著者:東野圭吾 1989年1月に講談社から出版
十字屋敷のピエロの主要登場人物
竹宮水穂(たけみやみずほ)
主人公。竹宮の十字屋敷に一年半ぶりに戻ってきた。
竹宮佳織(たけみやかおり)
水穂の従妹。車いすの少女。
悟浄真之介(ごじょうしんのすけ)
ピエロを追う人形師。
ピエロ(ぴえろ)
悟浄の父が作った、悲劇を呼ぶと言われる人形。
青江仁一(あおえじんいち)
十字屋敷に下宿する大学院生。
十字屋敷のピエロ の簡単なあらすじ
竹宮産業の社長一家が暮らす十字屋敷に、持ち主に不幸をもたらすという悲劇のピエロがやってきます。
その夜とつぜん女社長の頼子が飛び降り自殺をしてしまいます。
頼子の四十九日、姪の竹宮水穂は伯母の死の真相を探ろうと十字屋敷を訪れます。
そこには従妹の佳織を始めとした親戚たちや会社の関係者など、一癖も二癖もある人たちが集まっています。
そして深夜、再び悲劇が起こります。
十字屋敷のピエロ の起承転結
【起】十字屋敷のピエロ のあらすじ①
十字屋敷に住む女社長、竹宮頼子が突然バルコニーから飛び降り自殺をします。
その光景を、ちょうど届けられたばかりのピエロの人形が見ていました。
その四十九日、頼子の妹である母に頼子の死の真相を探ってくれと頼まれ、竹宮水穂は十字屋敷を訪れます。
頼子の娘で従妹の佳織が水穂を歓迎します。
祖母の静香や家政婦の鈴枝にも挨拶し語らっていると、人形師の男性が訪ねてきます。
悟浄と名乗った彼は、ピエロの人形を作った人形師の息子でした。
そして、それは持ち主に不幸をもたらす悲劇のピエロだから責任をもって買い取らせてくれと言います。
しかし頼子の夫である宗彦が墓参りのため外出していたので、翌日出直してもらうことになりました。
夜の晩餐会には、十字屋敷に下宿している大学院生の青江、出入りの美容師の永島、会社役員の松崎、頼子の下の妹の和花子と夫の勝之らが集まりましたが、宗彦の不倫相手である秘書の三田理恵子の姿はありませんでした。
そして深夜、宗彦がオーディオ・ルームで刺殺されるのをまたしてもピエロが見ていました。
【承】十字屋敷のピエロ のあらすじ②
翌朝、宗彦の死体が発見されますが、その横では秘書の理恵子もナイフで胸を突かれて死んでいました。
裏口の外に血の付いた手袋と宗彦のボタンが落ちていたことなどから警察は外部犯の可能性を追っているようですが、水穂はある疑念を抱いていました。
彼女は深夜一度目覚めたとき、二階の廊下でそのボタンを見ていました。
自分が拾って棚に置いたボタンを見つけた犯人が、外部犯に見せかけるために裏口に捨てたのではないか、つまり犯人は内部にいるのではないかと考えたのです。
青江に話を聞くと、水穂以外の内部の人間は皆少なからず宗彦を憎んでいて、動機はあったといいます。
翌日、悟浄がピエロを引き取りにやってきます。
現場にあったものは動かせないと追い返されてしまいましたが、悟浄は何かに気が付いた様子で、水穂は訝しく思います。
その夜、オーディオ・ルームに何者かが忍び込みました。
宗彦の葬儀が行われ、水穂は母の琴子に事件を疑問に思っていることを話しますが、琴子はどうも歯切れが悪く、事件に関わらずに帰って来いと言われてしまいました。
【転】十字屋敷のピエロ のあらすじ③
葬儀の日の夕方、オーディオ・ルームにあったパズルの中に血痕と永島の指紋のついたピースが紛れ込んでいたことがわかりました。
事件当日、屋敷内でピースをひろった永島は内部にいる犯人をかばうために黙ってそれを箱に戻したそうです。
ピースの落ちていた場所付近を調べると、家政婦の鈴枝が遺体発見直後にさまざまな隠ぺい工作をしていたと判明しました。
彼女もやはり内部の犯人をかばおうとしたようで、ゴミ箱に血の付いた手袋があるのを見つけて外部犯に見せかけようと外に捨てた、ボタンは宗彦の死体のそばで拾ってこれも捨てたと言います。
こうした状況から、犯人は松崎しかありえないと推察されました。
指摘を受けた松崎は自分が横領をしている証拠があるという告発文を受けとってオーディオ・ルームに行き、証拠を探していた時に自分を泥棒と勘違いした宗彦に襲い掛かられた、正当防衛だったと言います。
そして松崎は宗彦を殺したのは自分だが、理恵子のことは知らないと主張します。
警察の調べで松崎に届いた告発文は理恵子のワープロで作ったものとわかり、理恵子は後からやってきて自殺したのではないかと考えられます。
釈然としないながらも関係者たちは納得しようとしますが、二階の廊下でボタンを見ていた水穂には納得できません。
青江も事件には裏があると考えているようでした。
【結】十字屋敷のピエロ のあらすじ④
数日が経ち、ピエロを持ち出せることになったので水穂は悟浄を呼びに行きます。
ところが、悟浄を連れて十字屋敷に戻ると、ピエロはちょうど青江が持ち出したところでした。
青江を追いかけた二人は、青江が殺されており、ピエロも持ち去られているのを発見します。
水穂と悟浄は、青江は真実に迫っていたために、真犯人によって殺されたのではないかと考えます。
彼が調べようとしていたのはどうやらピエロの指紋だったようで、そこから真実が見えてきます。
真相を見抜いた水穂は静香のもとへ確かめに行きます。
真犯人は永島、そして静香と鈴枝が彼を庇っているというのが水穂の考えで、それは当たっていました。
琴子は真相を知らされていて、首を突っ込まないようにと言っていたのです。
水穂はそのまま十字屋敷を立ち去ろうと思いました。
しかし、事件にはさらなる裏があったことを悟浄が言い当てます。
永島は宗彦と理恵子と結託して、頼子を自殺に見せかけて殺していたのです。
悟浄はその上さらに糸を引いていた人物がいることをほのめかしますが、それを確かめられるのは佳織の呟きを聞いていたピエロだけでした。
十字屋敷のピエロ を読んだ読書感想
まず、場面ごとに差し挟まれるピエロの視点が面白かったです。
人物以外の、余計な感情や嘘のない視点があるというのはミステリーとして思考材料が増える一方、先入観も持たされる面白い試みだと思いました。
事件が少しずつ進展していく中で、ああなるほどと思わされる、真相が明かされるような場面が何度かあるのでお得感があります。
ロジックを解いて答えが見えたと思ったら謎が残る、更に解いたらまた謎が、という展開が上手くできていました。
登場人物が多いですが、それぞれの思惑が交錯していて旨いと思いました。
古い作品なので人物の動きなどに時代を感じるところはありますが、十分に楽しめました。
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