高瀬舟(森鴎外)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

高瀬舟(森鴎外)

【ネタバレ有り】高瀬舟 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:森鴎外 1968年5月に新潮社から出版

高瀬舟の主要登場人物

喜助
主人公。弟殺しの罪で遠島の刑に処せられる。

喜助の弟。
羽田庄兵衛
京の町奉行付きの同心。喜助を護送する役目。

高瀬舟 の簡単なあらすじ

弟殺しで遠島の刑を受けた罪人・喜助を船で護送する役目を担った同心・羽田庄兵衛は、喜助の様子の常の罪人らしからぬ明るい様子を不思議に思いました。興味を持って話しかけた庄兵衛に喜助が物語ったその話の内容に、庄兵衛は納得すると共に感心の念さえ覚えてしまいます。さらにその犯した罪について話した喜助の身の上は、庄兵衛の心に捉えどころのない、そしてやり場のない思いと疑問を生じさせるものだったのです。

高瀬舟 の起承転結

【起】高瀬舟 のあらすじ①

高瀬舟

江戸時代、京の都の物資運搬は街中に流れる運河・高瀬川を通う高瀬舟が担っていました。

そして遠島の刑に処せられた罪人を、大阪へ人目のない夜に護送するのにも高瀬舟は使われました。

遠島の罪人は物盗りの為に人を殺めたという様な凶悪な罪人ばかりではなく、例えば心中で死に切れずに生き残ってしまった一方の人間のような、同情の気持ちを禁じ得ない場合の咎人も多く含まれていました。

罪人を運ぶ高瀬舟には、お上の情けでその親類縁者の一人が大阪まで同乗を許されます。

護送の任にあたる京町奉行配下の同心は、彼らが夜通し話明かす語りからその悲惨な身上を細かく知る事もありますが、役目の当たった同心が心根の優しい人だった場合、悲し過ぎる彼らの境遇に涙を堪えかねる事も時にあり、立場上それを表に出さず御役目を果たさねばならない辛さは格別でした。

その為に高瀬舟による護送の御役目は、そんな同心仲間の間では不快な仕事として敬遠されていました。

【承】高瀬舟 のあらすじ②

明るい罪人

江戸の世の寛政の京。

桜の散る程の頃に、京町奉行同心・羽田庄兵衛は一人の咎人を護送する御役目につきます。

護送する男の名は喜助。

罪状は弟殺しとのみ聞いていましたが、その痩せた色白の男の神妙で大人しい、役人である庄兵衛を敬う態度に始めから逆に物珍しさを感じていました。

男の物腰には罪人にありがちな心にもない見せかけだけの従順や媚びではない様子が窺がえ、その事を奇異に思ったのです。

船上でも庄兵衛は、役目通りの見張りの目だけではない興味から、喜助の様子を窺っていました。

初夏も近い穏やかな高瀬川の船上で雲に見え隠れする月を見上げたりする喜助の表には、咎人とは思えぬ晴れやかさが見受けられ、自分という役人の目が無ければ、鼻歌さえ出るかと思えるほどの明るさが感じられました。

数多くの罪人を送り出した経験を持つ庄兵衛でもかつて見た事も無いこの咎人の表情に、庄兵衛の胸中には測りかねる不思議が繰り返し湧き上がってきます。

【転】高瀬舟 のあらすじ③

無欲な咎人

湧き出る興味に抗えずに、庄兵衛は御役目を多少逸脱するかもしれないのを覚悟で、島に流される男がどうしてその様に楽しげにさえ見える態度でいられるのかを喜助に問いかけました。

喜助はにっこり微笑んで答えます。

今まで自分は散々に苦しい目をしながら生きて来て、その苦しさを思うと辛いと言われる島暮らしも苦にはならず、しかも自分の懐にはお上の慈悲で下された二百文というお金が入っており、生まれてこの方この様な沢山のお金を持ったことがないと言います。

借金の繰り返しで暮らしてきた自分が、働きもせずに牢でまともな食事を頂いた有難さ。

その上に娑婆の自分では得様のないこのお金を島暮らしの元手にしたいと、喜助は語るのです。

下っ端役人として決して豊かではない自らの貧しい生活と比べて、庄兵衛は喜助のこれまでの厳しかった身上に思いを馳せます。

あの劣悪な牢屋の食事でさえ、文字通り食うや食わずの喜助にとっては天から恵まれた有難い食だったのです。

さらなる下し金を合わせて人生最高の幸せを感じている無欲なこの咎人から、庄兵衛は毫光が射すのを見ました。

【結】高瀬舟 のあらすじ④

弟殺し

この様な男が弟を殺したのかという思いと疑問が、庄兵衛の口から「喜助さん」という呼び掛けを発させていました。

お上の役人が罪人に敬称を使うべきではないのです。

思わずの事にバツの悪さを感じながらも、庄兵衛は殺しの成り行きを問わずにはいられませんでした。

子供の頃に二親が病死した喜助兄弟は、近所の家の小間使いや施しなどでようように成長し、職を得た後でも兄弟二人力を合わせて生きてきました。

しかし弟は病を得てしまい、貧しい中で喜助は懸命に働いて弟を養いました。

そんなある日、仕事を終えて住まいの掘立小屋に戻った喜助は、喉に剃刀が食い込んで血だらけになった弟を見ます。

弟は治りそうもない病身を憂い、兄にこれ以上の苦労を掛けるに忍びなく自ら喉笛を切ったのです。

しかし死にきれなず、弟は兄に喉の剃刀を抜いて死なせてくれと頼みます。

驚いた喜助は医者を呼ぼうとしますが、そんな金か無い事は弟も分かっていて、このまま逝く事を必至の眼差しで訴えます。

迷う喜助を睨むその眼には切望の余り憎々し気な表情さえ浮かび、それに押されて喜助が抜いて遣る事を承諾した途端に晴れやかで嬉しそうな眼に変わりました。

覚悟を決めた喜助が剃刀を引き抜きました。

その刹那、近所の老婆が小屋に入って来たのです。

死がほぼ決まっている弟の悩みや苦しみを除く為に、弟の心底願う死を与える。

確かに殺しには違いないが、これが重罪に値する殺しなのだろうか。

そういう疑問で庄兵衛の心は満ちました。

そしてそれは庄兵衛には解く事のできない疑問でした。

御奉行という偉い方の仕置きをその答えにしようと考える庄兵衛でしたが、それでも腑に落ちない心が消える事はありませんでした。

高瀬舟 を読んだ読書感想

大正5年に書かれたこの小説は、平成の今、日本ばかりでなく世界的な課題となっている、安楽死の問題を題材にしたものです。

100年以上も前の人の意識の中で、森鴎外がこの題材を疑問を持って採り上げた事に驚きを禁じ得ません。

人の命の尊さは永遠不変であると今の私達は思い込んでいますが、例えば太平王戦争の頃のそれが現代の日本人には気違い沙汰としか思えないものであった様に、人命尊重の意識が時代によってその軽重が変化しているのは事実なのです。

ましてや罪人に対する気持ちは現代でも国や地域によって千差万別です。

著名な小説家であると同時に帝国陸軍の軍医を務めていた鴎外が持っていた、罪人を含めた人の命に対する考え方をこの小説は教えてくれます。

安楽死に関する現代の論争を耳にする昨今、その先取性には驚くばかりです。

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