【ネタバレ有り】青年 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森鴎外 1948年12月に新潮社から出版
青年の主要登場人物
小泉純一(こいずみじゅんいち)
主人公。Y県出身。作家を志す。
坂井れい子(さかいれいこ)
夫と死別した後に根岸で独り暮らし。
大石狷太郎(おおいしけんたろう)
小説家。
瀬戸速人(せとはやと)
純一の中学生の頃の同級生。美大生。
大村荘之助(おおむらしょうのすけ)
瀬戸の友人。医大生。
青年 の簡単なあらすじ
地方出身者の小泉純一は東京で小説家として成功するために、有名な作家や一流大学に通う学生と積極的に交流を深めています。有楽町の劇場で坂井れい子と知り合いになったのも、今は亡き彼女の夫が同郷のよしみでもあり有名な学者でもあったからです。間もなく純一は本来の目的を忘れるほど、彼女に心奪われていくのでした。
青年 の起承転結
【起】青年 のあらすじ①
10月にY県から東京へ出てきたばかりの小泉純一は、滞在していた芝の宿屋から根津の下宿に向かいました。
入り口にぶら下がっている入居者の名前を書いた木札を確認しながら、お手伝いさんに大石狷太郎を呼び出してもらいますが彼はまだ寝ているようです。
大石が起きてくるまで純一が周平をぶらぶらしていると、Y市の中学校で同じクラスだった瀬戸速人と再会します。
お互いの連絡先を確認した後に瀬戸は団子坂の方面へ、純一は大石のもとへと引き返しました。
小説家として成功している大石に近づくために、 純一は彼の同窓だという中学校の教師から書いてもらった紹介状を手渡しておきます。
次の日に宿屋を出た純一が見つけたのは、谷中の初音町にある貸家です。
年配の女性が食事の世話をしてくれるだけで、他に入居者も居ないために気兼ねする必要はありません。
さっそく遊びに来た瀬戸からは、大村荘之助という大学生を紹介されました。
医者になる勉強をしつつ文学も好きだという大村の、西片町の下宿を訪ねる約束をします。
【承】青年 のあらすじ②
11月27日に有楽座でイプセンの珍しい戯曲「ジョン・ガブリエル・ボルクマン」が上演されていたために、純一は見に行ってみることにました。
たまたま隣の席に座っていた女性から、 原作を読んでいた純一はあらすじの解説を頼まれます。
手渡された名刺には坂井れい子と書いてあって、彼女の夫・恆は純一と同じY県出身の学者です。
結婚したわずか1年足らずで恆は脊髄の病で亡くなりますが、れい子にはかなりの額の遺産を受け取っていたために生活には困りません。
田舎から出てきたばかりで家を借りているために本をほとんど持っていたい純一に、れい子は夫が生前に集めていた文学全集を見せてくれると言います。
れい子が恆から受け継いだ家は、根岸にある西洋の別荘のようなお屋敷です。
コルネイユからラシーヌに、ヴォルテールやユーゴーまで。
書棚には立派に製本された、貴重なコレクションがそろっていました。
それ以上に純一は昼過ぎからワインを飲んでいたれい子の、 瞳に宿る不思議な輝きが気になって仕方ありません。
【転】青年 のあらすじ③
芝居でただ一度会ってただ一度自宅に招かれただけの相手に、純一はすっかり夢中になってしまいました。
表向きは前回の訪問の時に借りっぱなしになっていたラシーヌの1巻を返却すると言って、12月も残り少なくなったある日に再びれい子の自宅まで足を運びます。
年末年始に旅行の計画を立てているという彼女の滞在先は、箱根の温泉旅館「福住」です。
再びここを訪れる口実のために、純一は本棚に持ってきたラシーヌを返して次の2巻を持ち出しました。
23日には瀬戸からの誘いを受けて、旧藩主の屋敷で行われている同県民の忘年会に出席します。
いろいろな階級や職業の人たちが集まっているために、 何かを書こうとしている純一の創作のヒントにはぴったりです。
30日になると瀬戸も大村も郷里に帰ったり他県に旅行に行ってしまうために、他に語り合える友達はいません。
大都会の年の暮れに独りぼっちの寂しさに襲われてしまった純一は、東京を立って箱根へ向かいました。
【結】青年 のあらすじ④
30日の夜に出発した純一は、31日に箱根湯本の柏屋という温泉宿に泊まりました。
福住へ行こうか、行くまいか。
純一は幾度となく自問自答を繰り返してしまい、料理を食べても温泉に入っても一向に気持ちが晴れることはありません。
夕食の前に気分転換をすることにした純一は、宿屋と土産物店が立ち並んでいる片側町を散歩します。
タバコ箱や小物入れなどかさばらない物を適当に見繕ってもらっていた純一が聞いたのは、懐かしい笑い声です。
振り返ると浴衣姿のれい子が、40歳前後の屈曲な男性と歩いていました。
四条派の有名な画家だという岡村と、れい子は夫婦のように連れ立って人混みに消えていきます。
純一の胸の内に湧いてきたのは、しょせんはれい子も生身の肉体を持った人間であるという幻滅の感情です。
翌日には箱根を去る、れい子から借りていたラシーヌを郵送する、これを機に彼女とのつながりも絶つ。
こう思うと純一は、今まで書くことができなかった小説が書けるような気がしてくるのでした。
青年 を読んだ読書感想
田舎から上京したばかりで地方の訛りがきついはずの主人公・小泉純一が、小説を読みながら学習した標準語を使いこなす様子が印象深かったです。
小説家として身を立てる並々ならぬ決意とともに、必要以上に周りの人たちと同調する性格も垣間見ることができました。
そんな純一が本来の目的を忘れていくほど虜になってしまう、坂井れい子の自由気ままな生きざまと不思議な輝きを宿した瞳が魅力的です。
お金と時間が有り余りながらも、決して満たされることのない心の中の虚無感も伝わってきます。
年末の箱根で純一が彼女の思わぬ一面を目撃するシーンも忘れがたいです。
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