「清貧譚」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|太宰治

「清貧譚」

著者:太宰治 2015年9月に青空文庫PODから出版

清貧譚の主要登場人物

馬山才之助(まやまさいのすけ)
主人公。先祖代々の土地と財産があり30歳になるまで仕事はしていない。園芸の知識が豊富で衣食住を切り詰めてまで菊に情熱を注ぐ。

陶本黄英(とうもときえ)
年齢は20歳くらいで色が白くてスタイルもいい。義理を重んじる性格。

陶本三郎(とうもとさぶろう)
黄英の弟。端正な顔立ち。自分の実力で生活の糧を得るのがモットー。

清貧譚 の簡単なあらすじ

菊の苗を買い付けに沼津まで足を運んだ馬山才之助は、帰りに道連れになった姉と弟を江戸・向島にある自分の家に招待しました。

弟の陶本三郎が育てた菊によって馬山の家はあっという間に大きくなっていき、才之助は姉の黄英を妻とします。

ふたりは人間ではなく菊の精で三郎は苗に変身しますが、菊黄は人間の女性のまま才之助の側にいるのでした。

清貧譚 の起承転結

【起】清貧譚 のあらすじ①

何よりも菊を愛でる男

江戸時代の向島、馬山才之助は貧しく独身を貫いていましたが菊の花だけにはお金と手間を惜しむことはありません。

良質な苗があると聞くと無理をしてでも買い求めていて、箱根の山をこえて沼津まで出掛けたのは初秋のことです。

お目当ての苗をふたつ購入してから小田原辺りを通り過ぎた時、やせた馬に乗った美しい少年が話しかけてきます。

名前は陶本三郎、生まれも育ちも沼津、早くに父と母と死別、馬の陰に隠れている赤い服を身にまとった女性は姉で黄英。

きょうだいはふたりっきりで暮らしてきましたが、この頃になって黄英が沼津を嫌がったために江戸へ向かう途中です。

一刻も早く勤め先を探すつもりだという三郎を、才之助は強引に自宅へと招待します。

才之助が使っている母屋は想像以上に荒れ果てていて、三郎はうんざりしてしまいました。

自分の畑に案内してのんきに菊を自慢する才之助のことを、黄英はまんざら嫌いでもありません。

ふたりは菊畑の真ん中に立つ納屋に、しばらく身を寄せることにします。

【承】清貧譚 のあらすじ②

ひと晩のお礼とお詫びは菊でお返し

翌朝になると三郎たちが乗ってきた馬はさんざんに畑を踏み荒らした揚げ句に、菊を食べてどこかへ行ってしまったようで姿がありません。

今すぐにでも馬を探しに行きたいという弟を引き留めて、黄英は一宿一飯の恩に報いるために才之助の畑仕事を手伝わせました。

葉っぱを食い千切られて枯れかけていた菊も、三郎の手にかかるとあっという間に息を吹き返しきれいに咲き誇ります。

土地を半分だけ貸してもらえば立派な菊を育てて、浅草の市場まで持っていってお金に変えてくるという三郎の提案を受けるつもりはありません。

愛する花を売って米や塩を買うのは汚らわしいというのが表向きの理由ですが、まるっきり素人のはずの三郎が自分よりも菊の扱い方がうまいのが面白くなかったのが本音です。

母屋に引き上げて布団にくるまってふて寝をしてしまった才之助を尻目に、三郎は捨ててあった苗を勝手に拾ってきて納屋の裏に広がっている10坪くらいの空き地に植え始めます。

【転】清貧譚 のあらすじ③

にわかに勃発した菊バトルを制したのは

次の日から才之助は畑をふたつに分けて、その境界線に高い生け垣を作ってお互いに見えないようにしました。

馬山家と陶本家が絶交してから最初の秋、才之助の畑は例年通りに立派に実りましたが三郎が手塩にかけた菊には到底敵いません。

収穫した菊を売って大いにもうけた三郎たちの納屋はきれいに修繕されていて、陶本の家は富んでいく一方です。

いさぎよく負けを認めた才之助は頭を下げて三郎の弟子にしてもらい、花の作り方の秘密を教えてもらいます。

三郎がアドバイスしたのは指先の感覚や無意識のもので、これといった知識や特別な技術がある訳ではありません。

生け垣は取り払われて両家は再び自由に行き来するようになった時、三郎は思いつめたような口調で黄英との結婚をお願いします。

才之助が提示した条件はただひとつ、彼女が清く貧しい毎日に耐えられるかどうかです。

その日の夜になると才之助の汚れた寝床には、白くて柔らかい黄英の体が風に乗って舞い込んできました。

【結】清貧譚 のあらすじ④

酒と菊に溺れる日々

年が明けて正月に夫婦となったふたりはしばらくはあばら家に住んでいましたが、黄英は陶本家と接する壁に穴を空けました。

穴の向こう側から新婚生活に必要な道具をあれこれと持ち運んでくるうちに、才之助の家は物で埋め尽くされてしまい清貧とは言えません。

才之助は庭の隅っこに1坪ほどの掘っ建て小屋を作って、そこにひとりで閉じ込もって寝起きをする覚悟です。

2日ほど意地で続けていましたが、3日目の夜になると寒さが厳しくなってすぐに黄英の腕の中に転がり込んできます。

隅田川の岸辺に桜が咲き始めた頃になると才之助は強情を張らなくなり、馬山と陶本の家はぴったりと密着して区別は付きません。

菊の世話も家のことも三郎と黄英に任せるようになった才之助は、近所の人たちと将棋をさしたりお花見をしたりと悠々自適の身分です。

義理の兄からお酒を勧められた三郎は断ることができずに、酔いつぶれて寝転んでいるうちに体が溶けていきます。

あとに残った酒くさい1本の苗を庭に植えた才之助は、辛うじて女体を保っている黄英とふたりで遊んで暮らすのでした。

清貧譚 を読んだ読書感想

今の時代に誰しもが他人には理解が難しい趣味やコレクションを、ひとつやふたつくらい抱えているはずです。

それでも快適な生活を犠牲にしてまで菊に没頭していく、主人公の馬山才之助に共感できる人は少数派でしょう。

菊に関しては右に出るものはいないと自負していた才之助を、あっさりと打ち負かす陶本きょうだいの登場がミステリアスでした。

あくまでも純粋に菊の美しさと向き合いたいという才之助の夢見がちなところと、実利を追及する三郎とのコントラストも際立っています。

ピュアなファンタジーでありながら、ちょっぴり背徳感のあるラストも申し分はありません。

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