【ネタバレ有り】雁 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森鴎外 2008年2月に新潮社から出版
雁の主要登場人物
僕(ぼく)
物語の語り手。 医科大学の学生。
岡田(おかだ)
僕の下宿先の隣人。大学のボート部員。
末造(すえぞう)
高利貸し。
お玉(おたま)
末造の愛人。飴細工屋の娘。
石原(いしはら)
僕の友人。 大学では柔道部に所属。
雁 の簡単なあらすじ
明治時代に東大に通っていた「僕」は、大学の真向かいにある下宿・上条で岡田という青年と親しくしています。毎日の散歩の途中で岡田が目撃したのは、 無縁坂の一軒家の前に立つ不思議な女性・お玉の姿です。一目みた時から岡田に心を奪われてしまったお玉は、今の生活を捨て去ってでも彼と一緒になることを夢想していくのでした。
雁 の起承転結
【起】雁 のあらすじ①
1880年、僕は東京大学の鉄門の向かいにあった上条という下宿屋に間借りしていました。
隣の部屋には1学年年下で、ハンサムでボート選手として活躍していた岡田という名前の学生が住んでいます。
スポーツの才能ばかりではなく文学趣味もあった岡田は、 散歩の途中で上野広小路や仲町の古本屋に立ち寄るが習慣になっていて僕とも本の貸し借りをする仲です。
9月頃いつもの散歩に出かけた岡田は、鉄門から不忍池に続く無縁坂で銭湯からの帰りらしき女性と出会います。
つい最近引っ越してきた様子の彼女と岡田は、 それ以降はすれ違う度に言葉を交わすようになりました。
彼女の名前はお玉で、以前は秋葉原で飴細工の屋台を出している父親とふたりだけで暮らしていたそうです。
お玉の結婚がうまくいかなかったことや父が商売を失敗したこともあり、今現在ではある男性からの経済的な援助を受けて愛人として囲われていました。
お玉のパトロンは、かつて東大医学部の寄宿舎に出入りしていた人物です。
【承】雁 のあらすじ②
医学部の寄宿舎がまだ下谷にあった頃、末造は寄宿生たちの使い走りをしていたのが末造です。
最初のうちは小銭を受け取って焼き芋や空豆を買ってくるだけだった末造は、 手持ちのない学生のために商品の代金の立替を思いつきました。
ついには正式な証文を書かせて、学生を相手に本格的に利子を取り立てる商売を始めます。
医学部が本郷に移る頃には末造は池の端へ自分の家を構えていて、 以前のような単なる使い走りではありません。
世間並みに高利貸しとして成功しながらも、プライベートでは末造は口やかましい妻にうんざりしてばかりです。
そんな時に末造は大学へ出勤する際に、三味線の稽古をしているお玉の姿を目撃しました。
父親が秋葉原でぼそぼそと飴細工の出店をやっていることも、彼女の母親が既にこの世にいないことも直ちに調べ上げます。
愛人という身分に嫌悪感を覚えながらも、年老いた父が心配なお玉は泣く泣く末造の申し出を受けて無縁坂へ引っ越した次第です。
【転】雁 のあらすじ③
ある時に岡田が無縁坂を通りかかると、お玉の家の窓に吊るしてあった鳥かごに1匹の大きな蛇が首を突っ込んでいました。
お手伝いさんから包丁を借りた岡田は蛇を真っ二つにして、 かごの中に飼っていた小鳥を救出します。
この「蛇退治」が、岡田とお玉が急速に親しくなったきっかけです。
お玉は鳥を助けてもらったのを縁に、どうにかして岡田に近寄りたいと思っていました。
より一層疑り深くなった妻の目を盗んでコッソリと通ってくる末造に対しても、いつしかお玉は煩わしさや疎ましい気持ちが沸いてしまいます。
次の日は仕事の都合で末造が1日がかりで千葉県へ行っていて、お手伝いさんにも暇を出していおいたために明日の朝までは誰の邪魔も入ることはありません。
お玉は岡田が家の前を通りかかった際に、彼に勇気を出して声をかけて家の中へ招き入れて自らの思いを伝えるつもりです。
そんなお玉の熱い願いは、鯖の味噌煮と雁によって無残にも打ち砕かれてしまいます。
【結】雁 のあらすじ④
その日の上条の賄いは鯖の味噌煮でしたが僕は苦手で食べることができないために、岡田を誘って外食をすることにしました。
不忍池にかかる橋から水面を行き交う雁に石を投げているのは、同じ大学に通う柔道部の石原です。
雁を石で撃ち落とした石原は下宿先で捌いてごちそうしてくれるというために、 僕と岡田は彼の後に続きました。
雁は岡田が外套の下に隠して、残りのふたりが左右を挟む形で無縁坂を通り過ぎます。
家の前で待っていたお玉は、外套の下が異様に膨れ上がってふたりの男に挟まれた岡田に話かけることができませんでした。
留学が決まり、翌年の1881年には火事によって上条が取壊しになってしまいます。
僕は岡田が海外に行った後にお玉と知り合いになりましたが、彼女との仲はそれ以上は進展することはありません。
もしも上条の献立が鯖の味噌煮でなければ、もしも石原の投げた石が雁に当たらなければ。 30年以上たった後でも、 僕はあの日の運命のいたずらをたまに思い出すのでした。
雁 を読んだ読書感想
ストーリーの舞台に設定されている、本郷から上野にかけての街並みや路地裏がノスタルジーに満ちあふれていました。
夕暮れ時に竹のかごを提げて銭湯から帰ってきた時の、お玉の気だるげな目線や後ろ姿には何とも言えない色気があります。
当て所なく辺りを歩き回っていた岡田と、無縁坂で偶然にも鉢合わせするシーンも印象深かったです。
強欲な金貸しの末造に囲われた女性と、モラトリアムな大学生とのつかの間の交流が心に残ります。
お互いへの思いを打ち明ける事がないままで、それぞれの道のりを歩んでいくクライマックスも切ないです。
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