【ネタバレ有り】本と鍵の季節 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:米澤穂信 2018年12月に集英社から出版
本と鍵の季節の主要登場人物
堀川次郎(ほりかわじろう)
物語の語り手。図書委員。高校二年生。人当たりがよく頼まれ事が多い。
松倉詩門(まつくらしもん)
図書委員。高校二年生。背が高くイケメン。皮肉屋でいいやつ。
浦上麻里(うらがみまり)
引退した図書委員の先輩。次郎たちに暗号解読の依頼する。
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本と鍵の季節 の簡単なあらすじ
図書委員の堀川次郎と松倉詩門は、利用者がほとんどいない図書室で、比較的真面目に当番の仕事をしています。そんなある日、先輩の浦上麻里が「祖父の金庫の番号を探り当ててほしい」と依頼してきました。解るわけがないと思いつつも知恵を出し合い、見事解明。それから、二人の元には時々依頼が来るように。謎を解く中で、詩門は次郎の人となりや着眼点を信頼し、六年間探し続けている父親の遺産の在り処を相談します。次郎は快く引き受け二人の宝探しが始まりました。そして遂に場所の特定に至ります。引き際を心得ていた次郎は、あとは松倉家の問題だからと、発見は詩門に任せました。これでめでたし…と思いかけた次郎でしたが、わずかな疑問が気になり、松倉家について調べ直します。すると、父親こそが泥棒で遺産は盗品であることが判明。その金に手を付けるなと詩門を説得しますが、結局、詩門がどうしたのかは明かされないまま物語は終わります。
本と鍵の季節 の起承転結
【起】本と鍵の季節 のあらすじ①
利用者のほとんどいない放課後の図書室は、図書委員たちの遊び場になっていました。
雑談をしたり、ちょっとしたゲームでいつも盛り上がって笑い声の絶えない空間でしたが、六月になって三年生たちが引退してしまうと、潮が引くように誰も集まらなくなってしまいました。
そんな静かな空間に戻った図書室で、堀川次郎と松倉詩門は当番の仕事を比較的真面目にしています。
今年の四月に最初の委員会会議で知り合った二人でしたが、詩門の快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋で、図書室が遊び場だった頃、お付き合い程度に愛想笑いはしても自分からは騒がないスタンスに次郎は共感し、よく話すようになりました。
他愛無い話をしながら手を動かしていると、引退した先輩の一人、浦上麻里がやってきました。
二人にいい話があると言うのです。
それは亡くなった祖父の開かずの金庫の開錠番号を探り当ててほしいというものでした。
二人は以前、他の図書委員が持ちこんだ暗号を解いたことがあり、そこに目を付けたようでした。
結局、先輩の口車に乗せられた次郎と、乗り気ではないけど付き合う事にした詩門は浦上先輩の家を訪ねることになりました。
お祖父さんの書斎で順調に手掛かりを追い、ついに次郎が図書分類法の番号で開錠番号を割り出せる事に気が付きます。
その事を先輩に告げようとすると、詩門に遮られ、理由を付けて外に連れ出されました。
不思議に思う次郎に、詩門はお祖父さんが遺した暗号などよりおかしな事があの家で起こっている、あの家には浦上先輩は住んでいないのではないか、にもかかわらず自分の家のように振る舞っているのは何故なのか、最悪の場合、本当の家主であるお祖父さんはまだ生きているが麻里たちを追い出せない状況なのではないかと推理します。
次郎もその推理に異論はありませんでしたが、他人の家の事に首を突っ込む必要があるのかと問いかけます。
すると、いつも大人びて皮肉屋な彼の表情はそこにはなく、危険な状況にあるかもしれない人を見て見ぬ振りはできないとためらいながらも口にした友の顔を見て、次郎の腹は決まりました。
そして二人は一計を講じ、次郎が先輩たちを引き付け、その間に詩門がお祖父さんを発見し救急車を呼ぶことに成功します。
この事件を皮切りに、二人は友好を深め、いくつかの謎と向き合うことになるのです。
【承】本と鍵の季節 のあらすじ②
冬も近いある日、図書委員の仕事に勤しむ次郎の隣で新聞を眺めたまま珍しくぼんやりしていた詩門が、おもむろに昔話でもしようと言い出しました。
冗談だと受け流す次郎でしたが、どうやら本気のようで宝探しにまつわる話をお互いにすることになりました。
次郎は子供の頃のプールで遊んだ思い出話を披露し、詩門はある自営業者と泥棒の話を聞かせました。
それは六年前、自営業者の自宅近所で空き巣が頻発しました。
自営業者は売り上げをプールし自宅に資金を隠していたので、空き巣を警戒して別の場所に隠しました。
しかし不運にも自営業者は突然亡くなってしまいます。
隠したそのお金は、どこにあるのかわかりません。
残された息子は六年間、知恵を絞り必死で探しました。
そのせいか隠し事に鼻が利くようになり、最近になって知り合ったお人好しのお陰で、ひとの問題を解決したりしなかったりするようにもなりました。
しかし、お金はやっぱり今も見つからないのでした。
おしまい。
この昔話は詩門自身の話だとすぐに次郎は気が付きました。
そして、一人で探して見つからなくても、他人の視点が入ることで見えることもあるかもしれないと協力を申し出ます。
実は詩門もそれに期待していました。
と言うのも、これまで彼らが解決したりしなかったりした事件を経て、次郎の人となりや頭の良さをよくわかっていたからです。
六月の暗号解読に始まり、割引の為に二人連れだって行った美容院での大捕物、罪を着せられた兄の無実を証明したい弟から相談されてのアリバイ探し、自殺した友人が最後に読んでいた本を探す依頼。
どの事件でも、それぞれに考え推理し、時々補完しあって答えを出してきました。
疑うことが基本姿勢の詩門にとって、次郎は疑いようのない“いいやつ”でした。
八方手詰まりだった詩門は、次郎の申し出をありがたく受け、六年がかりの宝探しに二人で乗り出すのでした。
【転】本と鍵の季節 のあらすじ③
さっそく次郎は宝探しの概要を聞くため、よい場所はないか詩門に尋ねました。
さすがに学校で話すのは憚られた為です。
すると案内されたのは意外にも古い小さなバーで、いよいよ詩門の底知れなさを感じる次郎でしたが、確かに秘密の話をするにはうってつけの場所でした。
二人はまず父親の持ち物リストから見直すことにしました。
気になったことを挙げ、手がかりとなりそうなものを探します。
実物の手帳を見ながら、書き込まれている意味を一つ一つ確認していると、付随して松倉家の思い出が語られます。
両親と詩門と弟・礼門(れいもん)の家族四人で海へ山へ、お盆の頃にテントを持って行って本格的なキャンプをした話を聞きながら、かつての家族の姿に胸を詰まらせる次郎。
しかしその思い出話の中であることが気になりました。
それは移動手段です。
どれも車での移動でしたが、松倉家の車はカローラ。
テントを持って行った荷物の多いキャンプの際、カローラでは乗せられたのかと指摘します。
そしてそのキャンプの時だけひどく車に寄った弟の話から、もう一台の車の存在が明らかになったのです。
翌日、心当たりの場所で車を探すと、古びて長い間誰も乗っていないバンが見つかりました。
二人は内心の興奮を抑えながら冷静に車内を捜索します。
そこから“鍵”と“本”が見つかりました。
本は傷みのひどい文庫本で、手製のカバーがかかっており汚れや書き込みがひどいこと以外に情報はないようでした。
しかし鍵の方は「502」と書かれており、不自然なほど仕事関係の持ち物がなかった父親の、仕事場として使っていた部屋の鍵だろうと当たりがつきました。
が、喜びも束の間、これが一体どこの「502」号室なのかは依然わからないままです。
他に手がかりがなければただの鍵、やはり糸は切れてしまったと考えるべきなのでしょうか。
二人はバンを後にします。
とりとめもなく話ながら次郎はふと、引っかかりを覚えます。
それは文庫本の状態についてです。
手製のブックカバーを付けて本を読む人が本をここまでひどく汚すだろうかと。
そこで詩門の了承を得てカバーを外してみることにしました。
するとそこには「文倉町立図書館」とシールが貼られ、その上から油性ペンで斜線が引かれています。
次郎たちには馴染みのある本、つまり除籍本だということがわかったのです。
その事実から、父親が定期的に「文倉町」に滞在していた可能性に、ついに行きつきました。
【結】本と鍵の季節 のあらすじ④
二人はついに探し当てたのです。
文倉町は小さな町、五階建て以上のマンションなどそう多くはないでしょう。
興奮を隠しきれない詩門でしたが急に我に返ります。
反対に次郎はとっくに気が付いていました。
自分たちは、宝探しが失敗に終わる想像しかしていなかったのだと。
本当に宝を見つければ、それは現金である可能性が非常に高く、そんな生々しい紙幣の束を目の当たりにして見返りを求めずにいられるのか、できたとしても以前のようなただの図書委員同士には戻れないだろうと。
次郎は、宝が見つかるその場に自分はいない方がいいと、あとのことは詩門に託します。
そう、これはもう松倉家の問題だからです。
二人の宝探しは終わったのです。
土曜日、次郎は市民図書館にいました。
実は、あのバンが月極駐車場に六年間も停まっていたことに疑問を感じていたのです。
いったい誰が料金を支払い、それは誰にメリットがあるのか。
これまで詩門から聞いた話を元に過去の記事を調べてみると、そこには驚きの内容が書かれていました。
なんと、詩門の父親は自営業者ではなく泥棒の方だったのです。
父親は懲役八年、現在収監中、ならば弁護士などを介して料金を支払うことも可能です。
するとそこに詩門が現れます。
次郎が気が付いてしまうことを予想していたのです。
詩門はすべて話しました。
父親は泥棒で、グレーな商売をしていた自営業者の金を狙っていたこと。
近所で空き巣事件を起こして自営業者を不安にさせ、現金を移すときを狙って盗みを成功させたこと。
しかし空き巣の方で足がつき逮捕されたこと。
盗んだお金は元が後ろ暗いものだった為に被害届を出せず、今も眠ったままになっていること。
父の逮捕後、母は朝から晩まで働き詰め、詩門もバイトをしていますが楽にはならないと語ります。
そんなことはこれまでおくびにも出さなかった詩門ですが、松倉家の生活は苦しいものだったようです。
詩門は、使うつもりはないと言います。
ただのお守りがわりに持っていたいだけだと。
しかし、現金を前にして使わずにいられるはずがありません。
また盗品を手元に置いておくだけでも罪に問われる可能性があります。
友達に罪を犯してほしくない次郎は心を尽くして必死に止めます。
次郎の言葉に、詩門は少なからず心を動かされましたが、明言することなく立ち去ります。
その背中に次郎は図書室で会おうと言い、月曜日、委員の仕事を片付けながら友を待つのでした。
本と鍵の季節 を読んだ読書感想
著者の2年ぶりの新刊となった本作は、男子高校生ふたりの友情の物語です。
彼らは、いつも一緒にいるような友人関係ではなく、委員会の仕事で顔を合わせる程度の間柄でしたが、いくつか謎解きをすることで、お互いを認め信頼し合うようになります。
ですが、そんな事をはっきりとは言わない10代特有の照れ臭さや距離感のようなものが、随所に感じられ、本作の好感度はぐいぐい上がっていきます。
謎解きも彼らの息ぴったりの様子に爽快感を覚えますが、それだけで終わらせないのが著者の特徴と言えるでしょう。
そう、青春とは必ずほろ苦いものなのです。
成長すればするほど、青臭い言葉や思いが恥ずかしいことのように感じてしまい、無関心や斜に構えた態度で蓋をしていくようになります。
それでもどこかで、青臭くたっていいじゃないかと叫びたがっている子どもの自分もいて、もどかしさを抱えているのです。
詩門もまた、どうにもならない現実に青臭さを捨てようとします。
私は彼の気持ちがよくわかります。
狡い大人だからでしょうか。
ですが虎の子は持っておきたいのが人の性です。
ただ、そんな彼に、もう少しだけただの図書委員でいてくれと叫んだ次郎の言葉に心が洗われる思いでした。
状況が、子供を子供でいさせてくれないことは多くあります。
むしろいつまでも大人の責任から逃れて生きている大人もどきに比べたら立派なものです。
しかし、二度とあの頃に戻れなくなった今の私は、子供が子供でいられる時間を尊いものだと思ってしまうのも事実なのです。
決別の日は必ず来るでしょう。
それならば、許された時間ぐらい目一杯、青臭くいてほしい。
そんな勝手な願いついでに、続編が書かれないかとそわそわしてしまうのです。
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