著者:前田司郎 2018年1月に文藝春秋から出版
愛が挟み撃ちの主要登場人物
山下俊介(やましたしゅんすけ)
主人公。大学生の頃は役者を目指していた。卒業後はごく普通の会社員。幸せな家庭を築いて子育てをするのが夢。
山下京子(やましたきょうこ)
俊介の妻。旧姓は吉田。 芝居を辞めたあとに会社勤めを始める。理路整然と行動するタイプ。
水口(みずぐち)
俊介の大学時代のサークル仲間。才能はあるが完全主義者で周囲と折り合いを付けられない。
上村美登里(うえむらみどり)
俊介の大学時代の先輩。 映画監督として要領よく成功していく。
愛が挟み撃ち の簡単なあらすじ
山下夫婦は結婚から6年がたっても子供を授からないために検査を受けてみると、夫・俊介の生殖機能に問題が見つかりました。
俊介は大学時代にサークル活動を通じて親しくしていた水口に、妻の京子を妊娠させるように依頼します。
水口と京子の間に産まれた赤ちゃんは「愛」と名付けられて、夫婦の子として育てられていくのでした。
愛が挟み撃ち の起承転結
【起】愛が挟み撃ち のあらすじ①
大学の映画研究会のメンバーになった山下俊介は、4歳年上の上村美登里が監督する自主映画「暗い森」に出演しました。
2年生になった時に短編映画を発表して注目を集めていた、水口という同い年の学生も加わって意気投合します。
3人がよく集まって他人の作品の批評や自分の夢を熱く語りあっていたのが、恵比寿駅と目黒駅の中間にある深夜営業の喫茶店です。
この店でアルバイトをしていたのが吉田京子で、彼女は下北沢にある小劇場で劇団員として活動を続けていました。
4人の中で1番最初に成功をつかんだのは美登里で、コンテストで小さな映画賞をもらって将来を期待されています。
水口は大学を中退して美登里の撮影を手伝いながら、自作のシナリオを書き続けていましたが一向に完成しません。
京子は自分の演技を酷評した水口のことを、いつの間にか好きになってしまいました。
ひそかに京子に思いを寄せていた俊介は、水口と差を付けるためにもバイト先の会社に正社員として就職します。
【承】愛が挟み撃ち のあらすじ②
就職も決まった俊介は京子と結婚できると信じていましたが、彼女が水口と付き合い始めたことを美登里からの電話で知らされました。
ショックから食欲が衰えた俊介はみるみるうちに痩せていき、ほとんど部屋から出てこないために一緒に暮らしている両親は心配してばかりです。
4月になって正社員として働き始めると、仕事をしている間だけは何も考えずにすみます。
退社時間を迎えても真っすぐに帰宅する気になれない俊介が夕闇の街をうろうろと歩き回っていると、灰色のビルのエントランスの真っ白な桜の木の下に水口が立っていました。
五反田の目黒川の向かいにある安い居酒屋でビールジョッキを片手に乾杯すると、水口は初めて自分の気持ちを打ち明けます。
もう京子とは会うつもりはないこと、本当に愛していたのは俊介ただひとりだったこと。
その夜を境にして水口は俊介と京子の前から姿を消してしまい、残されたふたりは当て付けのように結婚をしました。
夫婦のあいだで水口の名前が出たのは、結婚から6年後のことです。
【転】愛が挟み撃ち のあらすじ③
京子が36歳を迎えて俊介がもうすぐ40歳になろうかという12月、ふたりは練馬にある不妊治療を専門とするクリニックを訪れました。
夫が亡くなってから落ち込みがちな母のために孫の顔を見せてあげたいという俊介、それほど積極的ではなく年齢的にも潮時かと思っていた京子。
ふたりの間に微妙に温度差がある中で検査を受けてみると、俊介の精巣には生まれつき精子を作る能力が備わっていないことが判明します。
京子の方は意外にもさっぱりとした気分で早々と切り替えましたが、俊介は想像以上に傷ついているようです。
会社から帰ってくるなり家の中を歩き回ったり、急に腕立て伏せや腹筋を始めたり、高価な急須を購入してお茶に凝り出したかと思えば花を生けてみたり。
年が明けた2月のある日、俊介はやっぱり京子の子供があきらめきれないと話を蒸し返します。
人工受精や養子縁組みでは愛せるか自信がないという俊介は、水口と京子で子供を作ってほしいと言い出しました。
【結】愛が挟み撃ち のあらすじ④
下北沢のカフェで久しぶりに再会した水口は、相変わらずバイトをしたり知り合いに頼まれてちょっとした文章を書いていたりと定職についていません。
数年前に海外の映画祭で賞を取ってさらに有名になった美登里とは、今でもたまに会っているそうです。
毎回20万円を京子から水口に直接手渡す、京子が妊娠したらさらに100万円、妊娠するか5回で妊娠しなかった時点で「契約」は終了。
大きな出費ですが俊介と京子には妥当な金額にも思えて、定期的な収入がなく有名な俳優から金銭的な援助を受けている水口にしても有りがたい話です。
京子は無事に女の子を授かって、俊介は約束通りに水口にお金を支払いました。
3人の秘密をまったく知らない周囲の人たちは、産まれてきた赤ちゃんのことを心から祝福します。
しばらくしてから1度だけ水口から連絡がきましたが、俊介と京子は無視をしてもう会うつもりはありません。
窓の外で桜が咲き始めた頃に、俊介は子供に「愛」と名付けるのでした。
愛が挟み撃ち を読んだ読書感想
物語の前半は大学を舞台に映画や演劇に熱中する若者たちの青春を描いた、爽やかなストーリーでした。
自分の限界に気がついて現実と向き合い始める俊介と京子、プライドが高くて絶対に妥協はしない水口、たったひとり夢をかなえた上村美登里。
それぞれがたどっていくその後の人生と、お互いへの愛憎が半ばするような関係も印象的です。
余りもののふたりがくっついたような、俊介と京子の唐突すぎる結婚にも驚かされます。
自分の子供に異様なほどこだわる俊介と、すべてをありのままに受け入れていく京子とのコントラストも際立っていました。
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