著者:恩田陸 2019年10月に幻冬舎から出版
祝祭と予感の主要登場人物
栄伝亜夜(えいでんあや)ピアニスト。芳ケ江ピアノコンクール2位マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(まさる・かるろす・れび・あなとーる)亜夜の幼馴染でピアノ界一のプリンス。芳ケ江ピアノコンクール1位風間塵(かざまじん)奇想天外なピアノで皆を惹きつける。芳ケ江ピアノコンクール3位ナサニエル・シルヴァーバーグ(なさにえる・しるばーばーぐ)ジュリアード音楽院教授。芳ケ江ピアノコンクール審査員。嵯峨三枝子(さがみえこ)日本人ピアニスト。芳ケ江ピアノコンクール審査員菱沼忠明(ひしぬまただあき)芳ケ江ピアノコンクール課題曲『春と修羅』作者。ユウジ・ホフマン(ゆうじ・ほふまん)かつてのピアノ界の巨匠。すでに亡くなっている。奏(かなで)亜夜の友人。ヴィオラ奏者。
祝祭と予感 の簡単なあらすじ
かつて芳ケ江ピアノコンクールで熱く競い合った亜夜、マサル、塵はかつての恩師の墓参りで再会します。
コンクールで受賞した彼らはパリへのコンサートツアーを控えています。
思い出を語る塵は遥かな遠くて高いところを見つめています。
ここから物語は始まります。
審査員として再会したナサニエルと三枝子の若き日の出会い、コンサート課題曲「春と修羅」の誕生、マサルとナサニエルの出会い、亜夜を支えた友人奏でとヴィオラ、ホフマン先生と塵の出会いを描いています。
祝祭と予感 の起承転結
【起】祝祭と予感 のあらすじ①
亜夜とマサルは、幼少期にお世話になったピアン教師の綿貫先生のお墓参りにおとずれました。
お墓の前で静かに手を合わせる2人の横には、塵がいます。
塵にとって日本のお墓参りは初めての体験でした。
落ち着きなく、ひょこひょこと歩きまわる塵を見てやさしく微笑む亜夜とマサルでした。
そして一緒に思い出を語る三人。
塵が、芳ケ江と東京のコンサートで『アフリカ幻想曲』をアレンジして弾いていたことを指摘する亜夜にマサルも苦笑します。
そして塵の型破りなピアニストとしての才能を再確認するのでした。
そんな塵を育てた偉大なるピアノ界の巨匠ホフマン先生に対して三人は思いをはせています。
これから三人はこれからパリでのコンサートを控えており、忙しい毎日ですが、こうやって親睦を高め合っているのです。
バリで弾くピアノ曲についても語り合っています。
塵はふと空を見上げました。
その目は自分の未来である遥かな、遠くて高いところを見つめています。
【承】祝祭と予感 のあらすじ②
ナサニエル・シルヴァーバーグはかつて三枝子と出会った日を思い出していました。
ミュンヘンで行われたあるコンクールに出場した時のこと、自分の優勝を確信していた彼は表彰式で愕然とします。
二位の発表で日本人の女性ピアニストの名前が呼ばれたときに、一位は自分であると確信して笑みまでこぼれた彼でした。
しかし結果は二位。
二位が二人で一位は該当者なしという結果だったのです。
思わぬ屈辱に愕然とするナサニエルに対し、三枝子は激しくくってかかります。
大人しそうな東洋人という印象の三枝子が激しく意見を言うのに驚くのでした。
その時、ナサニエル十七歳、三枝子は十八歳でした。
コンサート翌日、ホフマン先生の弟子になることを直訴し子と渡れた2人は険悪な空気のまま別れます。
その後三枝子は日本の音楽大学に進み、ナサニエルはパリの国立高等音楽院に留学し、パリ中心に沿道活動を始めます。
そして別のコンクールで再会した二人は結婚し離婚。
三十年後に芳ケ江ピアノコンクールで差再会するのでした。
【転】祝祭と予感 のあらすじ③
芳ケ江ピアノコンクールの課題曲となった『春と修羅』。
この曲の誕生秘話が始まります。
菱沼忠明は一人夕暮れの公園でたたずんでした。
盛岡での葬式の帰りでした。
音楽大学作曲科での思い出が頭にめぐります。
かつて都会的で多才な学生が多い中で、同級生の健次は少し異質でした。
彼は岩手のホップ農家の出身で不器用なところがありました。
しかしその人柄と彼の書く譜面の美しさにひかれた忠明は彼と親交を深めます。
卒業した彼は岩手に帰り、家を手伝いながら曲を作ることになりました。
二年後には作曲家の登竜門ともなる賞に受賞し、お互いに喜びあいます。
しかしくも膜下出血で健次は四十四歳で亡くなります。
忠明急いで岩手に向かい、ホップ畑を見つめ思いをはせます。
そして家族から健次の作った曲を託されます。
その後、芳ケ江ピアノコンクールの課題曲作曲の依頼があり、『春と修羅』のタイトルが頭に浮かびます。
これは宮沢賢治の詩であり、ホップ畑を思いだします。
そして二人のケンジに捧げる思いを込めて作曲するのでした。
【結】祝祭と予感 のあらすじ④
中学生のマサルはジュリアード音楽院のプレカレッジオーディションを受けていた。
その会場でナサニエル・シルヴァーバーグに出会います。
ナサニエルは音楽院のロシア人教授でした。
ある日ナサニエルはマサルをジャズクラブに連れていきます。
ピアノ専門だったマサルに他の楽器をやってみることをすすめるのでした。
ピアノと並行してトロンボーンも始めたマサルに対して、直接の師匠は反対し関係を解消しました。
そしてマサルはナサニエルの弟子となったのです。
亜夜の友人、奏はかつてヴァイオリン奏者でしたがヴィオラに変更して一年半たちます。
そろそろ自分のヴィオラを手に入れたいと思いますがなかなか決まりません。
ある日、借りている三つのヴィオラから一つを選ぼうとまさに決めようとした時、亜夜から電話がかかってきます。
それは塵が奏でのヴィオラを見つけたという伝言でした。
電話ごしにその音色を聴いた奏は戦慄、恐怖、絶望を感じますが、自分のヴィオラはこれしかないと心に決めます。
ここから奏の未来が始まるのです。
そして、ユウジ・ホフマンと塵の出会いです。
ホフマンが友達の家に泊まったときに、ピアノの音が聞こえます。
それはまだ調律されていないピアノなので、音がバラバラなはず。
しかしちゃんと忠実に音が出ています。
慌ててだれが弾いているのか確認するホフマンは、ピアノを弾くまだ幼い塵と出会い、握手をかわすのでした。
祝祭と予感 を読んだ読書感想
『蜜蜂と遠雷』恩田陸著に登場する人たちの、その後や、思い出を描いたスピンオフの小説です。
芳ケ江ピアノコンクールでは、お互いに熱く、高め合い、響き合いながらピアノ演奏を行いました。
それはだた順位を決めるコンクールではなく、全員の成長の物語でした。
それからみんなはどうしていたのでしょうか。
三人は東京でのコンサートを終え、これからのパリのコンサートに向けての準備で忙しい毎日を送っていました。
話は三人のお墓参りの場面から始まります。
前作が情熱に満ちた物語としたら、今回の『祝祭と予感』はこれから新しい未来が始まる前の静かな世界、青く閃く炎を意識させる物語だと感じました。
これから彼らはより一層高いところへ向かっていくのでしょうか。
活躍が楽しみであるとともに、第三章を期待します。
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