【ネタバレ有り】白昼夢 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:江戸川乱歩 1925年7月に博文館から出版
白昼夢の主要登場人物
私(わたし)
主人公。大通りを歩いていると、奇怪な演説をしている男に惹かれ、男の話を聞く。
男・真柄太郎(おとこ・まがらたろう)
大通りで演説をしていた薬屋の主人。「妻を殺した」と連日訴え続けている。
妻(つま)
男の女房。浮気性があり、男に千枚通しで殺され、屍蝋にされる。
白昼夢 の簡単なあらすじ
うだるような暑い夏の日、私は広い大通りを歩いていました。行く先に、大きな声で話し続けている男と、その周りに15人程度の人だかりができているのに気づいて、興味を持った私は人だかりに入っていきました。男は「妻を殺して蝋人形にした」「妻は自分の店のショーウインドウに飾ってある」と言うのです。私は群集の後ろにいる警官に訴えようとしますが、そんな元気もなくなってしまっていて、人だかりからふらつきながら離れました。そしてどこまでも続く、白く広い大通りを歩いていくのでした。
白昼夢 の起承転結
【起】白昼夢 のあらすじ①
あれは、白昼の悪夢だったのでしょうか。
それとも現実の出来事だったのでしょうか。
蒸し暑い夏の日、私は用事があったのか散歩をしていたのか、どうしてだか分からないけども、広く埃っぽい大通りを歩いていました。
その大通りは酷く殺風景で、土埃がえらく舞っていました。
古びた商店が建ち並び、小学生の運動シャツが干されていたり、貧相な種を安物の木箱に、砂のように詰めて店いっぱいに並べられていたり、薄暗い住居の天井が自転車のフレームやタイヤで覆われていたりしています。
提灯の下げられた二階窓から三味線の音が聞こえています。
縄跳びをしている男の子も、道の真ん中で輪を作っている女の子たちも一様に、土埃で汚れていました。
ふと私は、行く先に15人程度の人だかりがあるのに気がつきました。
みんな、おかしなものを見ているように愉快に笑っています。
大声をあげて笑う人さえいました。
興味が湧いた私は人だかりに近づくと、男が演説をしていました。
【承】白昼夢 のあらすじ②
大衆とは逆に、真面目な、青ざめた表情で何かを訴え続けていました。
香具師にも宗教家にも似つかない男に私は引き込まれ、気が付けばギャラリーの一人になっていました。
「俺はどんなに俺の女房を愛していたか……殺すほど愛していたのだ!」演説はどうやら見せ場を迎えているようでした。
「あの女は浮気者だった」と男が言うと、ドッと笑いが起こり「いつ、よその男とくっつくかも知れなかった」という言葉が掻き消されるほどでした。
男の演説は続きました。
男は、心配で心配で、商売も手につかなかったと、歌舞伎役者のように大袈裟に首を振って見せました。
男は毎晩、寝床の中で女房に手を合わせて「どうか、他の男には心を移さないと誓ってくれ」と頼みました。
しかし、妻はどうしても頼みを聞いてくれず、その場をごまかすばかりだったそうです。
ですが、慣れたふうに嬌態を見せ、場を上手く凌ぐ妻に、男はまた惹かれていました。
必死に語る男を茶化すように、群衆は馬鹿にしたような笑い声をあげ続けました。
【転】白昼夢 のあらすじ③
「みなさん! これが殺さないでいられましょうか!」男はそんなからかいをものともせず、話を続けました。
男の妻は「耳隠し」という髪型がよく似合いました。
鏡の前に座り、自分で綺麗に結いあげるそうなのです。
殺害した当時、妻が化粧をした後、男の方に振り向いて、赤い唇で微笑んだそうです。
男は言葉を一旦切り、表情を豹変させました。
「俺は今だと思った。
この好もしい姿を永久に俺のものにして了うのは今だと思った」そして、「千枚通しで襟足を刺してやった」と言うのでした。
妻は糸切り歯を見せ、笑みを浮かべたまま死んでいきました。
男は妻の死体を五つに切断し、21日間、四斗(約70リットル)樽の中へ入れて冷やして保管していたと言うのです。
死体を腐らせずに、男は妻を屍蝋に変化させたのでした。
「物」となってしまった妻に、男は好きなときにキスができたり、抱き締めることができたりするのだと囁きました。
さらに男は用心しているようでした。
この話が本当であれば男は人殺しであり、いつ逮捕されるかは時間の問題だからです。
そこで男は、妻の隠し場所を考えていました。
その死骸は自分の店に飾ってあると言い放ちました。
【結】白昼夢 のあらすじ④
男と目が合いました。
私はハッとして後ろを振り向き、目と鼻の先にあった薬屋に今頃気がつきました。
白い日覆いと、見覚えのある丸ゴシックの書体で形作られた「ドラッグ」「請合薬」の文字、そしてガラス張りのショーウインドウの中にある人体模型が見えました。
男は薬屋だったのです。
何がそうさせたのかは定かではありませんが、私はいつの間にか日覆いの中に入っていました。
ショーウインドウには間違いなく、男の妻が入っていました。
糸切り歯を剥き出しにしてニッコリ笑い、一面に産毛が生えていました。
私は倒れそうになる体をやっとの思いで支え、日覆いから離れました。
一人の警官がニコニコして演説を聴いていました。
私は必死になって言うつもりでした。
「何を笑っているのです、君は職務の手前それでいいのですか」と。
しかし、そんな元気さえ失われてしまっていて、めまいを感じながら群衆から離れ、ヒョロヒョロと歩き出しました。
どこまでもどこまでも、先の見えない一本道を歩き続けるのでした。
白昼夢 を読んだ読書感想
『白昼夢』は想像力次第で様々な解釈ができる作品だと思いました。
と言うのも、この作品はどこからどこまでが現実で、どこからどこまでが夢なのか、区別や判断が完全につかないのです。
白昼夢とは、「私」の見ている夢なのか、「男」の見ている夢なのか、男の話を信じない「警官」が夢だと思っていることなのか、作品の世界が夢そのもの(つまり読者の夢)なのか。
多様な読み方が可能であるからこそ、思考の迷宮に入ってしまう作品の一つとも言えるでしょう。
江戸川乱歩は、登場人物だけでなく読者までをも謎に引き込んで、臨場感で楽しませる、所謂エンターテインメント的作家だと思うのです。
コメント