【ネタバレ有り】とり残されて のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:宮部みゆき 1992年9月に文藝春秋から出版
とり残されての主要登場人物
わたし(わたし)
物語の語り手。恋人との死別の後に小学校の養護教諭になる。
今崎明子(いまざきあきこ)
小学校教師。旧姓伊藤明子。
今崎行雄(いまざきゆきお)
小学校の教頭先生。職場の同僚だった明子と結婚する。
相川浩一(あいかわこういち)
少年課の刑事。明子の元教え子。
とり残されて の簡単なあらすじ
恋人との挙式を控えて幸せいっぱいだった「わたし」の人生は、ある日突然に発生した交通事故によって一変します。愛する人を失った哀しみから復讐に憑りつかれていくわたしが目撃したのは、小学校を彷徨う不思議な少年です。少年に誘われて殺人事件の第一発見者となってしまったわたしに、次から次へと不可解な出来事が降りかかるのでした。
とり残されて の起承転結
【起】とり残されて のあらすじ①
わたしの婚約者は結婚式まであと1ヵ月という時に、一方通行の標識を見落として走ってきたスピード違反の自動車にぶつけられて亡くなりました。
車を運転していたのは免許を取ってひと月足らずの未成年の女性で、大した罪には問われません。
次第に彼女への殺意を募らせていくわたしは、ある時に勤務先の小学校で不思議な男の子の姿を目撃します。
大きな襟の白いシャツを着ていて、胸元に付けているのは古ぼけた校章のマークの入った名札です。
わたしが名前を読もうと近寄ると男の子は消え去り、「せんせい、あそぼ。
プールへおいでよ」と頭の中では彼の声が聞こえてきました。
仕事を終えて帰宅した後も、眠りについた夢の中でも男の子の声は鳴り止みません。
翌朝にいつもより1時間以上早く出勤したわたしが向かった先は、通用門を抜けて右手にある屋外プールです。
プールサイドの向こう側には昨日と同じ出で立ちの男の子が一瞬だけ見えて、水面には見知らぬ女性の遺体が浮いていました。
【承】とり残されて のあらすじ②
学校は急遽閉鎖となり、わたしは警視庁の刑事から事情を訊かれることになりました。
名前は今崎明子で年齢は43歳に職業は小学校教師と、被害者の身元はその日の昼頃には判明します。
更にはハサミで刺殺されたことも明らかになり校内の捜索が続けられましたが、凶器は見つかりません。
夜になってようやく帰宅したわたしを電話で呼び出したのは、地元警察の少年課に所属する刑事・相川浩一です。
わたしのアパートから少し離れた終夜営業のレストランで相川が打ち明けたのは、凡そ信じ難い話でした。
20年前にわたしの小学校に通っていた相川の担任が伊藤明子、問題児だった相川をひと晩以上学校の物置小屋に閉じ込めたのが明子と恋人の今崎行雄、ふたりへの憎悪を抱いて刑事となった相川が昨晩夢の中で見たのがわたし。
次の日は相川が物置に閉じ込められた日から数えてちょうど20年目です。
明子の夫・今崎行雄がまだ残っているために、第二の殺人が起こる可能性を仄めかして相川は立ち去ります。
【転】とり残されて のあらすじ③
今崎明子の殺害に使われた凶器を金属探知機で探していた捜査班は、裏庭から校舎の北側に埋められていた不発弾を発見しました。
小学校には警察に代わって自衛隊の特別不発弾処理チームが乗り込んできたために、わたしたち教職員は臨時の避難所を回って生徒の安全を確かめるしかありません。
夜になって投光器の光の中にくっきりと浮かび上がった学校を見ていたわたしは、相川が校舎内に忍び込みのを確かめた後に追いかけていきます。
下駄箱のあるホールで相川と対峙しているのは、妻を殺されて茫然自失といった表情の今井行雄です。
次の瞬間には投光器の明かりが全て消えて、爆発音と叫び声を聞いたわたしはその場から吹き飛ばされてしまいました。
気が付いた時には辺り一面は瓦礫の山となっていて、今崎行雄の死骸とコンクリートの下敷きになって瀕死状態の相川がいるだけです。
意外なほど安らかな顔をしている相川は、「あなたがあいつを呼んだんですよ」と言い残して力尽きます。
【結】とり残されて のあらすじ④
駆け付けた自衛隊員によって保護されたわたしは、死んだ相川の頭を抱え込んで「帰ってきてよ」と叫んでいたらしいです。
わたしが目撃した一連の出来事は警察関係者にも職場にも信じてもらえずに、学校を辞めて医師の診察を受けることになりました。
お陰で相川が最期に言い残した言葉の意味を、考える時間だけは十分にあります。
9歳の時に相川が味わった恐怖と憎しみは、余りにも強かったために20年間小学校の中にとり残されていたのでしょう。
そこへ婚約者を轢き殺されて殺意を抱いていたわたしがやって来たために、ふたりの負のエネルギーが共振したことが事件の顛末です。
相川は自らの思いを遂げてこの世を去っていきましたが、わたしは未だに復讐を果たしていません。
婚約者が事故死した現場には、とり残されたままのわたしが待っています。
誰かの夢の中に現れたわたしがその人物を事件現場に連れて来るその日まで、わたしは決して復讐を諦めることはないのでした。
とり残されて を読んだ読書感想
ストーリー前半では犯人探しのミステリーと思いきや、後半以降の思わぬホラーテイストの展開に騙されてしまいました。
ある日突然に愛する人を奪われて、加害者への殺意へと憑りつかれていくヒロインの姿が痛切です。
小学校の校舎の中を徘徊する、不思議な男の子の意外な正体には驚かされます。
人間の肉体があっけなく滅びた後も、この世界に焼き付いた強い憎しみの感情まではそう簡単に消えないことを痛感しました。
ひとつの復讐が果たされたクライマックスの後に、更なる悲劇が始まっていく予感を残しつつ幕を閉じる物語が忘れ難いです。
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