【ネタバレ有り】虚空の旅人 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:上橋菜穂子 2001年7月に偕成社から出版
虚空の旅人の主要登場人物
チャグム(ちゃぐむ)
旅人シリーズの主人公。新ヨゴ皇国の皇太子。
シュガ(しゅが)
若き星読博士。聖導師の右腕で、トロガイの呪術に魅かれる。
タルサン(たるさん)
サンガル国王の次男。伝統に従いカルシュ島で漁師に育てられた。
スリナァ(すりなぁ)
ラッシャローの娘。カルシュ島で1年の大半を過ごす。
ラスグ(らすぐ)
元ヨゴ皇国人で今はタルシュ帝国に仕える呪術師。
虚空の旅人 の簡単なあらすじ
新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは、サンガル王国の新王即位の儀式に招かれ、はるばる南の島国サンガルへとやって来ます。しかし、サンガル王国はさらに南の大陸にあるタルシュ帝国から狙われており、タルシュ帝国はサンガルを手に入れる為の策略を仕掛けてきており、チャグムはタルシュとサンガルの争いに巻き込まれることとなります。
虚空の旅人 の起承転結
【起】虚空の旅人 のあらすじ①
サンガル王国のカルシュ島では、大漁を喜ぶ人々が宴会を開いていました。
しかし、エーシャナという5歳の女の子が突然異国の言葉で歌い出し、伝説のナユーグル・ライタの目となってしまいました。
ナユーグル・ライタの目は、もてなしを受けた後に海へ還される運命にあり、島守りアドルの元へと連れていかれます。
小さな島々からなる国サンガル王国では、船の上で生活するラッシャローのスリナァは、父、弟、妹の4人家族で、一年のうちの大半をカルシュ島で過ごしていました。
父が慌ててやってきて、ナユーグル・ライタの目が現れたのですぐに出発しようとします。
ラッシャローの間では、ナユーグル・ライタの目の出現は高値で売れる魚が取れるチャンスだと知られている為、急いで漁のポイントへと向かいます。
大量の魚を手にし市場のある島へと向かいますが、無人島の近くに来ると突然サンガルの兵士に襲われ、泳ぎの得意なスリナァは何とか一人だけ逃げ延びることに成功します。
新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは、星読博士のシュガと共にサンガル王国の新王即位の儀に招かれていました。
サンガル王国のカルナン王子はチャグムと会い、弟のタルサンに向かってお前と違って気品が漂っていると感想を述べますが、タルサンはこれに激しく怒ります。
サンガル王家は元々漁師の出身であり、第二王子のタルサンは故郷の島で育てられた為に品など不要で強さこそが民からの尊敬を集めると信じていました。
タルサンは祝いの演武を行い、最後にふらついたフリをしてチャグムに裏拳を放ちますが、チャグムは見に染み付いた体術でこれをかわします。
慌てたサンガル王と王子が謝罪しますが、チャグムは何も問題は無いと場を収めます。
タルサンは己の短慮を恥じて謝罪し、チャグムの思わぬ武術の動きに驚いたため二人だけで話をする時間を取ろうと約束します。
【承】虚空の旅人 のあらすじ②
サンガルでは、王女は島守りの妻となり監視役をになっています。
王女はいずれも賢く計算高いことで知られ、王の長女カリーナは夫アドルの怪しい動きを察知していました。
女だけの集まりで相談し、もう少し様子を見て首謀者と仲間を炙り出そうということになります。
逃げ延びたスリナァは、ドゴルというラッシャローに出会います。
スリナァ達を襲ったのは実はタルシュ帝国であり、ドゴルはタルシュに征服されたカラル王国近くのラッシャローで、既にタルシュ支配下に落ちていました。
スリナァの家族は無事でタルシュの捕虜となっていました。
ドゴルは徴兵された息子が戦死したことを恨んでおり、スリナァにタルシュの情報をサンガル王国に伝えてくれればスリナァの家族の面倒を見ると取引を持ち掛けます。
スリナァは承諾して一人旅立ちます。
王宮で接待を受けていたチャグムは、約束通りにタルサン王子と酒を酌み交わします。
チャグムは自身の武術を学んだきっかけとバルサについて語り、タルサンと共に話を聞いていた王女サルーナはその話を歌語りで聞いた事があると答えます。
その時、ナユーグル・ライタの目が到着し貴人達の宴に参加させると告げられ、タルサンは可愛がっていたエーシャナがナユーグル・ライタの目となってしまったことに愕然とします。
タルサンはその夜、エーシャナの泣き声を聞いた気がして目が覚めます。
エーシャナの客室へ足を忍ばせて行くと、暗い部屋の中でエーシャナが立ち上がって泣いていました。
目が覚め意識が戻ったナユーグル・ライタの目は殺されずに済む為、タルサンは安堵してエーシャナに近づきます。
エーシャナの嵌めていた指輪に触れると意識が無くなり、タルサンは無意識の中で指輪を自分の指に嵌め寝室へと戻り、翌朝には昨晩の出来事をすっかり忘れていました。
【転】虚空の旅人 のあらすじ③
スリナァは一人、夜の海を見ながらナユグの中へと意識を移します。
スリナァは生まれつき呪術師のようにナユグへと魂を飛ばすことができ、海の底で歌うエーシャナの魂を見かけます。
エーシャナを救おうとスリナァが呼びかけると、エーシャナはスリナァに気づいて自分の体へと戻っていきます。
サンガル王宮では、4日目の儀式として恐怖の銛と呼ばれる巨大な銛が客人に紹介され、タルサンが試技を行おうとしますが、タルサンは何かに操られていきなり兄のカルナン王子目掛けて銛を打ちます。
銛を受けたカルナンは命に別状は無いものの重傷、銛を打ったタルサンも肩を痛めました。
医術の心得があるシュガがタルサンの治療を手伝うこととなり、シュガはタルサンにかけられた呪いに気づいて呪術で助けます。
シュガは呪根を探してタルサンから指輪を抜き取りますが、自身の未熟な呪術ではこのような呪いを操る呪術師と戦うことはできないと不安を感じます。
タルサンを操っていた呪術師は、タルシュ帝国配下となった元ヨゴ皇国のラスグという男であり、今はカルシュ島の島守りアドルの客人として迎えられています。
タルシュはサンガルを戦わずして手に入れようとしており、タルシュに近い島守りから懐柔していました。
中でもアドルは頭はそれ程良くないものの、野心が高くラスグの持ち掛けに簡単に応じていました。
さらに好都合なことに魂の抜けたナユーグル・ライタの目が現れた為、ラスグは指輪を用いた呪術で操りタルサンへと近づき王家の間に亀裂を生じさせようとしたのでした。
タルサンは目覚めると王により処刑を言い渡されます。
ラスグはタルサン処刑後に王とカルナン王子を殺すようにアドルに命令します。
既にタルシュの軍隊が近づいており、邪魔な王と王子さえいなければ易々とタルシュはサンガルを手中に収めることができるのでした。
【結】虚空の旅人 のあらすじ④
第三王女サルーナはタルサンを牢から逃がし、2人はチャグムに助けを求めます。
都に着いたスリナァは知り合いのラコラを訪ね、カリーナ王女に情報を伝えることが出来スリナァは一安心します。
王宮に招かれてカリーナより直接感謝され報奨金を賜りますが、この時ナユグが見えるとエーシャナの魂が体に帰れずに漂っていました。
サルーナはタルサンに呪いをかけたのはヨゴ人でタルシュの手先ではないかと気づき、カリーナに相談します。
カリーナはサルーナの話を信じ、チャグムが自分ならこの好機を逃さずに軍を動かすと言うと、カリーナは既にタルシュ軍の動きは掴んでおりスリナァからの情報もあって対策を進めていました。
タルシュに乗せられて反逆を企てた者たちについては、わざと隙を見せて反逆の現行犯で捕まえることとします。
王と王子を守る為、チャグムはロタとカンバルの国王の協力を取りつけます。
最後の儀式で舞手達が刺客として襲ってきますが各国の衛兵は一致団結して撃退します。
さらに反逆者達が兵士を率いてサンガル王に襲ってきますが、タルサンが反逆者の長アドルに銛を突き立てて捕らえタルサンを慕う兵士たちはすぐにサンガル側に寝返ります。
しかしラスグが呪術により王に毒針を突きつけて形勢が逆転します。
窮地に追い込まれるサンガル王家ですが、チャグムが怒りに任せて魂を飛ばしラスグに攻撃します。
さらにチャグムを助けようとシュガも魂を飛ばし、ラスグは2対1では分が悪いと判断して逃げ去り、エーシャナは自身の体に戻ることが出来ます。
エーシャナはナユーグル・ライタの目として岬から海へと落とされますが、心配して近くに潜んでいたスリナァとタルサンによって助けられます。
チャグムはタルシュとの初陣に向かうタルサンを見送り、シュガと共に新ヨゴ皇国を民と真っ直ぐに向き合える国に変えてみせると心に誓うのでした。
虚空の旅人 を読んだ読書感想
本作は守り人・旅人シリーズの第4作目であり、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが主人公となる作品です。
チャグムは頼もしく賢く成長しており、初めて会う人々からは気品に溢れ新ヨゴの皇太子として申し分ない人物だと見られています。
しかし、内実は優しさや激しい気性も持っており、下々の生活に触れた経験もある事から完全に穢れを知らない存在を演じる事には違和感を感じています。
本人は帝のように裏では汚い事に手を染めながら表向きは穢れなき存在である事を強調するということが本当に出来るか不安で仕方ないのです。
シュガは呪術師トロガイの弟子としてかなり成長しており、本作では味方にシュガ以外の呪術師がいないため、ラスグとの戦いでは非常に重要な役割を果たします。
スリナァやチャグムのように修行せずともナユグを見たり魂を飛ばしたり出来る者もいますが、呪術の正しい知識を身につけて使えるのはシュガだけですので、トロガイもタンダも出てこない中で一人奮闘します。
また、本作では国と国との駆け引きもあり、今後の作品でその関係性がどう変わっていくのか、本作での貸し借りがどう影響するのかも見ものです。
また、タルシュ帝国やヨゴ皇国など南の大陸の国が初めて登場し、新ヨゴ、カンバル、ロタ、サンガルなどがタルシュに狙われているということが明らかになります。
これまでの作品は国と国との争いについて書かれてきませんでしたが、今後はさらに壮大なスケールで物語が進行していくような期待が持てます。
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