著者:小川糸 2010-12 集英社出版
つるかめ助産院の簡単なあらすじ
突然の夫の失踪。主人公マリアは、夫の行方の手がかりを探るべく二人の思い出の島へと夫を探しに行くことを決める。島を散策している途中、一風変わった雰囲気の女性から声を掛けられた。彼女は島で助産院を営んでおり、非常におおらかな性格の持ち主の女性で、周りの人間からは「つるかめ先生」と呼ばれていた。つるかめ先生がマリアに声をかけてみたのは、マリアが妊娠をしているにも拘わらず、不幸にどっぷりつかっており心配になったからだという。島から本土へと向かう船が悪天候により欠航したというのもあり、マリアは彼女の営む助産院に身を置き、やがてはそこで住み込みで働くまでに至る。助産院で働く仲間たちは、おのおの複雑な境遇にはあったものの、それを克服すべく生きており、マリアは彼らに触発されて、一人で子供を育てることになったとしても、強い心をもって生きていくことを決意するようになる。そしてマリアの出産のとき、夫が出産の場面にあらわれた。話を聞くとマリアが島で築いてきた縁によって、マリアが島で出産することを知りやってきたようだった。マリアは驚きつつも、夫に依存するぎることなく支え合って生きていくことを誓うのであった。
【起】つるかめ助産院のあらすじ①つるかめ助産院
突然の失踪した夫の行方を追うべく、単身で二人の思い出の島に向かったマリア。しかし、そこで夫を見つけることはなく、代わりに少し風変りな女性に声を掛けられる。彼女は島で助産院を営む女性で「つるかめ先生」と呼ばれていた。なぜ赤ん坊がお腹いるのに、不幸のどん底にいるような顔をしているのか。そう尋ねられて、マリアは自分の夫が失踪したことを告白した。マリアの心境を察し、つるかめ先生は好きなだけ助産院にいることを勧めるのであった。もともとは、夫の不在を確かめて本土に戻るつもりであったマリアだが、つるかめ先生や助産院で働く仲間と交流を深めていく中で、強く島に残りたいと思うようになる。そして、やがてつるかめ先生のもとで働くこととなったのであった。
【承】つるかめ助産院のあらすじ②つるかめ助産院の仲間たち
つるかめ助産院で働く仲間の背景はざまざまであった。ある女性は母親を出産時に無くしたベトナム人であり、助産院の設備が不完全なベトナムの現状をなんとか改善したいとの志を持っていた。そして、ある男性は世界一周旅行の途中であり、ある老人は誰よりも海に関して熟知していた。ある時、老人が海でおぼれ死んでしまう。危険な状況であるとわかりきっていたにもかかわらず、たこを獲ろうとしていたのだ。マリアはすぐに、自分のためにたこを獲ろうとしたがために、老人が命を落としたことを察し嘆き悲しむ。それに対して、つるかめ先生は人が死ぬのはそういう巡りあわせなのだから仕方がない、と涙ながらにマリアに告げるのであった。
【転】つるかめ助産院のあらすじ③つるかめ助産院の妊婦さん
つるかめ助産院の妊婦さんの中に、艶子さんという女性がいた。艶子さんは、出産まで至ったものの生まれてすぐに赤ん坊が死んでしまったというつらい経験をしていた。その辛さに耐えきれずに、艶子さんは想像出産というものをあきずに繰り返していた。妊娠をしているマリアに関して敵意をむき出しにするが、マリアの胎動を感じることによって、彼女は想像出産しなくなりったのである。生まれてくる直前に自分の子供が死んでしまったという事実のみに縛られるのではなく、自分のお腹の中で生きて生まれてこようとしてきてくれたことに対してありがたい、という気持ちを持つことにより、新たに一歩踏み出す気持ちが芽生えたのである。
【結】つるかめ助産院のあらすじ④マリアの出産
やがてマリアも、つるかめ助産院にて出産を迎えることになる。出産の場面を何度か見て気はしたが、実際に自分が産むとなるとやはり違った。何時間もの間激痛に耐え、ようやく赤ん坊を出産したときは意識も絶え絶えの状態のマリア。その朦朧とした意識の中で、失踪した夫を見る。どうやら、亡くなった老人が夢に出てきて、島に来い、とのお告げを聞いたらしい。マリアは老人の思いに胸を打たれる。そして、夫と共に協力して生きていくことを覚悟していくのであった。
つるかめ助産院を読んだ読書感想
社会に出ることなく専業主婦となったマリアは、夫の失踪後、つるかめ助産院の仲間たちと交流していく中で、自分の人生について振り返りました。その中で必ずといっていいほど、こうも思っていたことでしょう。なぜ夫が急に失踪してしまったのか。私が頼りなかったから、夫は全部背負い込んでしまって、急に姿を消してしまったのだ。そこで、マリアは罪悪感を最初は強く感じていたものの、徐々に夫を支えて生きていけるくらい強くなろう、と前向きな気持ちを抱くようになってきます。最初のうちは、私自身、マリアの気持ちもよくわかるけど少し視野が狭い女性だなという風にも感じていました。しかし、マリア自身が出産した後は、彼女が精神的にとても成長していることを感じでいました。物語の序盤では、夫に失踪されて、夫の影をずっと探しさまよっているような女性でしたが、やがては夫がいなくても自分は素晴らしい人運に恵まれているのだから、自分にも一人で生きていく力がある、という風に思えるようになっています。きっと、読後感もさっぱりして、前向きな気持ちになれることでしょう。
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