【ネタバレ有り】木洩れ日に泳ぐ魚 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:恩田陸 2007年7月に文藝春秋から出版
木洩れ日に泳ぐ魚の主要登場人物
高橋千浩(たかはしちひろ)
主人公。 中学、高校と硬式テニスに打ち込む。大学ではテニスサークルに所属。
藤本千明(ふじもとちあき)
千浩の双子のきょうだい。 3歳で養子に出される。
高橋美雪(たかはしみゆき)
千浩と千明の従姉妹。 享年3歳。
川村実沙子(かわむらみさこ)
千浩の婚約者。
玉木敦子(たまきあつこ)
千明の友人。 商社務め。
木洩れ日に泳ぐ魚 の簡単なあらすじ
高橋千浩と藤本千明は大学のサークルでお互いに魅かれ合っていきますが、 間もなくふたりは幼い頃に生きわかれになったきょうだいだと判明します。都内のアパートで始めたルームシェアが、終わりを告げたのは千浩の婚約が決まった時です。引っ越しの準備を済ませたふたりは、最後の夜に自分たちに隠された秘密を知ることになるのでした。
木洩れ日に泳ぐ魚 の起承転結
【起】木洩れ日に泳ぐ魚 のあらすじ①
高橋千浩と高橋千明は3歳まで母親と一緒に暮らしていましたが、父親の顔を一度も見たことがありません。
父は根っからの自由人で1カ所に留まることを考えない性格で、妊娠した母を置いてどこかへ行ってしまいそのまま行方知れずです。
母はふたりを産んですぐに体を壊して実家も経済的に苦しかったために、 泣く泣く千明を手放します。
養子として他所に貰われていった彼女の名前が「藤本千明」に変わっていたために、大学のテニスサークルで再会した時にはお互いに兄弟だとは気がつきませんでした。
男女の双子だから二卵性になるために、高校生の頃の成績や趣味から嗜好までふたりはそっくりです。
「これまでずっと独りっ子だと思っていたので、知らなかったきょうだいとの時間を取り戻す」という理由で、双方の両親を説得して千浩と千明は東京でふたり暮らしを始めます。
お互いに恋愛感情を抱いていたふたりでしたが、きょうだいであるが故に一線を越えることは許されません。
【承】木洩れ日に泳ぐ魚 のあらすじ②
ある時に千浩と千明は電車でA県まで旅行に行って、最初の晩に泊まったのは海の中に湧き出ている有名な温泉地です。
2日目には地方自治体が支援しているガイド協会へ申し込みをして、世界遺産のS山地を案内してもらいました。
野外ガイドは50代のがっしりとした体つきの男性で、初日のトレッキングが終わった後に宿のロビーで簡単な反省会と次の日の打ち合わせをします。
ふたりの心の奥底に涌いていた疑惑が確信へと変わったのは、彼が東京の出身でS山地には若い頃から通っていたというプライベートな話を聞いた時です。
彼こそが千浩と千明の父親で、幼い頃にふたりを置き去りにして出奔した張本人でした。
現在はこの地で知り合った若い女性と結婚していて、彼女との間に授かった息子は2歳になっています。
その日の夜遅くに帰宅した彼も東京からやって来たふたりの若い男女と自分との関係を疑い始めましたが、妻と幼い子供を抱えているために名乗るつもりはありません。
【転】木洩れ日に泳ぐ魚 のあらすじ③
彼の妻も思いつめた夫を見て、東京からやって来たふたりのお客さんがかつての妻が産んだ子供だという結論に達しました。
慰謝料を要求されて自分たちの生活が苦しくなるかもしれない、成長した子供たちを見て夫が東京に戻ってしまうかもしれない。
妻は猜疑心でいっぱいになり、居ても立っても居られません。
翌朝に出勤した夫を追いかけて、妻は自分の息子を連れて下の登山口に先回りをします。
不幸な事故が発生したのは、妻が携帯電話から「東京から来た客に会わせて欲しい」とお願いをした時です。
元妻が産んだふたりの子供と、現在の妻が鉢合わせすることだけは避けなければなりません。
見晴らしのよい休憩所の崖から、 下にいる妻に向かって懸命にサインを送ろうとしました。
必要以上に身を乗り出した彼は、足を滑らせて墜落してしまいます。
地元の消防団が駆けつけた時には彼は既に息を引き取った後で、 千浩と千明も通りすがりの旅行者として警察に連絡先を聞かれただけです。
【結】木洩れ日に泳ぐ魚 のあらすじ④
千浩は大学の後輩・川村実沙子と婚約をして、千明は友人の玉木敦子のマンションに厄介になることになりました。
引っ越しの準備を済ませたふたりは、アパートで最後の一夜を過ごします。
思い出話の最中に千明の脳裏に浮かんだのは、 母の妹の娘・高橋美雪です。
美雪は3歳の時に工事現場で死んだことになっていましたが、本当に亡くなったのは高橋千明の方でした。
事故が起こる前には千明を養女に出すことが決まっていて、相手からも金銭的な見返りを受け取っています。
母が考えたのは、妹の娘・美雪を千明として差し出すことです。
こうして高橋美雪は高橋千明になり、もらわれていった先で藤本千明になりました。
千浩と千浩はきょうだいではなく、いとこだと分かります。
お互いに一線をこえるまいと持ちこたえてきた、これまでの千浩と千明の努力は単なる茶番に過ぎません。
空っぽになったアパートの中には、S山地で撮影された千浩と彼の父と千明の3人の写真が残されているのでした。
木洩れ日に泳ぐ魚 を読んだ読書感想
血のつながったふたりの年若い男女が、ひとつ屋根の下で送ることになる共同生活にはドキドキさせられました。
小さな小川と緑豊かな児童公園に挟まれた、2DKのささやかなアパートの佇まいも心に残ります。
きょうだい以上の愛情を感じながらも、決して結ばれることが許さない高橋千浩と藤本千明の関係が切ないです。
世界遺産のS山地へと旅行に出かけたふたりが、父親の死の瞬間を目撃してしまうドラマチックな展開にも驚かされます。
千浩と千明がもう少し早く自分たちの本当の関係に気がついていたならば、幸せなカップルとして結ばれていたのかもしれません。
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