【ネタバレ有り】イッツ・オンリー・トーク のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:絲山秋子 2004年2月に文藝春秋から出版
イッツ・オンリー・トークの主要登場人物
橘優子(たちばなゆうこ)
元新聞記者。現在は画家。
本間俊徳(ほんまとしのり)
優子の大学時代の友人。元銀行員。
林祥一(はやししょういち)
優子の従兄弟。福岡県在住。
野原理香(のはらりか)
優子の大学時代の友人。故人。
イッツ・オンリー・トーク の簡単なあらすじ
新聞社に就職した橘優子は心の病が原因となって仕事を辞めてからは、行きずりの男を自宅に連れ込むか趣味で絵を描いているかの毎日です。心機一転新しい場所での生活を始めていく優子は、長期間の入院生活で疎遠になっていた昔の仲間たちとも再会を果たして失われた時間を取り戻していくのでした。
イッツ・オンリー・トーク の起承転結
【起】イッツ・オンリー・トーク のあらすじ①
大学在学中から優秀な成績を収めていた橘優子の内定先は、誰しもが知る新聞社の社会部です。
若くしてローマ支局に赴任するほど順調な仕事ぶりでしたが、ある日突然に精神的な疾患が原因となって休職を余儀なくされてしまいます。
傷病手当金は支給されて会社にも籍はありましたが、同僚たちとは自然と疎遠になっていきます。
遂には退社して金遣いの荒い同棲相手のために出会い系サイトのサクラメールのアルバイトをしたり、映画館で遭遇した痴漢や刑務所帰りの反社会的勢力の構成員と不定期に会うようになったりと生活はすさんでいく一方です。
気まぐれに描いてみた1枚の絵が思わぬ高額で売れたことだけが、今の優子にとっては唯一無二の慰めでした。
【承】イッツ・オンリー・トーク のあらすじ②
山手線に乗っていたある日のこと、ふとした気まぐれから品川駅で京浜東北線に乗り換えて蒲田で途中下車しました。
長期間東京都内で暮らしていましたが、この街に足を踏み入れるのは数えるほどしかありません。
気の向くままに近隣を散歩していると、優子の胸の内に不思議な懐かしさと安らぎが湧いてきます。
さっそく地元の不動産屋を何軒か梯子しますが、不安定な職種が災いしてなかなか賃貸契約を結ぶことが出来ません。
ようやく見つけたのは西蒲田にひっそりと佇んでいる二間のアパートになり、日当たりが悪く風通しの良い部屋は絵を描くには最適な条件です。
貯金を崩して契約を結んだ当日に、これまでの怠惰な日々との別れを決意するのでした。
【転】イッツ・オンリー・トーク のあらすじ③
引っ越してきた数日後に朝早くから蒲田駅周辺を散策していた優子は、突如として拡声器で自分の名前を呼ばれました。
演説してしたのは学生時代の友人・本間俊徳で、就職した銀行を辞めて都議会議員に出馬するとのことです。
翌日の夜には居酒屋に飲みに行きでお互いの近況を交換し合いますが、ふたりの共通の友人で26歳の若さで交通事故で亡くなった野原理香のことだけは話題に出せません。
夏になると本格化する選挙運動のボランティアを探している本間に、優子は福岡県からやって来た無職の従兄弟・林祥一を紹介します。
いやいやながらも本間の事務所に通いだした祥一でしたが、事務所にいた若い女性に一目惚れして俄かにやる気を出し始めました。
【結】イッツ・オンリー・トーク のあらすじ④
本間は見事に三期目二位で当選を果たして、すっかり政治に夢中になってしまった祥一は福岡に帰って地元の選挙事務所で働くことにしました。
体調不良のために危うく理香の命日を忘れるところだった優子は、愛車のランチア・イプシロンに乗り込んで多磨墓地へと向かいます。
26歳から年齢を重ねることのない彼女の顔は次第に記憶の中で薄れていき、遺影の中の無表情しか思い出すことが出来ません。
雨が降る中を傘をさしながらお墓を探し歩いて、小さな百合の花を水差しに活けて両手を合わせます。
これからも苦しくても何とか生き抜くことを死者の前で誓った優子は、帰りの車内でキング・クリムゾンの「イッツ・オンリー・トーク」をかけるのでした。
イッツ・オンリー・トーク を読んだ読書感想
登場人物たちが繰り広げる会話の中でも特に魅力的だったのは、「パンをトーストするのと同じくらい単純なこと」というセリフでした。
焼いて食べてしまえば何も残ることがない食パンのように、次から次へとパートナーを取り替えていく優子の姿が思い浮かんでいきます。
数多くの男たちとの出会いと別れを経験しながらも、決して自分らしさを見失うことのない生きざまが美しいです。
ストーリーの舞台に設定されている、東京都大田区蒲田の都会でもなく田舎でもない微妙な距離感にも重なるものがあります。
キング・クリムゾンの名曲「イッツ・オンリー・トーク」に著者が託した深いメッセージと、クライマックスで優子に訪れる細やかな旅立ちにはホロリとしました。
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