「殺人鬼フジコの衝動」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|真梨幸子

殺人鬼フジコの衝動

著者:真梨幸子 2008年12月に徳間書店から出版

殺人鬼フジコの衝動の主要登場人物

森沢藤子
本作の主人公。川崎で起きた惨殺事件の生き残り。小学生の時に初めて同級生を殺して以来、何か予定通りに物事が運ばないと人を殺すようになってしまう。自尊心が強く自己肯定感が低い。

下田茂子
藤子の叔母。熱心な新興宗教の信者で心優しく親切。家族を失った不憫な藤子を引き取り本当の娘の様に大切に育てる。

小坂恵美
藤子の同級生。賢く優等生でクラスの女子からは仲間外れにされたりしていたが、そのことを歯牙にもかけない様子が藤子を苛立たせる。

辻山裕也
作中、藤子が最も愛し執着した男。小学生時代の藤子が万引きしようとしたところを救ってくれた一見好青年のダメ男。

大月杏奈
作中、藤子にできた唯一の親友。人形の様な顔立ちの上に賢く実家も裕福なために藤子から憧れられている。

殺人鬼フジコの衝動 の簡単なあらすじ

藤子は母からの虐待、学校でのいじめに耐え苦痛な生活を送っていました。

ある時藤子以外の一家全員が殺されてしまい藤子は叔母の家に身を寄せることになります。

叔母の家では今までとは比べ物にならないくらい良くしてもらい、藤子は人生はリセットできるのだと思います。

そして、邪魔だった小坂恵美を殺してもバレずに過ごせた彼女はその考えは正しいと確信し、どんどん自分の人生で思い通りに動かない人間を殺していくのでした。

殺人鬼フジコの衝動 の起承転結

【起】殺人鬼フジコの衝動 のあらすじ①

 

人生はいつでもリセットできる

藤子は母からの虐待、学校でのいじめに耐え苦痛な毎日を送っていました。

ある時彼女は自分以外の家族全員を殺されてしまいます。

唯一の肉親である叔母はとても親切で虐待されていたころと比べ物にならないくらい幸せな日々を送り、転校先の友人関係もなんとかうまくいきそうになり人生はリセットできると考えます。

しかし、グループのリーダーを怒らせてしまい、またいじめの標的になりかけてしまいます。

しかも運悪く自分が小鳥の飼育当番の時に小鳥が死んでしまいます。

このままでは本当にいじめの的になると考えた藤子はそれを隠蔽しようとはさみで小鳥をバラバラに切り刻みますが、それを小坂恵美に見られてしまいます。

翌日、小坂恵美に本当のことをみんなに話した方がいいと諭されますが頭に血が上った藤子は逆に小坂恵美の首を絞めて殺してしまいます。

運よく小坂恵美殺人事件の犯人は変質者であると結論付けられた上に、小鳥を殺した犯人も自分をいじめようとしていた子だと噂されるようになり、藤子は予定通り順調な人生を中学卒業まで歩んでいくのでした。

【承】殺人鬼フジコの衝動 のあらすじ②

 

落ち始める人生と秘密の共有

高校生になった藤子は叔母の口癖である「母親のようになるな」という言葉のせいで鬱陶しいと益々感じるようになり、自由なお金を求めてバイトを始めます。

バイト先で大月杏奈と知り合い、親しい仲になります。

大月杏奈は藤子が憧れる人物像そのままで美人で賢くお金持ちな彼女と仲良くなれたことを自慢に思います。

しかし、藤子は杏奈に対して一つのプライドを見せるために自慢の彼氏である大学生の辻山裕也を紹介します。

しかし、この頃裕也と藤子はあまりいい関係とは言えず、裕也の気持ちはあっさり杏奈に流されてしまいます。

藤子は杏奈に詰め寄り裕也と二度と会うなと言います。

また、この頃藤子は体調も芳しくなくその原因は高校生にも拘らず妊娠でした。

しかし、夢中になっていたのは杏奈ではなく裕也の方で裕也は杏奈に別れを切り出され激昂して杏奈を引き倒してしまいます。

頭を強く打った杏奈は気を失いますが裕也は殺してしまったと錯乱します。

錯乱している裕也を尻目に藤子は杏奈に止めを刺し、裕也を守るから私と結婚しろと杏奈の遺体を裕也と解体しながら脅すのだった。

裕也と藤子はお互い学校を中退し、裕也の実家がある東京で新婚生活を営むのだった。

【転】殺人鬼フジコの衝動 のあらすじ③

 

失われる唯一の愛情と再リセット

東京の裕也の実家に身を寄せる藤子達家族だが、藤子も娘の美波も全く歓迎されずむしろ疎ましがられるような日々でした。

そんな日々に嫌気がさした藤子は裕也と美波を連れてアパートを借ります。

裕也は全く働かず藤子は自分が働くしかないと保険のセールスを始めますがなかなか稼げず夜の仕事を始め、いよいよ体まで売ってしまいます。

そんな風に必死に生活しているのに裕也は愛してくれるどころか自分も美波も全く愛してくれず、浮気をします。

藤子は愛してくれないのは美波が不細工なせいだと怒り狂い押し入れに美波を閉じ込めます。

そして今でも杏奈の名前を口にする裕也に我慢ならずに衝動的に絞め殺しバラバラにします。

ある時、自分に仕事を勧めてくれた先輩のシングルマザーが息子を虐待して死なせたと聞いて慌ててアパートの押し入れに向かいます。

しかし、時はすでに遅く美波の遺体は腐った状態でそこにありました。

美波の遺体をレジ袋に入れて藤子はアパートを出ます。

そして再出発を図ろうと整形に手を出し、夜の蝶となり手広く事業を行っている若手実業家と再婚を果たすのでした。

【結】殺人鬼フジコの衝動 のあらすじ④

 

業(カルマ)は巡る

バブル崩壊後、夫の殆どの事業が倒産し借金苦に悩まされる藤子一家。

現在藤子が住んでいるのは都心からだいぶ離れた郊外の安い型落ちのマンションである。

そこはかつて藤子があんなに忌み嫌っていた両親と住んでいた家にそっくりである。

藤子を怯えた目で見る娘の早季子。

その姿はかつての自分にそっくりである。

あんなに自分は母のような失敗はしないと心に誓ったにも拘わらず、藤子は母の様に早季子を殴ったり蹴ったりを繰り返す幸せな家族とは程遠い生活を歩むのでした。

近所では整形崩れのあばずれと噂され、後ろ指さされる毎日。

そんな中で彼女は唐突に「いいお母さんにならなくちゃ」と思い、給食費3000円を強奪するために近所の奥さんを殺してしまうのだった。

そこから堰を切ったように今まで封印していた衝動を抑えきれなくなります。

警察が夫の職場まで聞き取りに行き、夫は藤子に「人を殺したのか?」と尋ねます。

藤子は心の中で「ねぇ、叔母さん私どこで間違えた?どこまで戻ればいいの?」と尋ねるのでした。

殺人鬼フジコの衝動 を読んだ読書感想

私は個人的にこの話が大好きです。

女なら藤子の気持ちに全く共感できないということはないと思います。

自分より可愛い子やおしゃれな子、素敵な彼氏がいる子には妬みや嫉みの情を燃やすのが女性です。

しかし、多くの人が殺さずにいるのは藤子のような衝動がないのもそうですがそれ以上に守りたいプライドや人間根本のやさしさが残っているからこそだと思います。

藤子はそういう意味では最初から最後まで可哀想な女性だったと言えます。

彼女は誰にも愛された記憶がないので守るプライドもないし仮にあっても守り方を知らないのです。

彼女にあるのは自分を尊大に見せる歪んだ自尊心と人一倍強いコンプレックスだけです。

つまり、藤子は女の嫌なところ詰め合わせなのです。

この物語はあとがきまでが物語なのですが、あとがきまで読むと度肝を抜かれるという展開も大変好ましいです。

とにかくストーリー性以上にキャラクターに魅力を感じるのでこの物語が好きです。

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