【ネタバレ有り】MOMENT のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:本多孝好 2002年8月に集英社から出版
MOMENTの主要登場人物
僕(ぼく)
大学の授業料を払う為に病院で清掃員としてアルバイトしている主人公。末期患者の最後の願いを叶えている。
今井美子(いまい よしこ)
現在十四歳。幼いころに心臓に異常が見つかり、長期の内科的治療が続けられたが完治できず、治癒の可能性は極めて低い状態にある。
牧野武(まきの たけし)
美子が探している人物。美子が修学旅行中に出会い、京都の三千院を車で案内してもらう。現在は大学を中退しており、エアコン取付を条件に僕の頼みを聞き入れる。
サカムラエミ(さかむら えみ)
美子と仲が良かった同級生。牧野に嘘をつかれたことにショックを受け自殺する。
MOMENT の簡単なあらすじ
僕が大学の授業料を稼ぐために清掃員としてアルバイトする病院にはある噂がありました。死を真近にした患者の願い事を一つ叶えてくれるという黒衣の必殺仕事人伝説。その正体は、鼠色の作業着を着た清掃夫の僕のことです。ふとしたきっかけでこの伝説の肩代わりをすることになった僕のもとへは患者たちから最後の望みが寄せられるようになり、僕はできる限りを尽くして望みを叶えようと奔走します。
MOMENT の起承転結
【起】MOMENT のあらすじ①
僕が大学の授業料を稼ぐために清掃員としてアルバイトする病院にはある噂がありました。
死を真近にした患者の願い事を一つ叶えてくれるという黒衣の必殺仕事人伝説。
その正体は、鼠色の作業着を着た清掃夫の僕のことです。
もとは深夜の病室に忽然と現れる黒衣の男が始まりでしたが、ふとしたきっかけでこの伝説の肩代わりをすることになり、その噂は黒衣の男から鼠色の作業着を着た清掃夫に変わっていきました。
望みを叶えるといってもスーパーマンではないので、出来ることと出来ないことがあります。
最善を尽くし、僕は末期患者たちの最後の望みに寄り添っていました。
今回の依頼は十四歳の娘をもつ母親からでした。
娘が必殺仕事人の噂を知り、冗談めかしに話してきたと言う母の目には涙が浮かんでいました。
幼いときに心臓に異常が見つかり、長期治療しても完治できず、いつ死ぬかわからない状態で生きてきた娘の期待がそこにはあるのだと泣きながら懇願され、僕は娘・美子ちゃんの望みを叶えるべく動きだします。
【承】MOMENT のあらすじ②
依頼人の今井美子ちゃんは心臓病を患っており、手術しても治癒できる可能性は極めて低い状態にありました。
しかし、当人はそんな病魔に侵されているとは思えないくらい元気で礼儀正しく、愛嬌のある顔をしていました。
そんな美子ちゃんは清掃のおばちゃん達からも可愛がられ、もちろん僕も好感を持っていました。
美子ちゃんの願いは人探しでした。
その人物とは、京都に修学旅行に行った際お世話になった人だと言います。
たまたま同じ旅館に泊まっており、自由行動の時にグループで三千院まで向かおうとしていた美子ちゃん達を車で連れて行ってくれたそうです。
後日、教えてもらった住所にお礼の手紙と一緒に映った写真を送ったところ、住所不明で返ってきてしまい、連絡が取れないというのです。
わかっていることは、相手が牧野武という名の大学生ということだけでした。
美子ちゃんの淡い恋心を察知した僕は少ない手がかりを頼りに捜索を開始します。
美子ちゃんに残された時間はあまりに頼りなく、恋もできないまま人生を終えてしまう可能性すらあるのです。
【転】MOMENT のあらすじ③
手始めに美子ちゃんに教えてもらった住所を訪ねてみようとした僕ですが、いきなり面喰います。
その住所は存在していなかったのです。
引っ越しをして転居先不明になったのではなく、はなから架空の住所を美子ちゃんに教えていたことが判明します。
交番で肩を落とす僕に警官はアドバイスをします。
嘘というのは咄嗟につきにくいもので、この住所はまったくの出鱈目ではなく、番地や丁目を入れ替えただけではないかと。
なるほど、と思い、今度は美子ちゃんが修学旅行で泊まった旅館に牧野武と装い電話をかけます。
本を忘れたので、見つかったら送り返して欲しいと言い、住所を聞き出しました。
旅館の女性が言った住所と美子ちゃんが教えられた住所はやはり違っていました。
本当の住所を聞き出した僕は、牧野武の自宅を直撃します。
玄関先で本人と対面した僕ですが、牧野武は無愛想で口の悪い男でした。
美子ちゃんの事情を話しても鬱陶しいと言って聞き入れません。
そんな牧野武に僕はエアコン取付を条件に美子ちゃんとの対面を依頼します。
話を聞くと、大学は三か月前に辞め、怠惰だな生活を送っているようでした。
こんな男のどこが良かったのか僕は不思議に思います。
【結】MOMENT のあらすじ④
牧野武は感じの悪い男でした。
美子ちゃんと対面したら、思い出話に付き合ってあげて欲しいという僕の頼みを、何も覚えていないと言って一蹴します。
何でもいいから思い出せと言った僕の言葉に、牧野武はしばらく考えてから、一つ思い出したと下品な笑みを浮かべながら言い放つのです。
「キスをしようとした時に歯に海苔がついていて萎えた」と。
美子ちゃんとの対面場所は、入院している病院でした。
当日、牧野武は花束を抱え登場しますが、僕と美子ちゃんを前に不審な顔をします。
そして美子ちゃんを知らないと言うのです。
牧野武の言葉に慌てる僕ですが、美子ちゃんは冷静でした。
何故なら、美子ちゃんは友達のサカムラエミちゃんの代わりに牧野武を探していたからです。
実際に牧野武がキスした相手はサカムラエミちゃんで、牧野武に恋をして修学旅行から帰ってきてからもずっと探していたのもエミちゃんでした。
嘘の住所を教えられたと知ったエミちゃんはショックのあまり自殺してしまいます。
美子ちゃんは亡くなったエミちゃんに代わりに牧野武にプレゼントを渡そうとしていたのです。
牧野武は予想外の展開に暴言を吐き捨て去って行きました。
復讐を果たした美子ちゃんは初めて胸のうちを吐露します。
本当は死ぬのが怖いこと、恋もせず死にたくないと泣く美子ちゃんは僕に一度でいいからキスをしてみたいと懇願します。
望みを叶えるのは一つまでなんだけど……と渋りつつ僕は美子ちゃんの二つ目の願いを叶えます。
MOMENT を読んだ読書感想
今回ご紹介したお話は『MOMENT』に収録されている『WISH』というお話です。
十四歳の美子ちゃんの甘酸っぱい初恋の話かと思いきや、友達の乙女心を弄んだ男に対する復讐というホラーな展開にぞわっときます。
主人公の僕が死が間近に迫った人の最後の望みを叶えるというのは、感動ものになりそうな予感がしますが、寄せられる望みはどれもこれも穏やかでなく、最期まで人間は業の深い生き物なのかと思います。
今回の話に限っていえば、牧野武がとことん嫌な人物として描かれているので美子ちゃんにこてんぱんにされるラストは気持ちがいいですが、個人情報流出を危惧していた用心深い人という設定だったら(現代ではその方が現実にありそうです)、一方的に想いを寄せられ、自分が原因で自殺されていたという事実を知った日には卒倒しちゃいますね。
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