著者:今村友紀 2011年11月に河出書房新社から出版
クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰の主要登場人物
マユミ(まゆみ)
ヒロイン。渋谷の女子高に通う3年生。読書家で確率や統計にも詳しい。
カナ(かな)
マユミの友人。 思いやりがあり機転も利く。
ユミコ(ゆみこ)
マユミの姉。大学で金融を勉強中。海外旅行やファッションに夢中。
ユースケ(ゆーすけ)
マユミの彼氏。 ヴァイオリンが上手で作曲家志望。
サトコ(さとこ)
マユミのクラスメートの姉。会社員で営業職。
クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 の簡単なあらすじ
突如として出現した国籍が不明の戦闘機や、未知の怪物から逃げまとうのは女子高生のマユミです。
友人や家族はディスプレイや鏡などの向こう側へと消えていき、いつしか大切な名前の存在さえ忘れていきます。
灰が降り注ぐ街を歩き回るマユミは、自分が存在するこの世界で生きることを決意するのでした。
クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 の起承転結
【起】クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 のあらすじ①
数学の授業中に突然もの凄い稲光が射し込んできて地響きのような音も聞こえてきたために、40人の女子生徒でいっぱいの教室の中はたちまちパニック状態です。
全校生徒が教頭の誘導に従って体育館に避難して、渋谷駅まで様子を見に行った男性教師を待ちますが30分以上たっても帰ってきません。
上空から出現した小型の戦闘機から機銃掃射が開始されて、多くの生徒が銃弾や倒れた鉄骨の下敷きになって亡くなりました。
生き残ったマユミは前の席に座っていて仲の良いカナと、2階の家庭科実習室へと向かいます。
この地域の一帯が停電していて携帯電話の電波も通じないこと、公共の水道も電車も止まっていること、学校には非常食と非常用の飲料水が備蓄されていて1週間くらいはもつこと。
わずかな情報を交換し合いながらインフラの復旧を待っているうちに朝になり、グラウンドに出てみると空から降り注いだ灰によって辺り一面が薄暗いです。
体育館の周りに安置されていた遺体は消えていましたが、誰もそのことを口にしません。
【承】クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 のあらすじ②
マユミたちが一夜を明かした実習室にドロドロとした手足の人形のような物体が、「くらりっさ」と叫びながら雪崩れ込んできました。
くらりっさは片方の腕の先から伸びている刃物ような武器を振りかざして、次々と生徒の首を跳ねていきます。
カナの腕をしっかりと握りしめたマユミが身を隠す場所に選んだのは、3階の廊下を突っ切った先の1番奥にある視聴覚室です。
狭いスペースに大量のテーブルとコンピューターが並べられているために、胴体の大きなくらりっさはここまでは侵入できません。
視界の隅が一瞬だけ光ったような気がしたマユミが目を上げると、コンピューターのディスプレイに何かが映し出されていました。
ディスプレイの中にいるマユミが奇怪な笑みを浮かべていたために目を反らすと、側にいたはずのカナがいません。
独りになってしまったマユミは保存用のクッキーとペットボトルの水をリュックサックに詰め込んで、誰もいない大通りを歩いて自宅のタワーマンションへと帰りました。
【転】クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 のあらすじ③
オートロックの入り口をハシゴを使って打ち破りますが、電源が作動しないため警報アラームも鳴りません。
6畳の自分の部屋に入ってベッドの上に倒れ込むと、そのまま意識を失ってしまいました。
目を覚ますとレストランを経営しているマユミの母親が、キッチンの暗がりの中にいます。
母がかけている黒ぶちメガネのレンズに映っているのは、居なくなったはずのカナです。
母の話では姉のユミコはすでに亡くなったようで、親子はしばし抱き合って泣きました。
リビングの大きな窓から外を見ると、渋谷の街を低空飛行を続けていた戦闘機の1機がマンションの方角へ飛んできます。
いつの間にか母は洗面台の鏡の中にいて、もうこちら側の世界に戻ってくることはできません。
カナはディスプレイに囚われて、ユミコは死んで、母は鏡の向こうへと消えて。
結局ひとりぼっちとなったマユミが考え始めたのは、中学3年生の時に通っていたヴァイオリンのレッスンで仲良くなって1年前から付き合っているユースケのことです。
【結】クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 のあらすじ④
何としてもユースケの無事を確認したいと思ったマユミは、彼の学校がある広尾を目指しました。
マンションの最上階には戦闘機が追突して大きな穴が空いていましたが、マユミが粉々に割ったはずのオートロックのガラスは元通りになっています。
付近の道路にはガラスが散らばっていて、それぞれの破片には幾多の異なる世界が存在しているはずです。
足の裏にガラスが刺さって動けなくなっていたところを、サトコという渋谷で営業の仕事をしている女性に助けられました。
マユミと同じ学校に通っているはずの妹の名前を、サトコは思い出すことができません。
サトコの勤め先のオフィスにお邪魔したマユミは、机の上に置きっぱなしになっていたスチール製の定規を手に取ります。
定規の中のカナはこっちでユースケを見つけたと教えてくれますが、マユミもすでに「ユースケ」が誰なのか理解できません。
建物全体が揺れ始めたために外に出たマユミはこの世界だけを信じて、灰が降り注ぐガラスの谷あいの一本道を前へ前へと進んでいくのでした。
クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 を読んだ読書感想
眠気を誘うほど退屈な午後の授業の風景を、一瞬にして引き裂くような鮮烈なオープニングでした。
テロ事件や戦争を連想させるような情報が飛び交う中で、得たいの知れない空爆やモンスターが不気味です。
普通の女子高校生・マユミが、知恵と勇気を振り絞って見る見るうちにたくましく変貌していきます。
残された水や食品を奪い合う過酷なサバイバルが繰り広げられていくのかと思いきや、周りの人たちが次々とガラスの向こうへと消えていく予想外の展開にはビックリです。
確かなものが何ひとつ見えない中でも、自分自信を信じるマユミの強さには胸を打たれました。
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