「夜の底は柔らかな幻(上・下)」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

夜の底は柔らかな幻

著者:恩田陸 2015年11月に文藝春秋から出版

夜の底は柔らかな幻(上・下)の主要登場人物

有本実邦(ありもとみく)
東京警視庁警部補 バイアスロンの選手

葛城晃(かつらぎあきら)
途鎖国の入国管理局局次長

神山倖秀(かみやまゆきひで)
数々のテロ行為で指名手配中

青柳淳一(あおやぎじゅんいち)
ヨーロッパで指名手配中

屋島風塵(やしまふうじん)
実邦の恩師 在色者(ざいしょくしゃ)を指導していた

夜の底は柔らかな幻(上・下) の簡単なあらすじ

日本の中にある独立国家途鎖国は、IDチップとビザがないと入国できません。

その途鎖の山奥「フチ」では、指名手配犯の神山倖秀が『ソク』として君臨しています。

墓参りで訪れる一般客だけではなく、ウラの客が懸賞金やソク交代のチャンス、大量のクスリ、神山を求めて山に入ってきます。

山から下りてきた子供の真実とは何か?水晶に埋まっているものは何か?東京警視庁捜査官の有本実邦が目の当たりにした事実に驚愕します。

夜の底は柔らかな幻(上・下) の起承転結

【起】夜の底は柔らかな幻(上・下) のあらすじ①

 

在色者たち

極秘潜入捜査で途鎖行きの特急列車に乗っている有本実邦は、途鎖の捜査官、善法(ぜんぽう)刑事と接触する手筈を整えていました。

実邦は、特殊な能力「イロ」を持つ在色者で「ヌキ」という技で一般客に紛れ込み入国管理官の検察を終わらせます。

在色者は入国できません。

密入国者になってしまいます。

その時、在色者が飛ばした鮮明なオレンジ色のメッセージが頭の中に飛び込んできました。

近くにいた少年は、メッセージを受け頭を痛がり、在色者だということがバレてしまいます。

母親は捕まり、老人が少年を抱え列車から飛び降りました。

密入国者が出たとの報告を受け葛城晃による入国審査が始まります。

オレンジ色のメッセージは、造反のサインで入国管理官たちが一斉に葛城に銃を向けますが失敗します。

実邦を見つけた葛城は、実邦を警察署に連れて行き取り調べを始めます。

16年前、藤代家の娘であった実邦は、葛城と結婚をさせられそうになっていました。

実邦と二人きりになった葛城は、実邦の能力で片目を潰されます。

そのことを未だに恨んでいるのです。

事情を知った途鎖の警察署長に釈放された実邦は、藤代家に仕えていたタミと再会し、屋島風塵が国立精神衛生センターに入院していることを知ります。

実邦は屋島宅で、プラスチック箱の中にある油紙で包んである小さな物を見つけ持ち帰りました。

その後、実邦は善法と元刑事で今は僧侶の天馬(てんま)と山に入る打ち合わせをします。

広域指定事件七九号の神山倖秀を捕まえるために山の「フチ」を目指すのです。

「フチ」は途鎖の山奥に広がる禁足の地、今では無法者が組織化されクスリの生産と出荷が行われていて、そこで去年、神山が『ソク』になったということでした。

【承】夜の底は柔らかな幻(上・下) のあらすじ②

 

門下生たち

実邦は、同じく屋島の門下生で友人のみつきと軍勇司(いくさゆうじ)のスナックを訪れます。

みつきと勇司は紛争地で医者をしていたときの仲間です。

勇司は葛城と大学の同期で、葛城が山から下りてきた子供だといいます。

そこに、特急列車で一緒だった黒塚弦(くろつかげん)がやってきます。

黒塚も屋島の門下生で、ドイツで均質化手術を受けていました。

手術を受けているのにイロはあり、イロの管理はできているのだといいます。

黒塚の目的は、屋島をジュネーブに連れ出すことです。

神山博士のプログラムで山に入っていた青柳淳一によるものと思われる11件の殺人事件の裁判が始まるので、プログラムについて証言できる人間として屋島に出廷してもらうというのです。

神山博士は、根気強く指導する屋島とは違う方法で子供たちを指導していました。

それは山の磁場の力を借りて行うもので、イロは安定するけど嗜虐性が増幅するというものでした。

神山博士は、プログラムの途中に数十人いた子供たちと嵐で家ごと流され死亡します。

生き残ったのは、葛城と青柳と博士の息子、倖秀だったのです。

そして、実邦が潜入捜査を装い山に入った目的は、元夫の神山倖秀を殺すことでした。

実邦が倖秀を知ったのは、葛城が藤代家を出入りし始めた頃のことで、実邦は葛城との一件の後、東京にいた倖秀を頼り途鎖を逃げ出します。

その後、結婚をし倖秀に勧められて警察になりました。

離婚後、世間を騒がす事件の首謀者として倖秀の名前が上がり、自分が利用されていたことに気づきます。

実邦は、公安の監視が付きながらも仕事に打ち込み、途鎖に潜入捜査するチャンスを得たのです。

数日後、今度は勇司の店に葛城が青柳の情報を求め来店します。

青柳はNPOの警備会社から派遣されていた傭兵で、勇司はスーダンとアフガンで青柳の殺戮を目撃していました。

その殺人鬼が麻薬目的に途鎖に入ったということでした。

【転】夜の底は柔らかな幻(上・下) のあらすじ③

 

フチを目指す者たち

黒塚は、みつきに屋島宅から神山博士のプログラムの論文と日誌を持ち出すよう頼みますが、みつきには見つけられません。

黒塚は葛城と向き合います。

有機チップで引き上げられた能力と山で開花させた能力とが激しくぶつかります。

黒塚は深い傷を負いながら勇司の店へ逃げ込み、みつきは警察に保護を求めます。

屋島が脱走したこと、葛城が山狩りを始めることを知った黒塚と勇司は山へ向かいます。

実邦と善法は無事に山に入り、途鎖行きの特急列車で飛び降りた子供と青柳に遭遇します。

子供を連れていた老人は天馬に助けられていました。

老人は、孫を父親である倖秀に会わせるために山に入りました。

山の奥地には水晶の谷があり仏様が埋まっていて、仏に取り憑かれてしまうので子供は近づけてはいけないという言い伝えがあります。

道に迷い暴漢に襲われていたところ、少年が自身の能力で男を二つ折りにしてぺしゃんこに潰してしまいます。

老人は驚いて崖から落ちてしまい、山の麓にある天馬の寺へ運ばれたのです。

同じ光景を実邦たちも見ていました。

少年が鹿をぺしゃんこに折りたたみボールのようにしてしまい、一人山の奥へと入って行ってしまったのです。

山ではイメージしたものが幻覚として現れ実体化し、倖秀を追う者たちを苦しめます。

黒塚は激しい頭痛と幻覚に悩まされ山奥へと走り出し、屋島は倖秀が助けを求めて日誌を送ったのだと気が付きます。

その頃、葛城には遠い過去の記憶が押し寄せていました。

山の住人の水晶筋の話、日を追うにつれて病んでいく子供たち、妻への恨みを書き続ける博士。

博士は心の底で、妻が他の男と出て行ったのは息子のせいだと、倖秀を憎んでいたのです。

ナタを振り上げ、倖秀に襲い掛かった博士の心臓にナイフを突き刺したのが、青柳だったのです。

実邦も博士が正気ではなかったことを屋島のメモリーから知ったのでした。

【結】夜の底は柔らかな幻(上・下) のあらすじ④

 

水晶に潜む者たち

実邦はイロを貯めこむ珍しいタイプで、突発的に使った能力は膨大な力を発揮します。

青柳との一戦で激しい吐き気に襲われていた実邦ですが、杣人(そまびと)のルートを使って運ぶよう天馬に頼んでいた銃器を取りに、善法と向かっています。

実邦にやられプライドを傷つけられた青柳に部下を殺された葛城は、これも運命だと悟り、水晶が目的の青柳と一緒に倖秀を目指すことにします。

二人は湖を渡り体育館のような建物の中入って行き、積み木で遊んでいる少年を横目にステージ上の倖秀と対峙します。

その時、実邦が倖秀の頭を撃ち抜きました。

突然、足元が揺れだし、ステージの床の穴から光が漏れます。

倖秀は、複数の頭をつけて太い光る丸太のようなものと一体化していて、おかしなところから二本の腕が飛び出していました。

実邦には仏像の手のように見えます。

屋島がけたたましい叫び声を上げる黒塚と少年の手をつかみ、その巨大な生命体の中に飛び込む姿が見えました。

体育館は雪崩を打つように倒れ、勇司と実邦をかばい絶命した善法を巻き込みます。

脱出した実邦は、青柳に撃たれ湖のほとりで倒れていました。

山の揺れは収まりません。

実邦はおぞましい気配を感じています。

湖と体育館を囲んでいた岩のてっぺんが崩れ始めます。

実邦は、出てこないで、戻って、と念じ続けます。

それは、化け物のことなのか、自分のイロのことなのか、わからなくなっています。

青柳は降り注ぐ石の破片を受け大きな岩の下に姿を消しました。

土石流が迫ってきます。

実邦は葛城を突き飛ばし、降り注ぐ石や粉塵、水面を埋める水しぶきから守ります。

片目を潰したことを申し訳なく思っていたのです。

崩落が収まったとき、体育館はなくなり、新しい山が湖のそばまで迫っていました。

葛城は実邦を抱き上げ歩き出します。

どこからか楽しそうな子供の声が聞こえました。

今年は少年が『ソク』になったようです。

夜の底は柔らかな幻(上・下) を読んだ読書感想

日本の中にある独立国家、在色者、イロ、ヌキ、フチ、など独特な表現で描かれたこの作品は、高知県をモデルに書かれたそうです。

作中で、在色者はイロという特殊能力を持つと断言していません。

物語を読み進めるうちに、個人によって持っている能力が違うことや、外から受ける影響に違いがあることなどがわかり想像できます。

冒頭の実邦が特急列車の中でヌキをする場面では、冷蔵庫のポケットに逆さに立ててある、残り少なくなっているマヨネーズの上部四分の三が綺麗に透き通っているプラスチックを想像し、ヌキを完了させたと表現されています。

葛城と黒塚の校庭での砂を使ったバトル、少年が鹿をぺしゃんこにする様、実邦が青柳に向けた能力など、恩田陸さんの想像力には圧倒されます。

クライマックスは、凄いスピードで物語が進み、いろんなことが一気に起こって、新しい山ができてしまうほど景色が変わってしまいます。

大地から何が出てこようとしているのか?それは何なのか?ホトケとはどんなものなのか?想像力を働かせてみてください。

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