著者:山田悠介 2020年7月に河出書房新社から出版
俺の残機を投下しますの主要登場人物
上山一輝(かみやまかずき)
主人公。負けん気の強いプロゲーマー。収入は安定しない。
結衣(ゆい)
一輝の元妻。仕出し弁当屋のパート店員。シングルマザーとして子育てに追われる。
晴輝(はるき)
一輝の息子。病弱だか友達思いな小学生。
梅本(うめもと)
一輝の恩師。日本人として初のプロゲーマーとなった。引退後は若手の育成に力を注ぐ。
野々村礼音(ののむられおん)
晴輝と同じ学校に通う8歳。素行が悪く両親ともにモンスターペアレンツ。
俺の残機を投下します の簡単なあらすじ
30歳を目前にして伸び悩んでいたプロゲーマー・上山一輝の前に現れたのは、同じ顔をした3体の「残機」です。
「本体」を救うために次々と消滅していく残機を目の当たりにして、一輝は自分本意だった生き方について考え直し始めます。
プライベートではかつての妻・結衣と息子の晴輝との関係を修復しつつ、海外での活躍を求めて旅立っていくのでした。
俺の残機を投下します の起承転結
【起】俺の残機を投下します のあらすじ①
上山一輝は横浜に事務所を置く梅本eスポーツマネージメント(UME)に所属する、格闘技を得意とするプロゲーマーです。
ここ1年は主だった大会で良い結果を残せていない一輝は、監督の梅本から夏のワールドカップ代表メンバーから外されてしまいます。
UMEは成績によって基本給が増減するインセンティブ制をとっているために、一輝は桜木町にあるエンターテインメント施設でアルバイトをしなければなりません。
勤務を終えた一輝を待ち構えていたのは3人組の男性たちで、マスクを取った素顔はみんな一輝とそっくりでした。
リュウスケ、シンヤ、ダイゴと名乗る3人は「残機」で、「本体」である一輝が命の危険にさらされる度に1機ずつ消えていくそうです。
残機と本体の潜在意識はリンクしているために、3人はこれまで一輝がどんな人生を送ってきたか把握しています。
ゲーム三昧で頼る友だちも貯金もないこと、高校の時のクラスメート・結衣と結婚するもののすぐに別れたこと、離婚間際に授かった晴輝の養育費が近頃では滞りがちなこと。
半信半疑だった一輝は試しにダイゴを、次の日から代理でバイト先に送り込んでみます。
【承】俺の残機を投下します のあらすじ②
プレイングワン桜木店ではカラオケボックスの接客を任されていた一輝でしたが、コミュニケーションに難がありうまくいっていません。
たまたま出勤したダイゴの方がお客さんや同僚からの評判がいいために、しばらくはピンチヒッターとして出勤を続けさせます。
一輝にとっては近々千葉県の幕張メッセで開催される予定の、eスポーツ選手権に向けてのトレーニングの方が大切です。
大会当日の朝に寝坊してしまった一気がタクシーで会場近くを急いでいる時に、高齢者ドライバーが運転する軽のミニバンと衝突してしまいました。
3日間ほど意識を失っていた一輝は選手権を棄権となってしまいましたが、シンヤが犠牲になってくれたためにかすり傷さえありません。
一輝が入院している間に晴輝の面倒を見ていたダイゴは、学校でいじめに遭っていることに気がつきました。
いじめの主犯格・野々村礼音を突き止めたリュウスケがお仕置きをしますが、かえって問題がこじれてしまいます。
【転】俺の残機を投下します のあらすじ③
タイミングが悪く礼音の自宅で不審火の騒ぎが発生し、煙を大量に吸い込んだ礼音は近くの病院へと運ばれていきました。
礼音の母親から火を付けた犯人だと勘違いされてしまった一輝は、川崎駅のホームから線路上へと突き落とされます。
直後に快速列車が滑り込んできましたが一輝は無事で、身代わりになったリュウスケの姿はありません。
放火犯はすぐに逮捕されたものの一時的に一輝は川崎警察署に勾留されてしまい、eスポーツ界全体のイメージを汚したとして梅本から言い渡された処分は事務所の解雇です。
プロゲーマーとしての夢が破れた一輝は自分のアパートに閉じ込もってしまい、ろくに食事を取ろうとしません。
そんな一輝を心配しているのは最後の1機となったダイゴで、泊まり込みで何くれとなく身の回りの世話を焼いて上げます。
ダイゴの地道な努力ですっかり晴輝とも打ち解けてきた一輝は、久しぶりに結衣とふたりっきりで今後の養育費の支払いについて話し合いました。
【結】俺の残機を投下します のあらすじ④
プレイングワンでの勤務態度が認められてバイトリーダーから正社員への道が見えてきた一輝に対して、あえて結衣は「ゲームを諦めるな」とエールを送りました。
結衣の言葉に勇気づけられてプロゲーマー復帰を決意した一輝は、東京ドームで開かれる国際eスポーツ主催のワールドカップへエントリーします。
この大会はアマチュアでも参加が可能ですが、梅本事務所のバックアップを失った一輝にはシード権がありません。
一般参加選手として予選からスタートした一輝ですが、結果は日本人では最高成績の銀メダルです。
テクニックだけでなく対戦相手に敬意を払うようになった一輝を見直して、梅本は現役時代のライバルでもあり今現在はロサンゼルスでeスポーツ事務所を主催するアメリカ人を紹介してくれました。
成田空港の国際ターミナルに見送りにきた結衣の指に、一輝はワールドカップ準優勝の賞金を使って買った結婚指輪をはめます。
一瞬だけ彼女が本体ではなく誰かの残機であるような気がしましたが、不安を振り切り搭乗口へと向かっていくのでした。
俺の残機を投下します を読んだ読書感想
もしも自分の代わりに仕事に行ってくれたり痛い思いをしてくれる「分身」がいたら、などと妄想してしまうことは誰しもあるのではないでしょうか。
そんな夢のような「残機」を手に入れた青年のサクセスストーリーかと思いきや、予想外の落とし穴が待ち受けていました。
ゲームの世界だけで生きてきた主人公の上山一輝が、残機を通して別れた妻子と向き合っていく姿に励まされます。
一見すると華やかなゲーム業界で、厳しい下積みを送っているプロゲーマーたちの日常もリアルに描かれていました。
人生にはリセットボタンもゲームオーバーもないことを知った一輝の、クライマックスでの決意も感動的です。
コメント