著者:沼田まほかる 2007年8月に双葉社から出版
猫鳴りの主要登場人物
信枝(のぶえ)藤治の妻。流産を経験している。40歳。藤治(とうじ)伸枝の夫。雇われ大工。52歳。浩市(こういち)藤治の務める工務店で働く後輩。35歳。アヤメ(あやめ)猫を見に来る女の子。行雄(いくお)アヤメの同級生。不登校。
猫鳴り の簡単なあらすじ
伸枝40歳、藤治52歳、今まで子供が出来ず、あきらめていたが、突然妊娠します。
しかし6か月になるころ、流産してしまいます。
傷つき、罪悪感にさいなまれつつ生活する伸枝は、ある日庭で子猫を見つけます。
何度も捨てに行くが、縁あって2人は子猫を飼うことにしました。
子猫は怪我をしていたが、元気になりました。
子猫を見に来るアヤメが子猫を「モンちゃん」と呼ぶことから名前はモンとなりました。
モンはオレンジ色の縞の見事な猫に育っていました。
伸枝を見送り、藤治も歳をとります。
立派だったモンも日に日に衰えていきます。
最後は静かに死を受け入れ、おだやかに逝きます。
モンは、見事な別れを果たしたのでした。
猫鳴り の起承転結
【起】猫鳴り のあらすじ①
伸枝は、夫の藤治と17年間子供が出来ませんでしたが、40歳で突然妊娠します。
しかし6か月の頃、流産してしまいます。
伸枝は、自分が流産してしまったのは、密かに夫の後輩浩市を思っていたせいだと罪悪感に苛まれていました。
ある日、家の庭で子猫を見つけます。
伸枝は子猫を畑に捨てました。
しかし次の日、庭に子猫が戻ってきていました。
肩に傷を負い、目も目やにで爛れ、痩せて汚れています。
伸枝はエサと水をやり、傷も手当してやりますが、また森へ捨てに行きます。
その日、見知らぬ女の子が庭をのぞいています。
実は、子猫を庭に放したのはアヤメでした。
伸枝が飼ってくれているか確かめにきたのです。
しかし捨てたことを知ると雨の中、子猫を探しに行ってしまいます。
心配した藤治はアヤメを探しますが、夫が子猫を見つけ、連れて帰ってきました。
2人は子猫を飼うことにします。
子猫は怪我をしていましがた元気になりました。
ある日ひょっこりとアヤメが現れました。
子猫のことを「モンちゃん」と呼ぶことから、子猫の名前はモンになります。
伸枝は、悲しみにちゃんと向き合い、モンを大切にすることをアヤメに言いました。
【承】猫鳴り のあらすじ②
何年かして、もう1つの暮らしがありました。
13歳行で不登校になった行雄は、父にお小遣いを要求していました。
行雄と19しか歳の離れていない父子家庭の父に、小遣いをせびりますが反応は冷たいものでした。
ある日「皇帝ペンギンの一生」という映画ビデオのペンギンのヒナを見てから、自分の中に眠る凶暴性に気が付いてしまいます。
次第に不登校になった行雄は、アパートにこもりがちになりました。
そしてポケットにサバイバルナイフを持ち歩いて外をぶらぶらと歩くようになりました。
そして、出先で母親が幼児を無条件に守る姿をみて、幼児を殺してやりたい気分になります。
何とか気持ちを収めると、同級生のアヤメが大きな猫(モン)と一緒にいるのを見かけます。
それ以後、公園でアヤメと行雄は話をするようになります。
相変わらず、幼児を傷つけたい感情は続き、自分はまるでブラックホールに飲み込まれるような気持ちになります。
とうとう公園で遊ぶ幼児をサバイバルナイフで刺そうとしたその時、幼児が転んで泣き出します。
はっと我に返った行雄は走って帰りました。
その夜、父が野良猫を拾ってきました。
ミルクを飲ませ世話するうちに、次第に愛情がわき、父とも交流が生まれます。
しかし子猫は死んでしまいました。
公園に埋めようと死骸をもっていくと、モンが死骸をさらってしまいました。
行雄は父に、今までの感情をすべて吐き出します。
その感情は「絶望」というものがと父は教えてくれました。
【転】猫鳴り のあらすじ③
藤治は60歳、モンは15歳で見事に大きな縞模様の成猫になっていました。
伸枝は7年前に亡くなりました。
藤治は、モンを溺愛するほどでも無かったが、家にいないとどこに行ったのか、気になります。
留守にする時は、モンのエサや水の世話は便利屋に頼んでいました。
モンが1週間ぶりに家に帰ってきたときには、頭や首を撫でてやり、声もかけました。
モンはグルグルと喉を鳴らして藤治に寄り添います。
そんなモンは藤治に抱かれながら心を許し、脱力します。
ふと気づくと、モンがよだれを垂らしているのを見つけ、藤治はモンが歳をとってきたことを実感するのでした。
その後も、とりたててモンをかまうことはしなかったが、2人は長い時間をともにしました。
モンはたくましく、時には毒蛇にかまれても生き残ったり、自分の領土を脅かす猫がいれば、勇ましく戦いました。
藤治は雇われ大工として勤めた工務店を65歳で退職します。
毎夜の晩酌2合を楽しみに、自分の身の回りの雑用をしたり、ご飯を作ったり、庭いじりをして毎日をすごしていました。
将棋仲間も少しずつ減っていきました。
【結】猫鳴り のあらすじ④
11月になり、モンがひんぱんに水を飲むようになりました。
藤治が病院に連れて行くと、慢性腎不全の初期だと言われます。
たいていの老猫がなる病気で、特別な治療法もないとのことでした。
モンは強い猫なので、それから20年がたちました。
モンはさらに歳をとり、庭に侵入する猫に対しての威嚇も弱くなりました。
階段にうずくまって起きたり眠ったりと、ゆっくりした動きになりました。
餌を半分も残すようになったモンは、ある日血尿を出します。
病院で点滴を受け、薬を飲ませると落ちき、餌も食べるようになりますが、またぶり返すことを繰り返していました。
藤治はモンが好きだった遊びをしてやり、せめてこの時がいつまでも続けばいいと願います。
自分もモンも衰えて、色んなものを失くしてしまったと思い出しますが、今はもう何の希望も欲望もありません。
ただ2人は最終地点に向かっているのだと感じました。
いよいよモンが食べなくなり、医者から最終選択をすすめられます。
延命治療をするのか、このままモンの好きにさせるか。
藤治は自然にまかせることにします。
そのまま1週間は水だけよく飲んだモンだがベッドの下と砂箱の往復だけとなります。
その後水も飲まなくなり、ほとんど反応はないモンは呼びかけに尻尾を動かして答えます。
もっと若いうちにかまってやればよかったと後悔しながらも、堂々と別れの準備をしているモンを誇らしく思い、藤治もまたそれを受け入れる準備が出来ていきます。
伸枝が最後に病院で、点滴やチューブにつながれたまま死んでいったことを思い出します。
モンはありのまま受け入れるように死に向かっています。
20年も生きた老猫を誇らしく思いました。
明け方、ベッドの下のモンは逝きます。
藤治はモンを褒めてやり、最後に、そっと目と口を閉じてやったのでした。
猫鳴り を読んだ読書感想
猫を飼っている私には、とてもつらく忘れられない内容でした。
最後にモンが死に向かっていく姿は、いつかおとずれる自分の飼い猫のすがたと重なって、涙がぽろぽろとこぼれました。
送るほうも、送られるほうも覚悟して受け入れなければいけないのですね。
私はたえられるでしょうか。
沼田まほかるさんは、猫を飼っているのでしょうか。
猫好きでないと、モンの生きようとする壮絶な描写は書けないと思います。
また、色んな登場人物を介して、生きようとする強さと、いずれ来る死を受け入れる潔さを上手く表現していると思いました。
いろんな方に読んでもらいたい本だと思いました。
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