著者:澤村伊智 2020年8月に双葉社から出版
うるはしみにくし あなたのともだちの主要登場人物
小谷舞香(こたにまいか)
都立四ツ角高校3年2組の担任。高校教諭になって10年。
羽村更紗(はむらさらさ)
3年2組で一番の美少女。成績もよく、カーストのトップとしてクラスに君臨。
野島夕菜(のじまゆうな)
3年2組、更紗グループの一員。かわいらしい容貌をしたカーストNo2.
鹿野真実(かのまみ)
3年2組の生徒。更紗を崇拝し、「さら様」と呼んでいた。
九条桂(くじょうけい)
3年2組で中下位にいる少女。中学のときに交通事故にあって、顔半分にひどい傷を負い、いつも大きなマスクをしている。
うるはしみにくし あなたのともだち の簡単なあらすじ
ブスな〈わたし〉のもとに、伝説の占い雑誌が届きました。
ほかの女子の容貌をみにくくしたり、美しくしたりできる、おまじないの力を与えてくれる雑誌です。
〈わたし〉は、その力を使って、クラスで一番の美少女をみにくくし、自殺へと追い込みました。
その後も、次々とクラスメイトをみにくくしていきます。
はたして〈わたし〉とは誰なのでしょう?
うるはしみにくし あなたのともだち の起承転結
【起】うるはしみにくし あなたのともだち のあらすじ①
都立四ツ角高校3年2組で一番の美少女、羽村更紗が自殺しました。
遺書もなく、なぜ自殺したのか、わかりません。
男子たちは嘆きますが、女子たちは冷ややかです。
スクールカーストの頂点にいた更紗がいなくなって、No2の地位だった野島夕菜が、クラスに君臨しはじめます。
翌週、3年2組の担任である小谷舞香が古典の授業をしていると、野島夕菜の顔中にニキビが吹き出て、つぶれ、血まみれになりました。
彼女には思い当たることがあるようです。
「ユアフレンド」という言葉を残して、教室から逃げ出していきました。
一方〈わたし〉は、更紗と夕菜、ふたりの美少女の事件を回想します。
「ユアフレンド」のおまじないをうまく使えたことで、〈わたし〉は楽しくてしようがありません。
さて、夕菜の事件の翌週、教室の黒板に、奇妙な展示がありました。
「うるはし」の単語の下に、美しい時の更紗と夕菜の写真が貼ってあり、「みにくし」の単語の下に、みにくくなったふたりの写真が貼ってあります。
さらに「わたしのともだち」と書いてあります。
なんのことかわからない舞香が、古参の教師に尋ねると、こんな話を教えてくれました。
四ツ角高校では、昔から、美少女とみにくい少女が自殺する事件が何度も起きているのです。
美少女はみにくくなったために自殺したようです。
高校に伝わる伝説によると、ブサイクな女生徒のもとに「ユアフレンド」という占い雑誌の、ありえない号がある日届くのだそうです。
これを入手した女生徒は、他人をみにくくできるおまじないの力を持ちます。
彼女はその力を使って美少女をみにくくしたのでした。
過去の事件と伝説から、舞香は、3年2組の誰かが「ユアフレンド」を手に入れ、呪いの力を持ったのだと判断しました。
というのも、夕菜の近くから、みにくくなるように、との呪符が見つかっているのです。
また、自殺した更紗は、老婆のような顔になっていたこともわかりました。
【承】うるはしみにくし あなたのともだち のあらすじ②
〈わたし〉は次の標的の写真を印刷し、自分のにきびをつぶして、血膿を塗り付けています。
こうして呪具を作っているのです。
さて、3年2組では、真実が犯人捜しのため、聞き取り調査をしています。
担任の舞香に対しても、例外なく聞き取りを行います。
そんな中、更紗や夕菜の腰巾着である美しくもない少女、香織の机から、呪具が見つかりました。
しかし、香織はいたずらだと一笑にふして、呪具を破り捨てたのでした。
その日の放課後、香織を含むクラスの女子四人が、三百階段と呼ばれる石段の上で、事件のことを討論していると、突然、香織の顔がみにくく変形しました。
香織はよろけて階段から落ちて、死んでしまいました。
香織の死後、厳戒態勢が敷かれ、3年2組の教室は、朝八時から終業までしか使えなくなります。
真実は順番に聞き取り調査を続け、とうとう〈わたし〉にもアリバイを尋ねてきました。
一方、昔の交通事故のために顔半分が傷だらけになった九条桂は、舞香が本当によい先生だと気づき、呪いを止めようと決意します。
翌日、桂と真実が登校してみると、真実の下駄箱に呪具が入れられていました。
そして、舞香のもとにも、郵便で呪具が送り付けられてきたのでした。
【転】うるはしみにくし あなたのともだち のあらすじ③
〈わたし〉は、複数の女子に同時におまじないをかけることができるのか、実験してみようとして、鹿野真実と小谷舞香を標的にしたのでした。
さて、真実の下駄箱に呪具が入っていた日の、学年集会の場で、真実は突然ガイコツゾンビのように痩せこけてしまいました。
真実は舞香にかたき討ちを頼みます。
そんな舞香のもとに、スマホが届けられました。
クラスのNo3女子の机に、更紗のスマホが入っていたというのです。
そのとき、舞香の顔が、呪具の内容通り、みにくく変形したのでした。
みにくくなった舞香は、二番目の犠牲者、夕菜のところへ謝りにいきます。
というのも、前回お見舞いしたときに、知らず知らずに上から目線になっていたからでした。
家に閉じこもっていた夕菜は、犯人らしい者が、SNSに投稿しているのを見つけていました。
舞香がそのSNSを読んでいるうちに、犯人は、呪いの効いた舞香が早退したことまでアップしてきました。
翌日、マスクをして登校した舞香は、3年2組で、犯人に向かって「わたしでおしまいにするように」呼びかけます。
すると、舞香がトイレの個室に入ったところへ女子生徒がやってきて、「クラスでひとりを選べば、それを最後にする」と取引を持ち掛けてきました。
トイレを出た舞香は、ほかの教師の目撃情報から、さっきの女子生徒の正体を知ります。
舞香は桂と犯人について話しますが、桂から、呪いについて妙なことがある、と言われます。
というのも、真実が受け取った呪具には、写真しかなく、どのようにみにくくなるのか書いたものがなかったのです。
一方、〈わたし〉は、家で母から、プリンタのそばに落ちていた文書を渡されます。
それは真実に送った呪具に入れたはずの手紙でした。
呪いの文章が真実に渡らなかったのに、なぜ真実の顔がみにくくなったのか? 疑惑が芽生えます。
【結】うるはしみにくし あなたのともだち のあらすじ④
桂の証言により、真実が受け取った呪具には、写真しか入っていなかったことがわかりました。
しかし、犯人はSNSに呪いの文を送ったと投稿しています。
どこかがおかしいのです。
一方〈わたし〉は、舞香との取引きを、期末テストの最終日に指定します。
舞香がクラスのひとりを選んだら、そのひとりをみにくくして、それで騒動を終わらせるのです。
〈わたし〉はクラスの女子全員分の呪具を作り、期末テストの最終日に臨みました。
教室で〈わたし〉の顔に異変が起こります。
不細工な顔が、普通の顔になったのです。
〈わたし〉の背中には、まじないの文章と写真が貼られていました。
〈わたし〉は犯人などではなく、踊らされていたのです。
それを知った〈わたし〉は自殺しました。
〈わたし〉の葬儀に集まった舞香、桂、夕菜たちは、事件について話します。
みにくくする呪文は、実はみにくく見える幻覚を作り出すだけであることがわかります。
物質としての顔が変形するわけではないのです。
終業式のあと、舞香はクラスのNo3の中杉千亜紀と対峙しました。
彼女こそが真犯人でした。
千亜紀はクラスのなかでは魅力的な容姿でした。
しかし、千亜紀の姉はとんでもない美貌の持ち主で、モデルをしています。
姉との比較で、千亜紀は幼いころから容姿にコンプレックスを持っていたのでした。
そんな千亜紀のもとに、ある日、伝説の「ユアフレンド」が届いたのです。
千亜紀は、クラスの底辺にいる〈わたし〉に寄りそう気持ちから、彼女に「ユアフレンド」を渡し、彼女がSNSにアップする内容の通りに呪いをかけたのでした。
実際の呪いは、千亜紀がスマホを使って行っていたのです。
千亜紀は自宅マンションのベランダから飛び降りで死んでしまいました。
うるはしみにくし あなたのともだち を読んだ読書感想
たいへん読みやすい文章で、サクサクと読むことができました。
ホラーでもあり、ミステリーでもある、という小説です。
最初は〈わたし〉というのが犯人であるように見えます。
3年2組の女子のどの子が〈わたし〉なのか、それを推理するのが楽しみで読んでいくことになります。
途中で〈わたし〉の名前についてヒントが出されますので、ていねいに読み進んだ人には、〈わたし〉が誰かわかるようになっています。
これで犯人がわかったぞ、と得意になっていると、どんでん返しがあり、実は、となります。
さらに、呪いの正体についても、考えられていたものとは違うこともわかってきます。
こうして、いくつものどんでん返しが仕掛けられていて、読むほうは驚くばかりです。
ミステリー色が強いために、逆にホラー色がそれほどでもなくなった、という意見もあるでしょうが、そのあたりは好みの問題でしょう。
また、顔がみにくくなる描写がつらい、と感じる女性がいるかもしれませんので、要注意です。
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