【ネタバレ有り】宿命 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:東野圭吾 1990年6月に講談社から出版
宿命の主要登場人物
和倉勇作(わくらゆうさく)
事件を捜査する刑事。美佐子とはかつて恋人だった。晃彦とは学生時代のライバル。
瓜生晃彦(うりゅうあきひこ)
瓜生家の長男。医学部で研究職をしている。美佐子の夫。勇作とは学生時代ライバルだった。
瓜生美佐子(うりゅうみさこ)
晃彦の妻。勇作とはかつて恋人だった。夫婦生活に不満を感じている。
宿命 の簡単なあらすじ
和倉勇作と瓜生晃彦は初めて出会った時からお互いが気になる相手だった。学生時代はライバルとして過ごした二人だったが、警官と医者という別の道に進み、その後会うことはなくなっていた。十年後、刑事となった勇作が調査することになったのはその晃彦が深く関わる事件だった。殺人事件をきっかけに浮かび上がる過去の事件との関わり。瓜生家に隠された謎が明かされた時、二人の間にある宿命もまた明らかになるのだった。
宿命 の起承転結
【起】宿命 のあらすじ①
和倉勇作は子供の頃、近所にあるレンガ病院に遊びに行くのが日課でした。
そこは脳に関する患者を収容している病院で、サナエという女性も大人でありながら幼児並の知能しか持ち合わせていませんでした。
しかし子供に対してはとても優しく、勇作やその友人たちはサナエを慕い、よく病院の庭で遊んでいました。
しかしある日サナエは病院の窓から落下し亡くなってしまいます。
勇作の父の興司は刑事で、事件を他殺として調べていましたが、警察の方針は自殺で固まっておりスタンドプレーに走る興司に上司が説得に来ますが、他殺を信じる興司はつっぱねます。
しばらくすると別の男が訪ねてきて、長い話し合いのあと捜査は打ち切られることになり、サナエの事件を口にすることもなくなりました。
その後、興司は勇作を連れてサナエの墓を訪れその死を悼んだのでした。
UR電産社長、瓜生直明は今際の際に息子の妻である美佐子を呼び、息子である晃彦に遺言を残し、妻の亜耶子、次男の弘昌、長女の園子に見守られこの世を去っていきます。
「晃彦、申し訳ない、よろしく頼む」という遺言を伝えると、普段は冷静沈着な晃彦がつらそうな顔を見せたのを美佐子は感じました。
UR電産の次期社長は須貝正清に決まりました。
UR電産は瓜生派と須貝派がほぼ交代で実権を握るような状態が続いていましたが、前社長直明の息子である晃彦が医学の道に進んだため跡取りがおらず、社内は一気に須貝派に取り込まれていっています。
四十九日法要のあと、出席者は瓜生家に集まり会食が行われました。
その場の話で直明が収集した美術品を身内や会社の者に譲ってもいいという話になり、希望者で見物に赴きます。
価値があるのは絵画などの美術品ですが、武器などの収集も好んでいたようで多数のコレクションがありました。
その中には毒矢がこめられたボウガンもありました。
【承】宿命 のあらすじ②
須貝正清が殺され、背中には矢が突き刺さっていました。
瓜生家の捜査を担当することになった和倉勇作は複雑な思いで居ます。
勇作と瓜生晃彦は小学校からの同級生で二人はライバルとも言える存在でした。
仲間が多いのは勇作でしたが、勉強や運動は晃彦の後塵を拝する事が常で、ずっと微妙な思いを抱えていたのでした。
高校卒業とともに勇作は警官の道に、晃彦は医者の道に進み会うことはなくなっていました。
久しぶりにあった晃彦は、なんと自分の初恋の相手である美佐子と結婚していました。
美佐子も思いもよらない再会に驚きます。
瓜生家の玄関に落ちていて花びらが、正清が殺された殺人現場にある花と一致し、犯人は瓜生家に関係のある人物だとほぼ断定されますが当日の瓜生家の人間にはすべてアリバイがあり捜査は難航します。
勇作は捜査と称し個人的に美佐子に会いに行きます。
夫である晃彦を疑っていると告げると、美佐子は庇うどころか不思議な縁で妻となった自分のこれまでを語り始めます。
美佐子の父壮介が仕事の中の事故で脳震盪を起こした時、脳を研究する特殊な病院に転院し治療することになりました。
もちろんそれはレンガ病院のことです。
父親は無事退院しましたが、何故か前の仕事先ではなくもっと条件の良いUR電産の関連会社に転職することになります。
その後美佐子も大学を卒業し就職先を探していたところ、父にUR電産を勧められます。
UR電産は地元でもトップクラスの企業で、受かるはずがないといいますがとりあえず受けてみたところ、他の会社は落ちたのにUR電産からは内定をもらい驚きます。
入社してすぐ社長付きの事務担当に任命され、その縁で社長の息子の晃彦と出会い結婚に至ったのでした。
美佐子はこの一連の流れが何か見えない「糸」に操られているようだという思いを抱えていました。
【転】宿命 のあらすじ③
事件現場での目撃証言があり、瓜生弘昌が警察に連れて行かれます。
アリバイが問題でしたが、妹である園子が矢を持ち出しそれを届けてもらえば犯行は可能でした。
しかし弘昌は殺意を持って現場に行ったのは確かだが、到着した時には既に正清は死んでいたと証言します。
正清が何か大事なファイルを瓜生直明の遺品から持ち出していたことが弘昌の証言から判明し、常務で直明の側近だった松村という男に事情聴取を行いましたが、持ち出されたファイルに心当たりはありませんでした。
しかし正清が複数の研究者とコンタクトを取り、脳に関係する何かの事業を始めようとしていたことが判明します。
その後勇作は独断で、かつてのレンガ病院の院長である上原という男の古い友人に会いに行きます。
そこで当時、脳に電気信号を流す何らかの研究をしていたことがわかります。
サナエの知能が著しく低かったのはこれに何か関係があるのではないかと勇作は考えます。
独自捜査を終え、捜査本部に戻ると事件は大きく動いていました。
事件のかなり前から、事件現場の近くの林の中にボウガンが置かれていたことが目撃者の証言でわかりました。
これにより弘昌がやってくるより前に犯行が行われた可能性が大きくなってきます。
そして常務の松村が殺人の実行犯として逮捕されました。
瓜生家のお手伝いさんがかつて松村の世話になった部下で、その人物の協力でボウガンと矢を持ち出し犯行に至ったのでした。
松村の犯行理由は支離滅裂なもので、精神鑑定にかけられることになりました。
【結】宿命 のあらすじ④
殺人事件は解決しましたが勇作にとってファイルとサナエの事件はまだ謎のままでした。
全てを知る晃彦と二人きりで会うことになり、晃彦から当時のことが語られます。
戦争後の混乱期、のちのレンガ病院院長上原、そして瓜生の祖父は生活に困った人間を集め高額の報酬と引き換えに人体実験を行っていました。
脳に特殊なチップを埋め込み、外部からの電気信号でその感情を操るという危険な研究でした。
実験が始まってしばらくして患者が脱走する事件が起こります。
秘密裏の研究だったためにおおっぴらに捜索することも出来ず逃げた人たちはそのままになってしまいました。
そのうちの一人が美佐子の父、壮介でした。
壮介が偶然病院に担ぎ込まれた時に当時の患者だと気づかれ、レンガ病院に移されて後遺症の検査を行っていたのでした。
上原と瓜生の祖父は非道な研究を悔いており、逃げた壮介を責めるどころか今後の人生のバックアップを約束します。
こうして美佐子とUR電産に「糸」が繋がれたのです。
そしてその時の実験の後遺症で知能低下を起こしたのがサナエさんでした。
瓜生の祖父が亡くなり、データを引き継いだ須貝の父が再び研究を始めようとサナエを連れ去ろうとしそれに抵抗して窓から落下したのがサナエ死亡事件の真相でした。
そして彼女は知能低下前に妊娠しており、育てることは不可能だろうと判断したまわりによって望んでも子供ができない家に引き取ってもらうことになり、当時子供が居なかった瓜生直明の長男として育てられることになりました。
そしてサナエが産んだのは双子で、もう一人は和倉家の一人息子として育てられることになったのです。
なんと二人は二卵性の双子でした。
隠し事がなくなった晃彦は美佐子との仲も修復し、勇作は何もかも負けたと独りごちます。
最後に問いかけました、先に生まれたのはどっちだと。
晃彦は小さく笑って、君の方だと答えたのでした。
宿命 を読んだ読書感想
起きた事件そのものよりも、過去になにがあったのか。
二人を繋ぐ宿命とは何なのかという部分に本題が置かれています。
殺人事件の犯人やトリックよりも、人物の関係や因縁に主題を置いているところは現在の東野圭吾作品にも見られる要素で、この頃が今の作風への転換期と言ってもいいかもしれません。
興味の軸を複数置くことで退屈せずぐいぐい読ませる魅力を感じさせてくれる作品です。
しかし殺人事件の部分の比重が低く、もう少し凝ったトリックもあればとも感じました。
最後の一行はこれがやりたかったんだろうという作者の思いを感じ、少し笑ってしまいました。
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