【ネタバレ有り】嘘をもうひとつだけ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:東野圭吾 2000年4月に講談社から出版
嘘をもうひとつだけの主要登場人物
加賀恭一郎(かがきょういちろう)
主人公。 練馬警察署に所属。殺人事件を担当する刑事。
寺西美千代(てらにしみちよ)
弓削バレエ団の事務局長。 演出家のサポート役もこなす。
早川弘子(はやかわひろこ)
弓削バレエ団の事務局員。 元ダンサー。
寺西智也(てらにしともや)
美千代の夫。 1年前に病死。
真田(さなだ)
演出家。
嘘をもうひとつだけ の簡単なあらすじ
弓削バレエ団のメンバーのひとり、早川弘子が自宅マンションから転落して亡くなってしまいます。練馬署の捜査一係からやって来た加賀恭一郎が現場に残された手掛かりから導き出した犯人は、同じ劇団員の寺西美千代です。明確な証拠だけが見つからないままで舞台の幕開けが近づく中で、加賀はひとつの賭けに打って出るのでした。
嘘をもうひとつだけ の起承転結
【起】嘘をもうひとつだけ のあらすじ①
弓削バレエ団の創作バレエ「アラビアンナイト」の幕が上がるまで残りあと数時間となったために、事務局長でもあり演出家の真田の補佐も務める寺西美千代は本番前の打ち合わせに追われていました。
そんな慌ただしい中で、練馬警察署から加賀恭一郎が彼女のもとを訪ねてきます。
用件は5日前に自宅マンションの7階から転落して亡くなった、同じバレエ団の早川弘子のことです。
現在は事務局で裏方として働いている弘子でしたが、膝を故障して引退する1年前まではプリマドンナとして活躍していました。
弘子は死ぬ1週間前に引っ越してきたばかりで、同じマンションには美千代も住んでいます。
加賀が興味を示したのは、ふたりの部屋の位置関係です。
美千代の部屋は弘子の部屋の斜め上の8階にあり、美千代がバルコニーに出れば弘子のバルコニーを見下ろすことができました。
弘子の遺体が発見された時の服装もスウェットの上下にトウシューズを履いていて、 自殺と片付けるには不自然です。
【承】嘘をもうひとつだけ のあらすじ②
今回の舞台で上演される「アラビアンナイト」の作者は美千代の夫・寺西智也でしたが、15年前に美千代がバレリーナを引退する際に踊ったのも同じ演目です。
弘子の部屋からは「アラビアンナイト」の振り付けや楽譜が手書きで細かく書き込まれた、オリジナルの原稿が発見されていました。
現在の舞台で演じられているものにはない振り付けが、 オリジナルには存在します。
加賀が削除された部分をバレエの専門家に見せてみると、技術的にも体力的にも極めて高いレベルが要求される振り付けであることが分かりました。
15年前の美千代が引退に追い込まれた理由は、1年前の弘子と同じく膝と腰を酷似していたせいでバレリーナとして限界に近い状態だったからです。
「アラビアンナイト」を踊って最後の花道を飾りたかった美千代は、智也に頼んで難易度の高い部分を削ってもらいます。
しかしその時の妥協はダンサーとして人一倍プライドが高い美千代にとっては、夫の他には知られてはならないことでした。
偶然にも弘子に気が付かれてしまったために、美千代は彼女の殺害を決意したようです。
【転】嘘をもうひとつだけ のあらすじ③
加賀の地道な聞き込みの結果、弘子が近々バレエスクールをオープンする予定だったことが分かりました。
講師として復帰するには自宅でのトレーニングは欠かせないために、手すりの設置されたバルコニーは正に稽古場にはピッタリです。
バレエのレッスンにはストレッチ体操が重要になり、練習後には片足を手すりに載せて入念なマッサージを行います。
もしもその瞬間に背後からもう片方の軸足を持ち上げたら、小柄な弘子の身体は簡単に手すりを乗り越えて転落していくでしょう。
バルコニーに置いてあったプランターが何者かに動かされていることに気が付いた加賀は、美千代にさり気なく聞いてみました。
美千代はあっさりとプランターに触ったことを認めましたが、その理由は「弘子から引っ越しの手伝いを頼まれたから」と筋道が通っています。
美千代には動機もあり犯行機会もありましたが、ただひとつ物的証拠だけがありません。
加賀は「本番までに必ず送り届ける」と約束して、事件現場のマンションへ美千代を車で連れていきます。
【結】嘘をもうひとつだけ のあらすじ④
バルコニーの隅っこにはグレーのプランターが置いてあって、美千代は1週間前の引っ越し当日に自分が運んだと証言します。
しかしそのプランターには値札が貼られていて、彼女が殺される直前5日前にホームセンターで購入されたものです。
加賀から聞かれたことには何でも正直に答えていた美千代でしたが、ただひとつ口にした「引っ越しを手伝った時にプランターに触った」という嘘が証拠となって逮捕されることになりました。
そんな加賀も、美千代に対してはひとつだけ嘘をついています。
「本番に間に合うよう美千代を送り届ける」という約束は、果たされそうにはありません。
美千代が行くべき場所はスポットライトに照らされて大観衆の視線が注がれる劇場ではなく、薄暗い取り調べ室であり好奇の目にさらされる裁判所です。
美千代が加賀に付き添われてパトカーに乗り込もうとしている時に、今は亡き夫との思い出が込められた「アラビアンナイト」の幕が上がるのでした。
嘘をもうひとつだけ を読んだ読書感想
これまでのシリーズでは寡黙で武骨なイメージが強かった主人公の加賀恭一郎でしたが、本作品では思いのほかバレエに造詣が深い一面を披露していました。
殺人事件を解決した後に、舞台を楽しみながらほっとひと息ついている様子が思い浮かべてしまいます。
バレリーナとしての自分自身の経歴を守り抜くために、殺人まで犯してしまう寺西美千代の胸の内を理解することは難しいです。
長い間バレエレッスンに打ち込んできた方ならば、少しは感情移入できるのでしょうか。
初心者でも分かりやすく、劇団の舞台裏や人間模様が描かれていていて面白かったです。
コメント