も仕事で東京に行ったきり戻ってくることはありません。
父が一郎に残してくれたのは創刊号から最新号までがそろった、超常現象を扱った雑誌「スーパーミステリーマガジン・ムー」だけです。
通っている中学校には親しい友人も居なくて、お昼休みになると一郎は教室の隅で家から持ってきたムーを読んでいました。
ある日の休み時間のこと余りにもクラスメートの視線が気になった一郎は、ムーを片手に屋上に逃げ出します。
そこで出会ったのは見知らぬ女の子でしたが、通学カバンから取り出した生徒手帳は確かに一郎が通っている中学校のもので栗原弓子と記載されていました。
この日以来ふたりは仲良くなりましたが彼女は担任の大原との不適切な関係を続けていたようで、そのことを苦にして突発的に飛び降りてしまいます。
大原が一身上の都合で退職した後に一郎のクラスに転校してきたのが、白旗弓子という栗原弓子に生き写しの少女です。
【承】ムーの少年 のあらすじ②
死んだはずの栗原弓子が生き返ったようなショックを受けた一郎は、しばらくの間は登校できません。
学校にも行かずに自主学習も手につかないために、ひとつ年下で隣近所に住んでいる黒川慶と遊んでばかりいました。
慶には先天性の溶血性貧血の持病があり太陽の光が苦手なため、真夜中の12時を過ぎた頃にコッソリと家を抜け出して待ち合わせをします。
最近になって退院した慶でしたが、毎日の通院と輸血は欠かすことはできません。
自分の体中の血液を入れ替えて元気になることを渇望する慶のために、一郎が考えた遊びは「吸血鬼ごっこ」です。
慶にかみつかれて血を吸われた振りをするだけで、月明かりに照らされた彼女はとても喜んでくれました。
ズルズルと不登校が続いていく一郎は、すっかり朝が弱くなって暗くなると活気を取り戻していきます。
いっそのこと本物の吸血鬼になってやろうかと考えていた一郎が、偶然にも白旗弓子の姿を見かけたのは間もなく夏休みに入るある日の夜のことです。
【転】ムーの少年 のあらすじ③
潮風が吹き付ける海沿いの国道で、弓子はなぜか歩道のブロックを数えていました。
思い切って一郎が話しかけてその理由を尋ねてみると、彼女は「新しい魔法を考えていた」と打ち明けます。
コンビニエンスストアの駐車場にうずくまっているクロネコを捕まえて、「本部からの使者」だと言い張る始末です。
ふたりで一緒に「戦う」ことを頼まれた一郎は、あまりにも弓子が真剣そのものなために断ることができません。
その夜がきっかけになって、夏休み期間中に一郎は弓子に振り回されながら魔法使いとしての「お仕事」に付き合わされることになりました。
見えない何かと戦っている弓子を見ているうちに、一郎の心の奥底にも少しずつ勇気が湧いていきます。
入退院を繰り返していた慶の症状も少しずつ回復しているために、彼女は少しずつ社会に復帰する準備をするつもりです。
夏の終わりが近づいてくる中で、これまでに失ったものを取り戻すためにも一郎は学校に行く決意をします。
【結】ムーの少年 のあらすじ④
久しぶりの登校にクラスのみんなは腫れ物に触るような態度を見せていましたが、一郎は気にすることはありません。
弓子との夏の思い出が大きな心の支えになっているために、1学期と比べてみると大胆になっていました。
授業の合間には以前のようにムーに逃げることはなく、当然のように弓子に話しかけてみます。
しかし弓子にとっては転校してすぐに仲良くなった梅木美沙や、野球部の人気者でひそかにお付き合いをしている太田との関係の方が大切です。
弓子の素っ気ない態度に対して一郎が激しく詰め寄っために、教室は大騒ぎになってしまいました。
担任の先生に生徒指導室まで連れて行かれてコッテリと絞られているうちに、一郎はストーカーと勘違いされる始末です。
これまで以上に学校に居場所がなくなった一郎は、ムーに載っていたツチノコを珍しい生き物が生息しているという学校の裏山で探すことにします。
裏山へと続く遊歩道のベンチで一郎は弓子を見かけますが、ぎこちなく手を振るだけでそれぞれの道を歩いていくのでした。
ムーの少年 を読んだ読書感想
頭の中で思い描いたムー大陸の中に閉じこもっている、主人公・中島一郎のひねくれた青春の日々がユーモラスでした。
学校でも家庭でも孤高の中学生を気取りながらも、打たれ弱くて繊細なその素顔を垣間見ることができます。
そんな一郎を振り回していく、まるっきり正反対な性格を持ったふたりの女の子がかわいいです。
「吸血鬼」や「魔法使い」といった非現実的なキーワードがポンポン飛び出してきますが、あくまでも少年と少女の日常を描いていて共感できました。
学校の外ではお互いを理解し合いながらも、校内では他人を貫くことを選んだ一郎と弓子の決断が切ないです。
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