著者:三島由紀夫 情報なしに新潮社から出版
美しい星の主要登場人物
大杉重一郎(おおすぎじゅういちろう)
本作の主人公。大杉家の大黒柱だが、親から受け継いだ財産で暮らしている。火星人として覚醒しており、地球を守ろうと考えている。
大杉伊余子(おおすぎいよこ)
重一郎の妻。木星人として覚醒している。
大杉一雄(おおすぎかずお)
重一郎の息子。水星人として覚醒しており、父とは違うアプローチで地球をどうにかしようと考え、政治家を志している。
大杉暁子(おおすぎあきこ)
重一郎の娘。金星人として覚醒しており、途方もなく美しい。美しさを自覚している。
羽黒真澄(はぐろますみ)
、白鳥座61番星人として覚醒し、重一郎とは反対に地球を滅亡させようと考えており、重一郎を敵視している。
美しい星 の簡単なあらすじ
宇宙人として覚醒した大杉家の面々は、地球を守るために活動を行っています。
彼らは、世間で大騒ぎされることを避けるために「宇宙人である」ことを隠しながら活動していますが、彼らと同じように宇宙の力に目覚めた羽黒たちに敵対視され、狙われることに。
また、美しい娘暁子は、自分と同じ「金星人」を名乗る男に騙され、身ごもることに。
政治家を目指していた息子の一雄も、羽黒の仲間であった衆議院議員に騙されます。
最終的に直接対決し舌戦を行う羽黒と重一郎ですが、重一郎は途中で倒れ、胃がんであることが発覚します。
人間的な恐怖にとらわれる家族に対し、重一郎は、病院を抜け出してUFOを見に行くという決断を下しました。
美しい星 の起承転結
【起】美しい星 のあらすじ①
埼玉県飯能市に住む旧家大杉家の面々は、父重一郎は火星、娘の暁子は金星、息子の一雄は水星、妻の伊余子は木星から来た「宇宙人だ」という自覚を持っています。
彼らはみんな、それぞれが、それぞれのタイミングでUFOに遭遇し、UFOから、自分が地球人ではないことを告げられているのです。
そのことによって彼らは、自分たちが他の人々とは「違う」という意識を明確に持っています。
そして、彼らの使命は、水爆の開発によって現実のものになろうとしている「世界の滅亡」から人類を救うこと。
その使命を全うするために、重一郎は、「宇宙友朋(ユーフォー)会」を作り、各地で講演会を行い、娘の暁子はソ連へ水爆実験をやめるようにという手紙を何通も送ります。
夫や娘の活動に口を挟まない妻の伊余子に対して、父のやり方には批判的な息子の一雄は、政治家を目指しはじめます。
彼は、大学で名刺をもらった政治家の黒木克己に声をかけられて、政治家になることで「世界の滅亡」から人類を救おうとするのです。
【承】美しい星 のあらすじ②
大杉家の面々と同じように、UFOを見て、宇宙人として覚醒した者たちが、宮城県の仙台市にもいます。
大学の助教授である羽黒真澄と、その羽黒の教え子で今は銀行員をしている粟田、羽黒が通っている床屋の曽根は、三人で一緒にUFOを見ます。
そして、自分たちがはくちょう座61番星に近い惑星からやってきた宇宙人であると自覚するのです。
しかし、彼らの使命は、大杉家とはまったく違います。
彼らの使命は、「水爆実験によって人類全体を安楽死させる」こと。
三人ともが自分自身が「恵まれない境遇にある」と考えており、その原因は他者にあると考えるタイプです。
そのため、自分たちの使命が「人類を滅亡させること」だという事実を喜び、三人で力をあわせて使命を全うしようと決めるのです。
リーダーとなるのは、助教授である羽黒です。
羽黒は、重一郎の講演会を聞いたことがあり、まずは大杉重一郎に勝つ必要があると考えています。
そして、かつて助教授として接点を持った政治家である黒木克己を利用することに思い至るのです。
【転】美しい星 のあらすじ③
粛々と人類を救うための活動を続けていた重一郎と暁子ですが、暁子は、その活動の中で「自分も金星人だ」と名乗る竹宮という青年と知り合います。
特別な縁を感じた暁子は、竹宮と会い、お互いの美しさを認め合う中で、特別な時間を過ごします。
二人で光るUFOを見て、完全に心が通じ合ったと暁子は考えます。
しかし、何度も逢瀬を重ねた後、竹宮は連絡が取れなくなり、暁子は自分が妊娠していることに気づくのです。
驚嘆する母伊余子に、自分は金星人の子を処女懐胎で身ごもったと高らかに告げる暁子に、重一郎は、宇宙人になりきれないかもしれない自分に気づいてしまいます。
その頃、自分たちと敵対するものであり、自分の父を狙っているものだとも知らずに、一郎は、黒木に頼まれて、羽黒たち三人の東京案内を行っています。
巧みな羽黒の会話にのみこまれ、父への反抗心から一郎は、自分や自分の家族が宇宙人だということを彼らに告げてしまいました。
羽黒はさらに、一郎に手引きさせ、重一郎のもとへやってきます。
【結】美しい星 のあらすじ④
対峙した重一郎と羽黒。
人間というものがいかに欠陥まみれで、整合性の取れないものなのかということを激しく語る羽黒に対し、重一郎は、その整合性の取れない「気まぐれ」な部分こそが人間の魅力であり美点だと主張します。
激しい舌戦が何時間も続き、人間を激しく批判する羽黒に一歩も譲らなかった重一郎ですが、途中で倒れてしまいます。
倒れた重一郎はすぐに病院に運ばれますが、重症の胃がんで、もはや手の施しようがないレベルだということが判明します。
狼狽し、いわゆる「人間的」な恐怖や悔恨にとらわれる家族たち。
重一郎も、自分が宇宙人として目覚めたために、娘を「未婚の母」のような立場にしてしまったのではないかなどと悩み始めます。
しかし、宇宙は、重一郎の犠牲と引き換えに、全人類の救済を約束しており、羽黒たちに対する勝利ではないかとも考えます。
病室で宇宙からの声を待つ重一郎。
彼が下した結論は、病院を抜け出して、家族とともに円盤を見に行くというものであり、家族は全員そろって、円盤をみるのです。
ようやく丘の稜線にたどり着いた4人は、丘のかなたに銀灰色の円盤が、緑色や橙にその光をかえて着陸しているのを見たのだった。
美しい星 を読んだ読書感想
三島由紀夫らしい華美な文体がとてもよく似合う小説でした。
特に「人間の気まぐれ」こそを愛するという重一郎の考え方は、正義中毒になりがちな現代の「人間」にこそ必要な発想だと感じます。
SFとしての読み方をしても十分に楽しめるし、ヒューマンドラマとしても楽しめるこの作品は、読むたびに見え方が変わります。
実は大杉家のうちの誰かは、「宇宙人」として目覚めていなかったのではないか・・・などと考えだすととても奥が深く、何度も何度も読み返してしまいます。
「人間賛歌」としても痛烈な「人間批判」としても読める点もかなり魅力的でした。
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