「マンハッタン・ビーチ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|ジェニファー・イーガン

マンハッタン・ビーチ

著者:ジェニファー・イーガン 2019年7月に早川書房から出版

マンハッタン・ビーチの主要登場人物

(アナ・ケリガン)
潜水士を目指す勝気な女性。父の失踪を探る。

(エディ・ケリガン)
失踪したアナの父。アイルランド系移民。

(デクスター・スタイルズ)
イタリア系マフィアのボス。エディ失踪の理由を知る。

マンハッタン・ビーチ の簡単なあらすじ

第二次大戦下のニューヨーク。

アナは海軍で潜水士を志していました。

ある晩、友人と行ったクラブで、オーナーのデクスターに会いました。

彼は幼い頃、父エディと一緒に行った屋敷の主人でした。

父は数年前に突如失踪していました。

アナは彼に近づき、父の失踪を探ろうとします。

女性潜水士を目指すアナ。

マフィアのデクスター。

船乗りとして大海原を冒険するエディ。

三人の人生を壮大なスケールで描いた作品です。

マンハッタン・ビーチ の起承転結

【起】マンハッタン・ビーチ のあらすじ①

 

父の失踪

まだ幼い少女であるアナは父エディの仕事の関係でミスター・スタイルズのお屋敷にやってきました。

アナの役割はミスター・スタイルズの子ども達と仲良くすること。

父が何の話をしていたかは分かりませんが、アナはその務めを精一杯果たしました。

エディは不景気の中、港湾組合の闇金の運び屋で何とか家族を養っていました。

しかし、次女のリディアは重い障がいがあり、自分で立つこともまともに話すこともできませんでした。

家族を愛していましたが、貧困と障がいのある次女の存在が彼を苦しめていました。

少しでも大きな収入を得たい、リディアに車椅子を買ってやりたいと考え、デクスターと接触したのです。

しばらくして、エディは家族を残し失踪しました。

第二次世界大戦下のニューヨーク。

成長したアナは母と障がいのある妹と狭いアパートで暮らしながら、大学を1年で辞め、戦時中の国に役立とうと海軍の工場で働いていました。

細かい検品の仕事と同僚である主婦達の陰口にアナは次第にうんざりしてきました。

休憩時間に眺めていた桟橋で潜水士を見た時から、アナは魅了されました。

潜水士になると心に決めました。

? ある日、友達と行ったクラブでオーナーであるデクスター・スタイルズと出会いました。

彼女は覚えていました。

彼は、幼いころ父と行った屋敷の主人だったのです。

彼は小さかったアナの事を全く覚えていない様子だったので、偽名を使いました。

彼は父の失踪について何か知っているのではと思いました。

【承】マンハッタン・ビーチ のあらすじ②

 

妹の死

重い障がいのある妹リディアは日に日に衰弱していきました。

以前のように散歩に出かけることも少なくなっていました。

アナはリディアに海を見せたいと母に提案しましたが、体調を気遣って反対してきました。

何とか海を見せてやりたいと思うアナは、先日に出会ったデクスターの車をたまたま見かけ、思い切って妹を車に乗せて海に連れて行ってほしいと頼みました。

後日、母が不在の時にデクスターの車で妹を連れて海に行きました。

最近はほとんど声をあげることもなかった妹が、海を見て、とりとめもなく声を発しはじめました。

妹はそれからしばらくうそのように元気で輝いていましたが、突然亡くなりました。

妹が亡くなって意気消沈した母は、地元に戻りました。

アナは一緒に戻ろうと言う母の申し出を断り、一人ニューヨークに残ることにしました。

一人暮らしを始めたアナは憧れであった潜水士になるべく訓練を開始します。

ボスである大尉は女であるアナに潜水士は務まらないと、ことごとく差別をし過酷な試練を与えてきます。

ですがアナはそれをのりこえていきます。

最初はなめ切っていた男の同僚達も次第にアナを認めていき、チームのメンバーとして迎えられます。

そしてついに訓練を終え、晴れて潜水士になることができました。

【転】マンハッタン・ビーチ のあらすじ③

 

真相

デクスターはイタリア系移民のマフィアでありながら、合法的なナイトクラブ経営に成功し十分な名声を得ていました。

妻は巨大な銀行員の幹部であるアーサーを父に持つ家柄の良い女性でした。

子どもにも恵まれ十分満足のいく生活を送っているはずですが、何かかが足りない。

彼は影の世界から表の世界に足を踏み出したかったのです。

ある日デクスターは、大ボスであるミスター・Qにビジネスの提案をします。

組織が持つ膨大な金と人脈をフルに活用して戦時公債を買い占め、あらゆるルートで転売する。

つまり銀行になるということです。

しかしミスター・Qはその提案を却下しました。

気のすまないデクスターは、義父であるアーサーにも同じ提案を行いますが、またもや却下されてしまいます。

次第に自身の人生の意味に思い悩むようになったデクスターは、妻がいる身でありながら、若いアナに心ひかれ、ついに一夜をともにしてしまいます。

アナは翌朝、自分がエディの娘であることを告白しました。

デクスターはかつてエディを部下として使っていました。

優秀な働きぶりで大変気に入っていましたが、エディの昔の仲間と抗争になったデクスターは、エディを殺害し海に沈めたと言います。

後日、アナとデクスターはエディが沈む海に行き、潜水をすることになりました。

そこでアナは父の形見である懐中時計を見つけました。

アナは父の死を確信しました。

しかし海に沈んだはずのエディは生きていました。

死んだふりをし、海に沈められた後、ロープを抜け出し泳いで逃げました。

その後エディは自分の過去を捨てて船乗りとなりました。

海の上での過酷な労働による疲労が、自分の過去を忘れさせてくれます。

最も彼を苦しめていたのは、次女のリディアをその手にかけて殺そうとしてしまい、家を出たことです。

根無し草で生きるのが心地よかったのですが、戦争による人手不足のため、次第に、甲板員から三等航海士へと昇進していきました。

【結】マンハッタン・ビーチ のあらすじ④

 

再会

デクスターは妻の親族にアナとの浮気を知られることになり、また、銀行家のアーサーとマフィアの大ボスであるジョン・G、表と裏の有力者に危険因子と考えられてしまいました。

そうなるともうこの冷酷な影の世界で生きていく事はできません。

放たれた刺客に殺されてしまいます。

しかし死のその瞬間、デクスターはアメリカという共同体に自分の夢を重ね合わせたかつての日々を思い出し、充実した人生だったと思えました。

アナはデクスターの子を妊娠してしまいます。

この時代に結婚していない女が子どもを身篭る。

そんな事は許されません。

しばらく隠して潜水士の仕事を続けてきましたが、お腹はだんだん大きくなっていき、ついに隠しきれないと考えるようになりました。

一度は中絶をしようと病院にも行きましたが、子どもを産んで育てたいとアナは強く思うようになりました。

そこでアナは父の姉ブリアンを訪ね、妊娠を告げ、かくまってもらうことにしました。

そして、戦争で夫をなくした未亡人のふりをして遠いカリフォルニアで暮らすことにしました。

子どもを産んだ後、アナは新天地で潜水士の仕事を続ける事ができました。

エディが三等航海士としての処女航海で乗り込んだ軍艦が、敵の砲撃を受けて沈んでしまいました。

21日間に及ぶ救命ボートでの漂流で、飢えに苦しみ、乗組員同士が殺し合う壮絶な体験をしました。

死の手前まで来ましたが、その時に次女リディアの声が聞こえ来ました。

家族に再び会いたいと思い、何とか生き延びることができました。

陸に戻ったエディは姉ブリアンを通じてアナと再会しました。

実は失踪してからずっと、姉ブリアンを通じて家族にお金を送金し続けていました。

アナは最初、自分を捨てたエディを冷たくあしらっていましたが、次第に話をするようになりました。

激動の時代を潜り抜け、父と娘は再会を果たしました。

マンハッタン・ビーチ を読んだ読書感想

アメリカ人作家のアンドリュー・カーネギー・メダル受賞作品です。

第二次世界大戦時のアメリカを舞台にした、ミステリーであり、マフィアが出てくるノワールものであり、歴史ものであり、海洋冒険ものとジャンルを横断する大作です。

500ページを超える分量ですが、人生の悲哀と寄り添う風景の美しさを感じさせる文章表現と力強いストーリで一気に読まされます。

また、三人の主人公を取り囲む周辺人物も数多く、個々のエピソードの分量が少ないにもかかわらず、背景にある人生や感情をここまで魅力的に描いている小説はめずらしいと思います。

長い人生の中では、悪いことも良いことも起きます。

この作品は、そうした人生のあらゆる局面を賛美し、勇気づけてくれます。

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