著者:池田真哉 2011年5月に文芸社から出版
空の記憶の主要登場人物
ダイチ(だいち)
主人公。10代の頃は文学青年だったが都内の一般企業に就職。お酒が好きで夜の付き合いも多い。
ミキ(みき)
ダイチの妻。何事にテキパキと行動する性格。動物が好きでトイプードルを飼っていた。
大河原陽子(おおかわらようこ)
作家として何冊かの本を出版している。夫の死を受け入れられない。
空の記憶 の簡単なあらすじ
大学時代からの交際相手と夫婦となったダイチが、悲しい別れを経験したのは結婚生活の5年が過ぎた頃です。
ミキが他界してから絶望に暮れるだけの日々でしたが、1本の電話によって天界へと呼び寄せられます。
つかの間の再会を果たして生きる気力を取り戻したダイチは、自らの特異な体験を文章にして発表することを決意するのでした。
空の記憶 の起承転結
【起】空の記憶 のあらすじ①
ダイチとミキが出会ったのは九州地方にある有名大学で、講義は隣の席で受けて同じサークル活動に所属してキャンパス内では常に一緒に行動するようになりました。
東京での就職が決まったダイチに対してミキは生まれ育った福岡で働くことを選びましたが、ゆくゆくはふたりでネットビジネスを起業するつもりです。
遠距離恋愛を続けた末にふたりは横浜で結婚式を盛大に挙げて、出席した大勢の友人たちからも温かく祝福されます。
もともと子宮内膜症を抱えているミキは子どもを産めない体質であることを打ち明けていましたが、症状は悪化していくばかりで画期的な治療方法も見つかりません。
結婚5年目のある日、ダイチはいつもより早めに仕事を切り上げて帰宅しますがミキはベッドに横たわっていて明らかに様子がおかしいです。
119番へ連絡して病院へ搬送されるまでに必死で心臓マッサージを繰り返しましたが、すでに心不全を起こしていてミキの鼓動が戻ってくることはありませんでした。
【承】空の記憶 のあらすじ②
ミキが亡くなってから、ダイチは千葉県我孫子市の実家に帰って両親と暮らしていました。
オフィスのある新橋駅までは、常磐線と山手線を乗り継いで1時間以上はかかります。
会社の所有する遊休地を開発して大きな街を作るビッグプロジェクトを担当することになりましたが、空回りして思うように進みません。
朝早くから出勤して終電の時間まで嫌みな上司にこき使われているうちに、おじの自転車屋を継ぐという名目で突発的に辞表を提出してしまいます。
ダイチのアルコールの量は見る見るうちに増え続けていき、聖書を読んで身を支える言葉を探し続けるしかありません。
ミキから突如としてダイチの携帯に電話がかかってきたのは、彼女の死から1年が過ぎようとしていた頃です。
天上の国にいるというミキは、神様にお願いして地上とダイレクトにつながる見えない専用のケーブルを敷いてもらったと説明しています。
精神的なバランスを失った末の幻聴かもしれませんが不思議と不安はなく、ダイチの体には久しぶりにエネルギーが満ちあふれてきました。
【転】空の記憶 のあらすじ③
数日後に再びミキからの電話があり、実家の東の外れにある森へと向かうように指示がありました。
指定された場所に午後11時過ぎに向かうと大きな柱のようなものが落ちてきて、ダイチの体は高速で空へと持ち上げられていきます。
一面にどこまでも広がっている花畑、果てしなく高い山から流れ落ちていく滝、7色の宝石のような星に彩られた夜空。
見たこともないほどの美しい風景の中には、ミキだけでなくダイチの祖父や曽祖父までが勢ぞろいしての大歓迎です。
死別した夫と会うために地上と天上を何度も往復しているという、ヨウコと名乗る女性とも仲良くなりました。
彼女の話では生きている人間がここに居られる時間は限られていて、下界に戻るとすべての記憶が失われてしまうそうです。
ここでの出来事を記録するためには紙にメモとして残すしかなく、地上に帰ったダイチが自らの役割を果たすまでミキとは会えません。
胸や腹部が異様なほど熱くなってきたダイチは意識を失ってしまい、気がつくと東の森の入り口に倒れています。
【結】空の記憶 のあらすじ④
仕事を辞めてからは時間に拘束されないために、ダイチは書店にふらりと立ち寄って解放感を味わうことにしました。
ダイチが手に取ったのは「天上の時」というタイトルの本で、著者の欄には大河原陽子と署名してあります。
出版社に連絡先を尋ねてみましたが、個人情報の保護を理由に教えてもらえません。
自分の名前とメールアドレスだけを告げて電話をきると、後日著者の方から近所の喫茶店での面会を申し込まれます。
ようやく夫の遺品を処分して引っ越しができたという陽子の表情には、空の上で見た「ヨウコ」よりもしっかりとした芯の強さが出ています。
一時期は夢中になって詩を書いていたこともあったダイチの胸のうちには、その時に味わった充実感がよみがえります。
ミキと会えたこと、ご先祖様からも話を聞けたこと、陽子と同じ悲しみや痛みを共有できたこと、天上での壮大な眺め。
すべてを物語として多くの人に伝えるために、ダイチは執筆活動を開始するのでした。
空の記憶 を読んだ読書感想
大学生、社会人と順調に交際を重ねていき、見事にゴールインする若さと希望に包まれたひと組のカップルがほほえましいです。
そんな幸せでいっぱいなふたりが、ある日突然に引き裂かれていく急転直下の展開には胸が痛みました。
生涯を誓い合ったパートナーとの別れに見舞われて、すさんだ生活に陥っていく主人公・ダイチの虚無感が伝わってきます。
リアリティーのあるヒューマンドラマかと思いきや、後半になるとファンタジーへとガラリと様変わりしていきビックリです。
愛する人との時間は余りにも短いからこと、形のあるものに刻みたくなるのかもしれません。
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