「ぼくは勉強ができない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山田 詠美

「ぼくは勉強ができない」

【ネタバレ有り】ぼくは勉強ができない のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:山田 詠美 1996年3月に新潮社から出版

ぼくは勉強ができないの主要登場人物

時田秀美(ときたひでみ)
17歳の高校生、勉強ができないがモテる。桃子と付き合っている。私生児。

桃子(ももこ)
ショットバーで働く、秀美の彼女

黒川礼子(くろかわれいこ)
秀美と同級の女生徒。貧血持ちサバサバ女子。

仁子(じんこ)
秀美の母。出版社に勤めている。奔放な女性。

真理(まり)
隣のクラスの秀美の幼馴染。自分磨きに余念がない。

隆太郎(りゅうたろう)
秀美の祖父

ぼくは勉強ができない の簡単なあらすじ

高校生の時田秀美は勉強ができません。しかしモテます。年上の桃子さんと交際している彼には勉強なんかの大事さがいまいちわかりません。教師や友人の中には世間一般の常識や価値観を重大視して、そこから逸脱しがちな秀美を疎ましく思うものもいます。秀美は彼らとぶつかったり、屁理屈で煙に巻いたりしながら、桃子との逢瀬を楽しんでいました。友人の死や桃子との関係、進路など様々な悩みに出会うたび、秀美は周りの人間とのかかわりの中で独自の答えを見つけ出していきます。

ぼくは勉強ができない の起承転結

【起】ぼくは勉強ができない のあらすじ①

時田秀美の日常

秀美はクラス委員に立候補しましたが三票差で脇山という生徒に負けてしまいました。

書記になってしまいましたがそのルックスとユーモアで人気者の秀美は一向に堪えることなくクラスの笑いをさらいます。

それが脇山には面白くありません。

勉強ができるかどうかよりも、顔がいいとか女にモテることの方が大事に思える、と担任の桜井先生や彼女の桃子さんと語る秀美でした。

中間テストの後で脇山が秀美に高得点を見せびらかしに来ました。

いい大学に入れないとろくな大人になれないぞ、と何の疑いもなく言い放つ彼に、秀美はひとついたずらをします。

幼馴染の美少女・真理に頼んで脇山を骨抜きにした上、こっぴどくフラせたので脇山の精神状態はガタガタ、次のテストは散々でした。

秀美は小さいころから、片親だからとか、家が貧乏だからとかでレッテル張りをしてくる自分では何も考えない人間が嫌いなのでした。

秀美はサッカー部に所属しています。

部活仲間の植草はいつも悩ましげに哲学的な苦悩を弄んでいる変わったやつです。

練習で手首を痛めた秀美は保健室で黒川礼子に会いました。

貧血持ちの彼女はかつて植草と交際していましたが、そのまだるっこしい哲学かぶれに嫌気がさし別れたのでした。

率直にものを言う礼子は、桃子さんともすぐに打ち解け、秀美は彼女好ましく感じるのでした。

ある日植草が練習中に足を挫きました。

普段から孤独だ虚無だとうそぶいている植草が、彼が言う高尚な悩みに思いを巡らす余裕もなく痛みに呻いています。

痛みなどで逼迫した状況では、重大に思える悩みも出る幕はないなと思うのでした。

【承】ぼくは勉強ができない のあらすじ②

秀美と桃子さんの関係

秀美のクラスの後藤がある日、政治家になると言い出しました。

なんでも近所の米軍基地の飛行機騒音が耐え難く、政治家になって基地をなくそうと安直に考えたのです。

後藤の話を皮切りに、みんな様々な騒音に対する苦情を言いあいました。

秀美は、人間は嫌いな音一つでとんでもないことでもやりかねない、と少し怖くなりました。

その日、なにか嫌な予感がした秀美は連絡もせずに桃子さんのアパートへ行きました。

しかし気配があるのに何度ノックしても返事はなく、結局秀美は二駅も歩いて帰る羽目になりました。

秀美は、祖父の隆太郎や礼子に相談し、本人に直接確かめることに決めました。

驚くことに桃子さんは素直にすべてを告白しました。

昔の恋人と再会し部屋で会っていたこと、体を重ねていたこと、秀美のノックに気づいて息をひそめたことをです。

ショックを受けた秀美は一人公園で詩集を開きました。

途方に暮れたときに効く、と礼子が貸してくれたのです。

秀美は、詩集を読んでいる自分の内面の静けさを観察するうちに、あの晩ノックを続けた自分の嫉妬の騒々しさに気づくのでした。

苦悩から逃れるためにサッカーに打ち込む秀美でしたが、練習中に転倒し脳震盪を起こしてしまいます。

身近な人たちの顔が浮かんでは消え、保健室で目を覚ました秀美はいてもたってもいられず、桃子さんのいるバーへ向かいました。

桃子さんの姿を見ると泣き出したいような気持になりましたが、桃子さんはアパートの鍵を秀美に渡し、部屋で待つように言います。

布団に倒れこみながら秀美は、自分を情けなく思いながらも、会えない間のことを全部話してやろうと決めました。

【転】ぼくは勉強ができない のあらすじ③

レッテル張りと友人の死

秀美は財布に入れていた避妊具を学年主任の佐藤先生に見つかり、呼び出されてしまいます。

不順異性交遊だ、勉強に支障がでる、と決まりきった説教をする佐藤に秀美はつい反論してしまいます。

セックスすると成績が下がるという証拠でもあるんですか、と口答えする秀美に佐藤は激怒して、秀美の母子家庭について言い及びました。

その瞬間秀美は佐藤の襟首をつかみ上げていました。

咄嗟に影で見ていた桜井先生が止めに入り、秀美を連れ出し事なきを得ました。

片親だとかで、決めつけで誰かを傷つける人間にはなりたくない、と吐き出す秀美を連れ、桜井先生は桃子さんのバーへ向かいます。

気付かないうちに誰かを気付付けてしまうことは避けられないのかもな、と思う秀美でしたがあることに気づき頭を抱えます。

避妊具を教室の机の上に置き忘れたのでした。

めったに風邪をひかない秀美が高熱で学校を休んだ日のことでした。

クラスメートの田嶋が訪ねてきました。

二人と仲の良かった片山という生徒が飛び降りを自殺したのでした。

驚く秀美と田嶋は片山について話します。

目立たない生徒でしたが非常に読書家でいろいろなことを二人に話していました。

人間の体内時計は25時間で、普通の人間は一時間を調節して解決するが、自分は生まれたときから時差ボケなのだと片山は語っていました。

葬式に出席する約束をした秀美ですが、翌日はさらに熱が上がりうなされていました。

本来回復する体の不調が、回復しないと悟ったとき人は絶望するのかもしれない、と朦朧としながら思うのでした。

風も治り、登校する秀美ですがふと、学校と反対の電車に乗りました。

心地よい日差しとともに揺られながら、一時間のずれくらいここで寝てりゃよかったのに、と片山を思い涙を流すのでした。

【結】ぼくは勉強ができない のあらすじ④

自意識と進路

秀美の友人の川久保は同じクラスの山野舞子に恋しています。

舞子は誰もが認める美少女でした。

しかし秀美には、彼女の清純さが巧妙に作られたものに思えて、好きになれないのでした。

ある日川久保は舞子に告白する決意を固めますが、秀美に付き添いを頼みます。

渋る秀美を強引に押し切った川久保でしたが、土壇場で緊張による腹痛を発し、秀美に告白の代弁を丸投げします。

気の毒に思った秀美は舞子を呼び出しますが、舞子は秀美が好きだといいます。

秀美は舞子の「繕ったように見えないよう繕っている」美しさが好きになれないと伝えます。

舞子は怒った様子で反論しました。

秀美の言うように舞子自身が振舞っているのは時日だが、さも自分は自然体であるかのように振舞う秀美こそ仮面をかぶっている、と反駁しました。

痛いところをつかれながらも秀美は川久保に残念な結果を伝え、いつか自分は皮をかぶらないでも他人の視線を受け止められるようになるだろうか、と考えるのでした。

進路相談の時期になっても秀美は、進学か就職か決められずにいました。

礼子や桜井先生からは焦らずに決めればいいといいますが秀美には決められません。

そんなある日、祖父隆太郎が倒れたと病院から連絡がきました。

命に別条はなく隆太郎は元気な様子で秀美にアドバイスしました。

悩んでも何ものこらなければ悩むこと自体が無駄に感じられるときもある、しかしなにも残らないのも悪いことじゃない、始末に困ることはないのだからと秀美に言いました。

幼馴染の真理は卒業後水商売につくために目を整形していました。

迷いのない彼女に秀美は親愛の情を抱きます。

彼女から、大学生になった秀美から勉強を教わりたい、と告げられます。

あなたは人とは違う勉強家になると思う、といったのは真理だけでなく桃子さんも同じでした。

進学を桜井先生に伝えると驚いていましたが、いまさら勉強ができるようになりたいとは言えない秀美でした。

ぼくは勉強ができない を読んだ読書感想

一読すると時田秀美という生徒は非常にひねくれた、かわいげのない人間のように見えます。

しかし彼のバックボーンには幼少期の境遇とそれに対する大人たちの価値観の決めつけが強烈に作用しています。

秀美に限ったことではなく、社会で生きていく以上、誰かの価値観は誰かの価値観を圧迫してしまうのかもしれません。

そしてそれは私たち自身が加害者にも被害者にもなる可能性があるということなのです。

その困難さから目を背けて社会生活への失望することなく生きる秀美には、多くはないですが理解者が増えていきます。

すべての人間から好かれることはありませんが、すべての人間から嫌われることもありません。

秀美に訪れた救いはそのまま私たちが生きる現実世界での救いにも当てはまると思えました。

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